「………も一回お願いします。誰が来るって?」
「赤髪だっつってんだろ。何度も言わせんな」
私の頭をぐりぐりしながらロナン君が面倒臭そうに教えてくれた。え、赤髪?あの赤髪?四皇の?
「海賊同士なのに仲良しなの?」
「仲良しって訳じゃねぇが、まぁ、よく呑みに来るな。イイ酒持って来るからオヤジも邪険にしねぇんだよ」
「へぇー! ぶっちゃけよく知らないんだけど、有名なんだよね?」
「仮にも四皇だからな。つーか、お前ホントにオヤジの事しか知らないんだな」
呆れたように私を見るロナン君。しょうがないと思うんだよね。だって、私のお爺ちゃんもお父さんもオヤジ様を崇拝してたんだから。島にモビーディック号が碇泊した時だって、家の中で凄かったんだから。私もだけど。そう言えば、ロナン君はまるで自分が褒められたみたいに満足気な顔で笑った。
「おーおー、パンピーにしては出来た奴らだ」
「でしょ!」
「お前の血縁者とは思えないな」
酷い!!そう叫ぶと「煩い」って頭叩かれた。ロナン君は容赦がない。何だかんだ言って優しいんだけど、私が近づくと逃げるんだよ。そんで面倒臭ェのに捕まった、ってぼやくんだよ。失礼!まぁ、結局はこうやって相手してくれるんだけどね。
「そう言えば、ロナン君って何歳なの?」
「人には言いたくねェ事の一つや二つあるもんだ」
「ふぅん。で、何歳?」
「お前には何一つ教えたくない」
「何それ!!」
酷い!!ってロナン君の耳の傍でもう一回叫ぶと、ロナン君は耳を押さえながら顰め面で私を見た。ふんだ!睨まれたって怖くなんかないぞ!こちとら、毎日のようにマルコさんに睨まれてるんだから……!!
「あの時イケメンって嘘ついてあげたのに!!」
「テメェ、あの後に俺の顔は普通だって言い切りやがったじゃねぇか! 忘れねェぞ! あの屈辱は……!!」
「………。うわぁ! ロナン君めっちゃイケメン!! 私目が良くなったみたい!! ――で、何歳?」
「さーて、仕事に戻るか」
「何それ!! 言わせたくせに! もう二度と言ってあげないんだから!」
「お前に言われても嬉しくないとだけ言っておこう」
「超失礼!!」
思い切り睨み付けると、ロナン君は「さ、戯れはここまでだ。お前も持ち場戻れ」って私の頭をポンポン叩く。畜生、ちょっと機嫌直ったじゃないか。
「顔が悪い奴はそうやってポイント稼ぐ訳か」
「いっぺん本気で殴って良いか?」
プルプル震えてる拳を見て私は慌てて逃げ出した。後ろから「覚えてろよ!!」なんて声が聞こえる。それにしても、ロナン君ホントに何歳なんだろう?多分私と変わらないと思うんだけどなぁ。一、二個上かもしれないけど。
いつもより慌ただしい船内をちんたら歩きながら食堂に向かう。扉を開けると、そこは戦場だった。厨房からはサッチさんが大声で指示を飛ばしてるのが聞こえてくるし、沢山の料理が並べられてる食堂ではエース君が涎垂らしながらそれを凝視してて、ERRORが「ダメだよ! 絶対ダメ!!」ってエース君を止めてる。
「何でこんなに忙しそうなの?」
「あ、タミ! 丁度良かった! エース止めるの手伝って!」
私に気付いたERRORがそう叫びながらエース君に後ろから抱き付いてる。………うん、それさ、多分わざとだよ。ERRORに抱き付かれるのが嬉しくて食べようとしてるフリしてるだけだから。顔がニヤけてるから。けど、口には出さない。
「ERROR、もっとしっかり捕まってれば大丈夫だよ。エース君だって、ERRORをつき飛ばしてまで食べたりしないだろうし」
「そっか! 分かった!!」
そう言って益々エース君にしがみ付くERROR。うん、ERRORとしてはエース君から料理を護ってるつもりなんだろうけどね。たまにはこうやって美味しい状況を提供してあげないとね。見てるこっちは大分楽しませてもらってるし!!エース君がチラリとこっちを見て「ナイス! タミ!!」なんて親指立ててる。顔、凄い事になってますよ。面白いからオールオーケーです。
