10


「ん、んんっ?」

いけね。また寝てた。
せっかくタミが気を利かせてくれてERRORと二人だってのに、緊張紛らわす為に飯屋に入ったらいつものように寝ちまった。

「悪ィ、ERROR――あれ?」

顔についたご飯粒やらソースやらを拭いながら、向かいに座るERRORへと視線を向けたはずだった。
けど、そこには誰もいない。キョロキョロと店内を見回してみてもERRORの姿は見つからない。

「どこ行ったんだ?」
「一緒にいた嬢ちゃんなら、お仲間探しに行ったよ」

やっと起きたのかい。笑う店主のおっちゃんの言葉に目を丸くする。

「探しに? って、タミをか?」
「あぁ、探してすぐに戻ってくるから、待っててくれだと」

それからもう一つ伝言だ。
ニヤリと笑ったおっちゃんに、何だか嫌な予感がする。

「『バーカバーカ、エースのおたんこなす!』だとよ」
「………!!」

やべぇ!怒らせちまった!
一瞬で青褪めた俺におっちゃんは声を上げて笑って、代金はもうもらってるよ、と付け足す。
残りの飯を急いで掻っ込んで、ご馳走様と叫びながら俺は飯屋を後にした。

「ERRORー!! タミー!!」

歩き回りながら声を張ってみるけど、返事はない。ERRORの姿もタミの姿も見当たらねぇ。
おっかしいな、どこ行ったんだ?

「ERRORー!!」

何でだろうか。
何か、嫌な予感がする。

ERRORはどこに行ったんだ?
タミはどこに行ったんだ?

「………あそこ、ERRORっぽいな」

街外れの高台に見える金持ちが住んでそうな屋敷。何か怪しい。
確か、マルコが領主がどうのこうのって言ってたな。何つってたか忘れたけど。

「よし、行ってみっか!」

両足にグッと力を篭めて、屋敷へ向かって駆け出した。




数分もしない内に辿り着いた屋敷。
門番にERRORのことを聞いてみれば、知らないと即答された。

けど、俺の勘がERRORはここにいると告げている。

何でERRORがこんな所にいるのか、とか。
何で門番がしらばっくれるのか、とか。
そんなこと考える時間すら惜しい。

とにかく、突っ込んでみるしかねぇ。

「ERROR、待ってろよ!」

塀をよじ登って、いざ屋敷に乗り込もうとしたその時だ。

「貴様! そこで何をしている!!」
「やべっ!」

見つかった!けど、止まってる暇なんてない。

「悪ィ! ちょっとお邪魔します!!」
「なっ……!」

屋敷の二階の窓を叩き割って中へと入り込めば、ふかふかの柔らかい絨毯が俺を迎えてくれた。

「うおっ、すげぇ! ――っと、こんなことしてる場合じゃねぇ!」

アイツらが来る前に、ERRORを見つけ出さねぇと!

「ERRORー!! どこだー!!!」

手当たり次第に扉を開けて中を確認していくが、ERRORの姿はまだ見つからない。
どの部屋も客室ってやつなんだろう。無駄にゴテゴテしてて、生活感が欠片も感じられない。
俺だったら一日も保たねぇな、なんて思いながら次の扉を勢いよく開け放った。

そこは、それまでの部屋とはどこか違っていた。
生活感はない。けど、その部屋にだけは大きな額縁が飾られていた。
何故だかそれが無性に気になって足を踏み入れて、額縁の前に立つ。

「………ERROR?」

綺麗なドレスを身に纏って微笑むのは、ERRORにそっくりな女だ。
一瞬ERRORかと思ったけど、ERRORじゃない、気がする。
微笑んでいるその顔は、まるで人形のようで。

「、んだよ、これ……気持ち悪ィ……」
「エース!!」

反射的に扉を振り返れば、ずっと探していたERRORが部屋に飛び込んできた。
間違いなくERRORだ。本物だ。
けど、身に纏うものは船を降りる時に着ていたそれとは全然違う。

「ぶ……っ! ERROR、おま、おま……!」
「良かった! 来てくれたんだ!」

煌びやかなドレスを身に纏って、化粧まで施されたERRORはまるで別人みてぇだ。
畜生、顔が熱い。こんなの反則だ!

「エース?」

どうしたの?なんて首を傾げるERRORから視線を逸らして、深呼吸を二回。
よし、落ち着いた。大丈夫だ。

「なぁ、何があったんだ? その格好も……」
「そうだ! エース、早く逃げよう!」
「は?」
「アタシにもよく分かんないんだけど! 何かここの領主様がアタシを誰かと勘違いしてるみたいで……」
「もしかして、そいつか?」

額縁を指せば、ERRORの目がそちらへ向く。
うそ。目を丸くしたERRORの口から小さな声が漏れた。

「え、うわ……ホントにそっくり……」
「けど、俺その絵は好きじゃねぇよ。何か……気持ち悪ィ」
「この人がフィレイさんなんだ……そりゃ、確かに間違えるよねぇ……」

数度頷いて納得した様子のERRORが、次の瞬間叫び出す。

「そうだ! 逃げなきゃ!」
「お? お、おう?」

俺の手を引いて走り出すERROR。
引きずられるようにして部屋を後にした俺たちは、俺が叩き割った窓へ向けて走り出した。

「エース早く!! アイツ、アタシを誰かと結婚させるって言うんだよ!」
「ハァ!? 結婚!!?」
「そう! だから早く!」
「ふざけんな! 結婚なんてさせてたまるかよ!!」

ERRORを嫁にもらうのは俺だ!!
――なんて、さすがに口に出すことは出来ねぇけど。

俺が叩き割った窓まであと少し。あの角を曲がればすぐだ。
走りにくいと喚いたERRORを抱きかかえて、最後の角を曲がったその時。

「ERRORを返せえええぇぇぇ!!!」

どこからか、物凄く聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「………タミ?」
「………だよな?」

うん。
何やってんだアイツ。
腕の中のERRORと顔を見合わせて、行き先変更。声のする方へと急いだ。

「ったく、アイツまさか一人で乗り込んだんじゃねぇだろうな!?」
「まさか! そんな危ないことするはず……ない、よ………」

たぶん。
尻窄みになるERRORの声に顔が引き攣る。

有り得る。
タミなら有り得る。

でも、まさか。
そんなはずねぇよ。
だってアイツ、弱ェだろ?
頑張ってんのは知ってるけど、それでもまだまだだ。

「とにかく、急がなきゃ!」
「おう! しっかり捕まってろよ!!」
「うん!」

ぎゅっとしがみ付いたERRORに、ほんの少しばかり疚しい気持ちとか出てきたりするけど、そんな時じゃない。
声の聞こえる方へ全速力で向かった俺たちは、数十秒後、玄関ホールにずらりと並ぶ衛兵たちと対峙するリサ、マルコ、サッチ、タミの姿を見つけた。