時が経つのは早いものだ。二度目のパーティに出席しながら思う。
歴史に残る戦いだった事は理解している。多くの生命が喪われたあの日から二年目の今日、ホグワーツの広間は沢山の人で溢れていた。
癒えない傷を抱きながら、それでも平和を分かち合い笑い合う。遠くへ行ってしまった家族、友人、恋人達に黙祷を捧げるその瞬間、傍らに立つ黒衣の男は何を想っただろうか。
「ハリーは大変だねぇ」
人集りの中心で困ったように笑う親友を眺めながら酒を飲む。何て贅沢。呟けばロンが「いい性格してるよ」と呆れたように言った。
「どう? 闇祓いの仕事」
「まだ研修期間中だよ。覚えること沢山あるし、色々面倒なことだってあるし……」
思い出させないでくれよ。肩を落とすロンに「お疲れ」とチキンを差し出せば嫌な顔をされた。解せない。
「ハーマイオニーは?」
「勿論頑張ってるわよ。そう簡単にいくとは思わないけど……でも、絶対に変えてみせるわ」
学生時代誰よりも優秀な成績を修めたハーマイオニーは、現在、屋敷しもべ妖精達の地位を向上させたいと魔法生物規制管理部に勤めている。学生時代から屋敷しもべ妖精が奴隷のように扱われることを嫌っていたのは知っていたが、本気で変えようとするとは思ってもみなかった。まっすぐ前を向いて進み続けるハーマイオニーが眩しい。
いつかは純血支持法を取っ払ってみせると豪語する彼女は、遠くない未来、マグル生まれの魔法使いや魔女達に英雄と呼ばれるようになるのだろう。
「出来るよ、ハーマイオニーなら」
諦める事を知らない彼女だから。どこまでも直向きな彼女だから。
ルーシーの返事が予想外だったのか、目を丸くしたハーマイオニーが心配そうに覗きこんでくる。
「何かあったの?」
「何故そうなる」
「だって……ルーシーがそんなこと言うなんて……」
「ねぇ、ハーマイオニー。私らって友達じゃなかったっけ?」
あれ、私の勘違いだっけ? と首を傾げたくなってしまうほどの驚きよう。傍らのスネイプが嘲るように笑った。
「お前を知っていれば誰だってそう言う」
「うっさい黙れハゲ」
小さな声で吐き捨てれば「ハゲてなどない!」と怒鳴り声。無視して新たに酒が注がれたゴブレットを呷る。ごっくごっくと飲み干すルーシーにハーマイオニーとロンが呆れたような顔をした。
「酔っ払って暴れ出さないでね」
「そんなことすると思うの?」
「君なら何でも有りそうだよ」
呟くロンをじとりと睨みつけて鼻を鳴らす。酷い友人達だ。
大衆に囲まれて助けを求めるハリーをのんびり眺めて酒を飲むルーシーに言えた口ではないのだけれど。
漸く解放されたハリーと四人で改めて乾杯をして、互いの近況を話し合った。
ハリーはジニーと上手くいっているようだし、ロンとハーマイオニーもくだらない事で喧嘩ばかりしているようだが結局は仲良しだ。些細な喧嘩など、学生時代から嫌というほどしていた二人だ。喧嘩が一種のコミュニケーションになっているのだろう。
「ルーシーは?」
「そうだなぁ……スネイプの研究を引き継いでずっとやってたんだけど、ついこの間、漸く一つ完成したよ」
沢山怒鳴られて、怒鳴り返して。
ああでもない、こうでもない――寝る間も惜しんで試行錯誤を繰り返し、漸く完成した。感極まってスネイプに抱きつこうとしたけれど見事にすり抜け、床にべしゃりと落ちて嗤われた。思い返すだけで腹立たしい。
「そうじゃなくて! 貴方、ずっと一人でいるつもり?」
「まだ二十歳じゃん」
笑えば「もう!」と怒られた。
分かっている。誰も彼もが未来を見据えていて、夢や目標に向かって邁進している。研究所に閉じこもり研究ばかりのルーシーを心配してくれているのだろう。
「私にだって夢くらいあるよ」
「その夢は私達には教えて頂けないのかしら?」
つんと気取った言い方をするハーマイオニーに「いいよ」と答えて手招き。
真剣な顔を寄せた三人に、ルーシーはきりりと真面目な顔で囁いた。
「働かず毎日ごろごろして暮らす」
どうだとばかりに胸を張れば、般若のような顔をしたハーマイオニーから散々説教を食らった。その横ではスネイプが同じように説教をしている。そそくさと逃げるハリーとロンを恨めしく思いながら、ルーシーは二人の説教を聞く羽目になる。
死にたがりな保護者
パーティを終えて家に帰ってきたルーシーはよろよろと覚束ない足取りでベッドに倒れ込む。未だ耳がキンキンして痛い。頭がガンガンする。自業自得だと吐き捨てるスネイプに説教はもう十分だと呻けば、足りないくらいだと後頭部に杖を突き立てられた。
「もう勘弁して……」
「あの場面であのような戯言を言うその度胸だけは褒めてやる。さすが勇気のグリフィンドールだ」
皮肉たっぷりのそれに舌打ちをして枕に顔を埋める。
「本気だったんだけどなぁ」
「本気でそう思っていたのだとしたら、貴様は救いようのない大馬鹿者だ。他の誰よりも時間に縛られる職業を選んでおいて、何が働かずごろごろしたいだ」
「そうは言うけどね、私だってちゃんと考えてるんだよ」
むくりと起き上がりベッドの上に正座をすれば、片眉を上げたスネイプが話してみろとベッドに腰かける。浮くことなど出来ないくせに、座ろうとすればこうして腰が浮くのだから不思議だ。
「新薬でがっぽり稼いでからニートになる。どう? 名案でしょう!」
再び説教が始まった事は言うまでもない。
→ 10.不可解なパートナー