05


「ハッ、こんな問題も分からねぇのか」

生きてる価値ねぇな。

一時間目は数学。
小テストを前にうんうん唸っていた私の頭上からテストを覗き込んだ幽霊様は、テスト用紙をパッと見るとすぐにそう言って鼻で嗤ってくださった。
ちくしょう、テスト用紙がぼやけるぜ。おかしいな、何かが頬を伝ってる。

「はいそこまでー。後ろから集めて」

簡単だったろ?だって。
このクソ教師、追い打ちかけてんじゃねぇよ。

「人は見かけに寄らねぇって言うが、テメェは見たまんまだな」
「………幽霊さんもね」

小さな小さな声(ホンットに小さくしたよ!!)で呟いたはずなのに、一気に五発撃ち抜かれました。
両目、鼻、口を冷たい何かが素通りしていったかと思ったら、最後に脳天ぶち抜かれました。頭の天辺から真っ直ぐズドンだよ死ぬかと思ったよ。

「す、すぐぶっ放すのやめてください……」
「あ?」
「ごめんなさい何でもないですすみませんでした」
「リサ? さっきからどうしたの?」

隣の席の子に心配そうに呼びかけられた。頭おかしい子って思われたかもしれない。
何でもない、ごめんと笑って誤魔化したけど、多分私の顔は引き攣ってただろう。
チラリと幽霊の方を見れば、ハッて鼻で嗤われた。

この幽霊、絶対今日中に成仏させてやる。

二時間目の体育はバレーボールで、バレー部の子のスパイクを受けるどころかビビッて避けてしまった私はまたもや幽霊に嘲笑われた。
三時間目の国語は、どうやら幽霊さん散歩に出かけたらしい。教室には見当たらなかった。窓の外の木に真っ黒な人物がいたように見えたのはきっと気の所為だ。
四時間目の英語では「カス共の無様な発音は聞くに耐えねぇ」と仰ってまたもや何処かへ行きました。先生の発音すら気に入らなかったらしいです。

「おい、肉を寄越せ」

昼食の時間、今日は天気が良いから外で食べようかななんて考えてると聞こえてきた声。

「……いや、だって食べれないじゃないですか」
「どうにかしろ」
「わ、私にどうしろと……!?」
「テメェの所為でこうなったんだろうが」
「し、知らないですよ! 濡れ衣です!」

貴方を私に縛り付けて私に何の得があるんですか!?

そう訴えたら、幽霊さんは舌打ちと共に黙り込んだ。どうやら取り敢えずは納得してくれたらしい。

「外に出ろ」
「へ?」
「こんな煩ェところにいられるか」

まぁ……確かに賑やかではあるな。
共学がどれほど賑やかなのかは分からないけど、それほど大差ないと思う。

「いや、でもいつもはクラスの子と一緒に……」
「あ?」

その「何だテメェ、俺様の言うことが聞けねぇのか? あぁん?」みたいな「あ?」を止めてください。
心の中で呟いたはずなのに「黙れカス」と銃を向けられた。この幽霊、心が読めるらしい。つくづく恐ろしい幽霊だ。

「リサー、ごはん食べよう!」
「あ……えーと、ごめん………今日は外行ってくるね」
「あ、そうなの? 分かったー、行ってらっしゃい」

笑顔で了承してくれた友人に感謝しつつ教室を後にした。
……もしかしたら、別に私なんかいなくても困らないって事かもしれないけど。

「使えねぇからな、テメェは」
「すみません心の声に相槌打つの止めてくれませんか」

ついでに追い打ちかけるのも止めてください。
涙目でそう訴えたら鼻で嗤われた。世の中って理不尽だと思う。

屋上に上がってみると、いくつかのグループが見つかった。上履きの学年カラーは二年とか三年ばっかで、同級生の色は見当たらなかった。

「おい、カス。俺は静かな場所に行けっつってんだよ」
「えーと……多分、何処も人がいると思うのですが………」

校外に出ることは禁じられてますし。
そう告げれば幽霊さんは再び舌打ちをして何処かに飛んでいった。

あれ、これじゃ私が友達の誘いを断った意味は……?

寂しい想いをしながら、屋上の片隅で一人ひっそりとお弁当を食べる私。
せっかく作ったお弁当だけど、何だか味気ない。

「………はぁ」

一人が嫌いってわけじゃないけど、何だかんだ言っていつもクラスの子達と一緒にお昼食べてるから、こうやって一人にになると寂しさがこみ上げてくる。
離れたところから聞こえる先輩たちの楽しげな笑い声が寂しさを更に増幅させる。
幽霊さん、お昼ご飯食べてる間だけでも戻ってきてくれないかなぁ。

「チッ、ダメか」

不機嫌極まりない声と共にふわりと舞い降りて来たのは紛れもなく幽霊さんで、ポカンと間抜けな顔をしてる私を見下ろしてから物凄く嫌な顔をされた。

「何だ」
「何処に行ってたんですか?」
「………テメェに言う必要はねぇ」

壁に寄りかかって(実際はすり抜けちゃうからポーズだけだけど)目を閉じた幽霊さんは、多分どうにかして私から離れようとしてたんだろう。
話しかけるなというオーラを醸し出す幽霊さんは何処か拗ねているようにも見えて、ほんのちょっとだけ笑みが零れた。

「何笑ってやがる」
「あの……撃ちながら問いかけるの止めてもらえませんか……?」

心臓に悪いんです。
知るか。

「次は何だ」
「授業ですか? 次は英語です」
「ドカスが。もうやっただろうが」
「さっきのとは別なんです、今度はライティングだから文法とかです」
「ハッ、くだらねぇ」
「私、英語苦手なんですよね」

とんだカスだな。嘲る幽霊はこの上なくご機嫌でした。
私を見下す時だけ生き生きするってどうなんですか、人として。あ、人じゃなくて幽霊か。

「あの……何かコツとかありませんか? その、勉強の」
「テキスト見て理解出来ねぇ奴はカスだ」

テメェもカスだ、何やっても無駄だ
……的確な答えをありがとうございます





頭の良い人って近寄りがたいけど、幽霊もそうなんですね。





早く放課後になってくれ。心からそう願った昼下がり。