「で、何でこんな事になってんの?」
「赤髪が来るって聞いてねぇか?」
声のする方を向けば、一人のんびりと煙管を銜えてるイゾウさん。私、実は一番仕事してないのこの人なんじゃないかな、って思うんだけど……これも口には出さない。生命が惜しい。それに、いつも髪結ってもらってるしね!敵には回したくない。
「聞いたけど……」
「いつも以上の宴会になるからなぁ、大量に作っておかねェと追いつかねェのさ。それに、一応敵だしな。飯が不味いなんて言われたくねェだろ? そういうこった」
「ふおぉぉ……大変なんだねぇ」
素直な感想を口にすれば、イゾウさんはクックッと喉を鳴らして煙を吐き出した。
「で、その赤髪ってのはいつ来るの?」
「さてねぇ……あと一時間程とは言ってたが、いつも適当だからな。そろそろ来てもおかしくな――」
「赤髪が来たぞおおぉぉぉっ!!!」
敵襲の時以上に声が廊下から聞こえてきた。イゾウさんが「ほらな」って肩を竦めて立ち上がった。厨房からサッチさんも出てきた。
「一応、隊長は集合してねェとな。おら、エースも行くぞ。ERRORもタミも来いよ」
「あ、アタシは後でいいや。リサと一緒に行くよ。タミは先に行ってて」
「分かったー」
手を振って見送ってくれるERRORを残してサッチさん達と甲板に行くと、モビー程ではないけど大きな船が接舷していた。船首は竜……なのかな?カッコイイ。けど、モビーだって負けてないんだから!何たって、モビーは鯨だよ!!可愛いんだよ!!
甲板に出てる皆はいつも以上にピリピリしてて、敵襲の時以上のそれにちょっとだけ息を呑んだ。サッチさん達についてオヤジさんの所に行くと、マルコさんが眉を寄せながら私を見る。何?と口を開こうとしたらマルコさんが船室を指しながら先に口を開いた。
「下がってろい」
「へ?」
「早く」
「はぁ……?」
言われるままに船室に戻ろうとした途端、ぞわりとした。何て言ったら良いのか分からない。とにかく、痛くて気持ち悪かった。目の前が真っ暗になっていくのを感じて足元から崩れた。誰かが支えてくれたのは分かったけど、それが誰だかは分からないまま、私は意識を手放した。
「ん……」
「お、起きたか」
目を覚ますと、目の前にはフランスパンのようなリーゼントがありました。何回か瞬きをしてサッチさんだと認識した私はゆっくりと首を動かして状況を確認。そんでもって、固まった。
「あ、の……」
「ん?」
「何故私はサッチさんに抱っこされてるのでしょうか」
どうりで温かいと思ったよ……!サッチさんの腕の中凄く温かいよ……!そんでもって、何か私は顔が凄く熱いよ……!
動揺を隠せずにいる私とは逆に、サッチさんはいつものように笑いながら少しだけ乱れた私の髪を撫でて直してくれた。
「お前がぶっ倒れたからだろ。先に言っとかなくてごめんな」
「いや、それは……あれ、私何でぶっ倒れたの?」
「覇気ってヤツさ」
「ハキ? 何それ?」
聞き慣れない単語に首を傾げれば、サッチさんは「お前は知らねェのか」って苦笑。え、それってもしかして常識ですか?
「まぁ、この船じゃ常識だ」
「知らなかった……!」
「だろうな。俺も説明した覚えねェし。ま、それは追々教えるとして、ほら。取り敢えず呑めや」
差し出されたコップを受け取って、サッチさんと乾杯。ゴクゴクと度数の低いお酒を呑みながら、自分の今の状態を思い出した。
「お、下ろせ!」
「んー?」
「下りる! 何か恥ずかしい! 重いし!」
「そんな重くねーぞ?」
「恥ずかしいっつってんでしょ! 下ろせー!!」
「断る」
は!?
