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血まみれのERRORを船に連れ帰ると、船は一気に騒がしくなった。
船番をしていた奴らが血相変えて「何があったんだ!?」と駆け寄ってくるけど、今はこいつらに説明している暇はない。

「悪ィ! 後で説明する!! 退いてくれ!!」

道を塞ぐ奴らを突き飛ばすようにして医務室へ急いだ。
早く。 一秒でも早くERRORを――!!

「ドクター!! 助けてくれ!!!」

勢いよく医務室に飛び込むと、楽しげに話をしていたらしいドクターとナースたちが一斉に振り返った。誰もが驚いた顔で俺を見て、けどすぐに俺の腕の中のERRORの状態に気付いて強ばる。

「こっちへ!」
「あぁ……!」

指示されたベッドへとERRORを寝かせれば、真っ白なシーツはあっという間に赤に染まった。折角の綺麗なドレスも血の色に染まっている。乾いて黒ずんだ血の色にグッと奥歯を噛み締めた。こんな色、ERRORには似合わねぇ。
ベッドに横たえられたERRORの顔はすっかり血の気を失っていて、いつ死んでもおかしくない状態だって事くらい俺にだって分かる。

「なぁ、ドクター……っ、頼む、助けてくれよ……ERRORを……っ、死なせねぇでくれ……!!」

頼む。頼むよ。お願いだから。
助けてくれ、助けてくれ……!!

「隊長! 邪魔です!!」

縋り付く俺を引き剥がしたのは、ナースの中でもそれなりに古株なシュガーだった。
他のナースたちとは着飾り方が全く違うこのナースが、俺は少し苦手だ。それは眉や鼻に沢山ついたピアスの所為かもしれないし、滅多に変わらない表情の所為かもしれない。いや、もしかしたらどこまでも真っ直ぐに見つめてくる目かも。何とかっていう化粧道具でいつだって目の周りには濃い色がついてるし、首に嵌められた錨のついたチョーカーはちょっとカッコイイと思うけど、そこから耳のピアスに繋がる鎖は好きじゃない。
シュガーなんて甘い名前だってのに、いつだって睨むように俺たちを見据えるこのナースには甘さの欠片も見当たらない。
つまりは、俺が苦手な部類の人間で。そんなシュガーに面と向かって邪魔と怒鳴りつけられた俺は、言い返すことも出来ずに部屋の隅っこに移動して小さくなった。 どっちにしろ俺に出来ることなんて何もない。あとはドクターたちに頼るしかない。
本当は出て行って欲しかったんだろう、シュガーが何か言いたげに俺を見たけど、気を遣ってくれたのか結局は何も言わずに慌ただしく作業を再開した。

カツカツと絶え間なく響くヒールの音が煩わしい。だって、そうだろ?
どうやってるのか、いつもは気にならない程度にしか聞こえないヒールの音がこんなにも煩く聞こえるなんて、ナースたちが焦っているっていう何よりの証拠だ。

ERROR……」

助かってくれ、頼むから。
恐怖に震える身体をどうすることも出来ないまま、俺は俄かに騒がしくなった医務室の隅っこで膝を抱え続けた。




「、クソッ……!!」

どれくらい経っただろうか。焦ったような、悔しがっているような――ドクターのそんな声で顔を上げた俺は、カーテンの向こうから漂ってくる嫌な空気に息を呑んだ。

「ど、うしたんだ……?」

何か、あったのか……?
まさか、死――?

おそるおそるベッドへ近寄る俺の顔も、きっとERRORと同じくらい蒼白なんだろう。 拳を握り締めたドクターが、ベッドに横たわるERRORを見下ろして悔しげに顔を歪めていた。

「ドクター……?」
「………」
「なぁ……大丈夫、だよな? ERROR、助かるよな……?」

ドクターからの返事はない。

「っ、なぁ……!! 何とか言えよ!! ドクター!!」
「エース隊長、お静かに――」
「るせェ……!!」
「っ、」

肩に乗せられた手を思い切り振り払えば、俺よりも小さなシュガーの身体は何の抵抗もないまま床に倒れ込んだ。

「シュガー!」

慌てて駆け寄る古参ナースのサンドラに支えられて起き上がるシュガーに、けど俺は視線を向ける余裕すらなくて。

「なぁ、ドクター! 頼むよ!! 助けてくれよ……っ!!!」
「エース、落ち着いて」
「エリザ!! 頼む! 助けてくれよ……!! 死なないよな!? だって、そんな……っ、なぁ、何とか言ってくれよ……っ!!!」

俺が叫ぶたびに、ドクターはきつく拳を握り締めて歯を食い縛る。
止めてくれよ、そんなの、まるで……ERRORが助けられないみたいじゃねぇか……!!
いやだ。そんなの、絶対に嫌だ――!!

「っ、ERROR!! ERRORERROR……!! なぁ、ERROR!! 起きろよ……っ!!」
「エース、止めなさい!」
ERROR! ERROR!! ERROR――……っ!!!」

頼むから、死なないでくれ。
溢れた涙がERRORの頬に落ちたその時、背後の扉が勢いよく開いた。 慌ただしい足音がどんどん近づいてくる。

ERROR!!」
「ドクター! ERRORは!?」

やってきたのはリサとマルコだった。
腹に包帯を巻かれた状態のERRORの、相変わらず血の気のない顔を見て二人が息を呑む音が後ろから聞こえる。

「ドクター……?」

微かに震えたマルコの声がドクターを呼んだ。

「………ERRORの血液型は、XF型RH−だ」

耐えるように食いしばった歯の隙間から、ドクターが唸るように声を搾り出す。 誰かが息を呑んだ。

「ただでさえ少ないXF型で、しかもRH−………ストックはほんの少ししかねぇし、この船にだってそんな珍しい血液型の奴は――」

言いかけたドクターが何か思いついたのか言葉を切った。少しだけ見開かれた目に輝きが戻ってきたように思えた。

「待てよ……確か、」
「――マルコさん」

静かな声がドクターの呟きを掻き消した。
血が足りなくてERRORが死ぬかもしれねぇってのに、ドクターから話を聞いたリサは至って冷静な様子でマルコを見上げている。マルコが驚いてリサを見下ろした。

「同じなんじゃないですか?」
「――、どうしてそれを……」
「同じじゃないかって思ってました。私は違うから……」

静まり返る医務室の中、リサは確信した様子で真っ直ぐマルコを見つめていた。

「リサ……?」
「、まさか――」

戸惑うマルコの傍らで、何かに気付いたかのようにエリザが声を漏らす。

「そんな……」
「え? な、何だよ……どういう……?」

わけが分かんなくてキョロキョロと忙しなく周りを見渡す俺に、けど答えをくれる奴は誰もいない。皆がエリザと同じように目を丸くしてリサとマルコとを交互に見つめていた。

「合うはずなんです、マルコさんなら……」

そっと目を伏せたリサが静かに告げる。
俺たちの誰もが欠片も想像してなかった真実を。


ERRORの父親なら』


マルコが、ERRORの父親だってことを。