09


ERRORが一命を取り留めたという話はあっという間に船中に伝わり、そこかしこで誰もが良かったと喜び合っている。
それでも心の底から笑い合えていないことは顔を見れば明白だった。良かったと口にしているものの、みんなはまだ困惑の渦中にいる。

マルコさんが泣いていた。リサの元気がない。エース君も私も元気がない。みんなが心配してくれている。イゾウさん達はいつも通りに振る舞っているけど、それでも敏い人達は気付いてしまったんだろう。

ERRORは面会禁止。エース君は特別にERRORの所に入り浸ってるし、私もサッチさんも許可をもらったから会いに行った。でも、リサもマルコさんも医務室には行っていない。二人が医務室に近寄っていないという事実に誰もが困惑しているし、重大な何かがあるんだって分かってる。聞かずにいてくれる優しさがありがたかった。だって何と答えたら良いのか分からないから。

「ねえドクター、いつになったら退院出来るの?」
「傷が塞がって熱も下がって元気になったらな。まだまだ先だ」

ペンで頭を掻きながらドクターが答える。図らずも私とエース君から同時に溜息が漏れた。

「早く熱下がるといいな」
「ありがと。心配かけてごめんね」

ベッドに横たわるERRORは笑っているけど元気がない。当然だ。私とエース君がこれだけショックだったんだもん。ERRORがどれほど辛いのか計り知れない。
エース君のおかげで少しずつ笑えるようにはなってきたけど、目の下には隈が出来てるし、瞼も少し腫れている。
ERRORがこんなに悲しんでいるのが許せなくて、マルコさんの馬鹿って思う。その数分後には元気のないマルコさんを見て怒りが萎んじゃうんだけどね。

元気だしてなんて言えない。気にしない方がいいよなんて、余計に傷つけるだけでしかないことも分かってる。それなら私は何て言ってあげたらいいんだろう?

私もあの日以来マルコさんと話してない。顔を合わせても何を言ったらいいのか分からない。思い切り責めてやりたいって思うのに、顔を見たら何も言えなくなっちゃう。結局「おはよう」だとか「おやすみ」だとか、そんな挨拶しか出来ない私にマルコさんも「おう」とか「ああ」としか返さない。

マルコさんとリサは話をしてるのかな? 気になるけど、リサとも話をしてないから分からない。サッチさんは毎日厨房でリサと話をしてるみたいだけど、今はそっとしといてやれって言われたから挨拶だけ。

今のモビーはぎこちなくて、ギスギスしてて、居心地が悪い。

「ごめんね」

考え込んでいた私にERRORが呟いた。ハッと顔を上げると、俯きがちなERRORが泣きそうな顔で笑っている。きゅう、って心臓が痛くなった。

ERRORが謝ることなんかない! ERRORは悪くないんだから!」
「あぁ、ERRORは悪くねぇ」

顔を上げたERRORが笑ってる。辛いなら無理して笑わなくていいのに。そんなことして欲しくないのに、何て言ったらいいのか分からなくて私はただ馬鹿みたいにERRORを見つめた。

「ちゃんとね、話さなきゃって分かってるんだよ。リサと話して、ちゃんと受け止めなきゃって……でも、今会ったら酷いこと言っちゃいそうで……」
「言ってやりゃあ良いだろ」

割って入った声はドクターのものだ。相変わらず難しい医学書を読みながら、羊皮紙に何かを書き込んでいっている。パラパラとページを捲る手を止め、顔を上げたドクターは呆れたような顔をしていた。

「あいつらが我慢して、お前まで我慢したらいつまで経っても話は進まねぇだろうが」
「我慢……やっぱり、怒ってるよね。アタシ、会いたくないってリサのこと追い出したし、マルコさんにも出てって、って言っちゃったから……」
「なーに馬鹿なこと言ってんのよ」

驚いた。いつの間にかサッチさんが来ていた。ドアが開いたの気付かなかった……。
ERRORのための病人食を持ってきたサッチさんは、サイドテーブルにお盆を置くとERRORの頭をわしゃわしゃと撫でつける。

「あのなぁ。あいつらがしてる我慢ってのは、ERRORちゃんに怒ってるって意味じゃねーのよ。分かってるか?」
「でも……」
「あいつらはただ、ERRORちゃんに会いたいのを我慢してるんだよ」

ハッと息を呑んだERRORがサッチさんを見上げる。縋るような目に涙が溜まっていくのが見えた。

「大好きなERRORちゃんに会いたくて会いたくて、でも必死に我慢してんの。会ったらERRORちゃんが苦しむからってな」
「、でも、でも、アタシ」
「良いんだよ、思ったまま言ってやれば。馬鹿とかアホとかふざけんなとか、思ったことぜーんぶぶちまけてやりゃ良いんだ。無理して聞き分けの良い子になんなくて良いんだよ」
「サッチさん……」
「ほらな。だから俺、言っただろ。好きにすりゃ良いんだって」

お盆からお皿を取ってERRORに手渡しながらエース君が笑う。

「心配すんな。あいつら、ERRORのこと絶対嫌いになんかなれねぇから」
「そうそう。なりたくてもねれねぇから」
「今ならどんなワガママ言っても聞いてもらえるよ、絶対」

二人に続いて私もニシシと笑う。ERRORもほんの少しだけ笑った。