『その他大勢』――それがスネイプにとってのルーシーの印象だった。
大嫌いな男に生き写しのハリー・ポッター
問題児達の弟で反抗的なロン・ウィーズリー
成績優秀で出しゃばりなハーマイオニー・グレンジャー
その三人は嫌でもスネイプの目についたというのに、三人と行動を共にしていたルーシー・カトレットという生徒に対しては特に何の感想も抱かなかった。成績が優秀というわけでもなく、ネビル・ロングボトムのように破滅的というわけでもない。
ハリーが減点されようが、ロンが罰則を受けようが、ハーマイオニーが泣かされようが、ルーシー・カトレットが何かアクションを起こすことはなかった。グリフィンドールの点数を心配してのことだったのかもしれないし、ただ面倒事に関わりたくなかっただけなのかもしれない。
そんな彼女は、それでもハリー達と常に一緒だった。
トロールが城に入り込んだ時も、秘密の部屋を見つけた時も、シリウス・ブラックを捕まえた時も。
魔法省での戦いも、城に死喰い人が入り込んだ時も、ハリー達が分霊箱探しの旅に出た時も――彼女はいつだって彼らと一緒だった。
何かに秀でているわけでもなく、反抗心が強いわけでもない。
取り分け目立つことのない、ごくごく普通の生徒だった――というのが、教師として六年間ルーシーに魔法薬学を教えてきたスネイプの意見だ。
それが違ったのだと気付いたのは――気付かされたのは、一年前のこと。
口が悪く態度も悪い。反抗心が強くない? 一体誰のことだ。
ルーシー・カトレットという魔女は、どこまでもクセの強い人間だった。
腹立たしい程に反抗的だったハリーやロンが可愛く見えるくらい――実際、見えるわけがないが――反抗的で、口が悪い。今でこそゴーストのような曖昧な存在となっているが、それでも六年間ずっとホグワーツで教師として授業を行ってきたのだ。言葉遣いくらいまともなものにして然るべきではないか。
授業では欠伸をかみ殺し、ノートだって汚い。
平気で舌打ちだってするし、無神経な発言など数え出したらキリがない。
個人授業のような事を行ってスネイプは初めて気付いた。頭が悪いわけではない。魔法薬だって変身術だって呪文学だって、ハーマイオニー程ではないけれど、それなりの成績を残せていたはずだ。真面目にやっていれば。
何故最初から真面目にやらないのかと尋ね、将来使わないと思ったからと返ってきたのはルーシーの傍を離れられなくなってひと月経った頃のこと。
卒業したらマグルの世界に戻ると思ったから――そう答えたルーシーは、魔法界を恐怖と混乱に陥れたヴォルデモート卿や死喰い人達と戦う第一線にいた。ヴォルデモート卿に生命を狙われたハリーの隣にいた。いつだっていた。逃げることなく、最後まで。
「矛盾していると思わんか? お前は何から何までデタラメだ」
マグルの世界に戻ると思っていたくせに、ルーシーが選んだのは魔法薬学の道だ。
スネイプの個人授業の時間を増やし、昼夜を問わず勉強を続け、魔法省直轄の研究所に採用された。
わけが分からない。
この一年間ルーシーと共にいたスネイプでさえ、そう思う。
ハリー達もルーシーの進路を聞いて大層驚いていたのだから、きっとスネイプと同じ程度にしか理解していなかったのだろう。
「失礼な。デタラメって何さ」
「お前のことでなければ何だと言うのだ」
「私だって一応考えてるんですよ。これでいいの」
支給された白衣に袖を通して笑うルーシーをじっと見つめるが、答えが得られるわけでもない。
溜息を一つ落として、スネイプは資料を広げるように指示した。研究所に採用が決まり、スネイプの家まで取りに行かせたものだ。教師として働く傍ら続けてきた研究途中の資料――手に入れるのは骨が折れたが、英雄と謳われるハリーに少しばかり口を利いてもらって手に入れた。
惚れた男の研究を完成させたい――ルーシーの提案した入手方法には少しばかり抵抗があったけれど、どうせ抗議した所でスネイプには何も出来やしない。せいぜい頭にグサグサと杖を突き立てることくらいだ。
「さ、始めよう」
考えたところで分かりはしないのだ。
研究が再開出来るのなら、喜んでそうしようではないか。
不可解な宿主
「違う、次はこっちだ」
「やだ。私はこれを入れたい」
言うなりルーシーがイラクサの根を鍋に放り入れる。どかん。爆発音が響き渡った。
「だから言っただろう! 相反する二つのものを入れたら拒絶反応が起こると教えたはずだ!!」
「言ったのは茎を使った時だろ! 根っこなら大丈夫かなって思うじゃん!!」
「愚か者め!! さっさと片付けろ!」
「うっせーバカ!!」
馬鹿はどっちだ。片付けをするルーシーの背中に杖をぐさぐさと刺してスネイプは思う。
この研究の成果が出る日は永遠に来ないかもしれない。
→ 09.死にたがりな保護者