「いや、タミをいじめんのも楽しいなと思って」
「バカ野郎! リーゼントコノヤロウ!! 頭の中はパイナップルか!? リーゼント折られすぎて中身乗っ取られたか!! パイナップル二号かコノヤロー!!」
「ほう? そりゃ一体誰の事か聞かせてもらおうじゃねぇか」
ゴゴゴゴ、って音が聞こえる。地の底から聞こえてくる。いや、ここ海の上だけど。振り返るのが怖い。畜生、地獄耳め……!
「全部声に出てんだよい」
「あうっ!」
マルコさんからすれば相当手加減してるんだろうけど、私からすればとんでもなく痛いデコピンを食らった。涙浮かんできたよ……!痛いよ……!!
「そんだけデケェ声で喚いといて地獄耳もクソもありゃしねぇだろい。んで、何だって? あァ?」
「ま、マルコさんだなんて一言も言ってないもん……!」
「へぇ、そうかい。俺の勘違いかい」
「そうそう! 勘違い! 被害妄想甚だしい!!」
大声で言い切ればマルコさんは無表情で私を見下ろしてから、つと視線を逸らした。その視線の先を追っていくとイゾウさんの姿があった。ハルタ君と呑んでる。ホント色っぽいなあの人。ズル過ぎるだろ。そんな事を考えてると、マルコさんがポツリと零した。
「そういや、明日はイゾウに銃の訓練を頼んだんだっけか……」
「何をう!? このパイン!! イゾウさんは怖いから週一でお願いしますって土下座しただろう!!」
「誰が、何だって? あ?」
「うぎゃあああぁぁぁぁ!!!」
顔面を鷲掴まれ持ち上げられる。刺さってる!こめかみに指突き刺さってるよ……!!
「いぎああぁぁぁ!! サッチさんヘルプミー!!!」
「ワリ、俺は俺のリーゼントのが大事だ」
「私はリーゼント以下かこんちくしょー!! ……っ、リサーーーッ!! マルコさんがいじめるよおおぉぉぉぉっっ!!!」
「な……っ、」
動揺してパイナップルが手を放す。私の身体はサッチさんの膝の上に逆戻り。肘が鳩尾に当たったらしく、サッチさんの「う……っ!」って呻きが聞こえたけど知るもんか!急いで立ち上がってパインから護ってくれる女神様とERRORを探したけど見当たらない。まだ食堂なのかなぁ?そんな事を考えてたら、突然目の前に真っ白なシャツ。そんでもって黒いマント。顔を上げると、真っ赤な髪のオッサン。うわぉ、イケメン。
「今、リサって言ったか?」
「へ?」
「あぁ、すまない。先に自己紹介だな。俺はシャンクスだ。よろしく」
「あ、タミです。よろしくー」
人懐こい笑みを浮かべながら差し出された手に、私も挨拶をしながら手をだした。握手してる手をブンブン振りながら、シャンクスさんは「それで」と私に顔を近付けた。
「リサって言ったか?」
「え? あ、はい……それが何か?」
「リサがいるのか? この船に?」
「います、けど……知り合いなんですか?」
「何でテメェがリサを知ってんだよい」
いつの間にか私の背後に立ってたマルコさん。さすが、リサの事となると速い。と言うか、甲板中が私らに注目してた。
「俺の知ってるリサかどうかは分からないが、多分そうだろうなと思って。んで、リサは何処だ?マルコ」
「テメェに教える義理は――」
「シャンクス!!」
マルコさんの声を掻き消すくらいの大声が甲板中に響いた。そんでもって、シャンクスさんに何かが飛び付いた。反射的に一歩退くとマルコさんらしき人に背中が当たった。「あ、ごめん」って謝ってからもう一度シャンクスさん達を振り返る。シャンクスさんに抱き付いていたのはERRORだった。え、ERROR?シャンクスさんもERRORを抱きしめながらニッコニコ笑ってる。
「おぉ! お前ERRORか!? 何で白ひげにいるんだ、攫われたのか? しっかし、暫く見ない内に美人になっちまって! さすが俺の娘だ!!」
一拍の間。
「「「「何ぃぃぃぃぃいいいいいい!!?」」」」
白ひげ海賊団全員の叫び声が大気を震わせた。
あ、マルコさん……。ま、いいか。