死にたがりのはなし


厚意で墓参りに連れて行ってやったというのに、スネイプの反応は散々なものだった。
苛立ちを紛らわせる為に雪玉を投げつけてやったが、当然ながら身体をすり抜けるだけ。学習しないのかね? などと嘲笑されてしまえば怒りは増大するばかり。顔面をすり抜けさせて嫌な思いをさせてやろうと、躍起になって雪玉を投げまくったのが昨日のこと。

ホグワーツほど広くない実家の風呂では、スネイプはドアとほぼ一体となっていた。ドアから突き出る真っ黒な後ろ姿に水をかけて怒られたのは余談である。
早く出ろ、まだ終わらないのか、いい加減にしろ――煩く急かすスネイプにくそったれと吐き捨てて風呂を出たのだけれど、髪を乾かさずに寝てしまったのが敗因だろう。

風邪をひいた。

「げほっ、ごほっ」
「自業自得だ」

寝込むルーシーのすぐ傍で腕を組むスネイプがこちらを見下ろしている。具合が悪い時にまでスネイプといなければならないなんて地獄だ。何度でも言う。地獄だ。

「げほっ……せんせーが、せかす、からだも……」
「人の所為にしないで頂きたいものだ。君がちゃんと髪を乾かさないからだろう」
「だって、めんどくさいんだもん」

今まではそれでも風邪なんてひかなかった。だからやっぱりスネイプの所為だ。そう訴えれば溜息が返ってくる。
サイドテーブルには母が用意してくれたクリームスープが手をつけないままで残っている。持って来てくれた時に魔法をかけて温度を保っているものの、一向に食欲が湧かない。

「しぬ……」
「君みたいな人間はそう簡単に死なん」
「だといいんだけど」

まだ死にたくはない。生きる目的なんてものはないし、将来の夢なんてものも特に決まってはいないけれど、それでもあの戦いで生き延びた以上、一生懸命生きなければならないと思うのだ。

「せんせーも、だめだよ」

返事が来ないことに「ばか」と呟いてルーシーは目を閉じる。
予期せずスネイプと共に行動する事になってからおよそ四ヶ月。相変わらずスネイプは嫌な奴だし、口煩いし、早く消えてくれと願っている。
けれど、それはスネイプが目を覚ました時だ。スネイプの本体が目を覚まして、今ここにいるスネイプが消え去る――それがルーシーの思い描くさよならの瞬間だ。決して本体の死亡と共にゴーストのスネイプが消え去るという事ではない。

大体、何故そんなにも死を望むのか。
スネイプがどれだけリリー・ポッターを愛していたのか、ルーシーには計り知れない。大嫌いなジェームズ・ポッターに生き写しのハリーを、生命を懸けて護り抜いた――それは全てリリーの為であり、リリーを想うスネイプ自身の為だ。

けれど、そんなの悲しいではないか。
好きで、受け入れてもらえなくて、それでも好きで。

太陽なんかじゃない。以前スネイプに言ったことを思い出して呟く。
この数ヶ月でセブルス・スネイプという人間を前以上に知った。別に知りたくなんてなかったけれど知ってしまった。だからこそ、思う。

これほどまでにスネイプを支配するリリー・ポッターという存在こそ、セブルス・スネイプにとっての闇そのものではないか、と。

「そんなの、かなしいよ」
「………何故、君が泣く」

苦々しげな声に瞼を押し上げれば、苦い顔のスネイプが滲む。

「ないてない」

泣いてなどやらない。自分を大切にする事も出来ない者の為に、何故涙など流してやらなければならないのだ。

「せんせーの、よわむし」

生きる理由が無いなんて、ただ怖がっているだけだ。
リリー・ポッター以外の理由を考えるのが怖いだけ。それ以外の理由を見つけてしまうのが怖いだけ。
自分には何も必要ないと思い込んで、リリー・ポッターという闇の中で蹲っているだけだ。

「ばか、ばかだ」
「…………寝ろ」

熱に浮かされた病人だから、とでも考えているのだろう。
全て病人の譫言だと自分に言い聞かせるスネイプは、弱虫以外の何だというのか。





死にたがりな臆病者





スネイプの手のひらが目を覆う。
瞼に感じる、ゴースト特有の冷気。こんな状態になって、それでも生きている。それはスネイプが生きる事を望んだから――そう思ってはいけないのだろうか。

「あるよ、きっと」
「………」
「たのしいこと、いっぱい」

悲しいことも苦しいこともあるだろう。けれど、それだけではないと思うのだ。
楽しいことも、嬉しいことも、必ずあるはずだ。あるに決まっている。

「…………寝なさい」

静かな声が降ってくる。

「――――」

微睡みの中で何かを呟いたけれど、何と言ったのか、ルーシー自身にも分からなかった。


07.死にたがりの心配性