06


ラッピングを終えて船に戻ると、甲板で酒盛りをしていたラクヨウさん達の所にサッチさんの姿を見つけた。マルコさんとエース君の姿は見えない。一緒にいたイゾウさんに聞けば、二人とも部屋に戻ったんだって教えてくれた。

「アタシ、行って来るね」
「うん、頑張ってね」
「行ってらっしゃーい!」

何処か緊張した面持ちで船室に入っていくERRORの背中を見つめていると、リサも「私も行くね」って行ってしまった。多分、マルコさんの部屋に行くんだろう。

「上手く出来たか?」

イゾウさんに尋ねられて大きく頷いて隣に座った。紙袋からラッピングしたものを取り出してイゾウさんに差し出すと、イゾウさんは「何だ?」って言いながら首を傾げた。何この人、綺麗で色気があるくせに可愛らしさも持ってやがんのか。理不尽だ。

「これ、イゾウさんに」
「何だよ、そのぶっきらぼうな言い方」
「べっつにー。不公平な神様に苛々してるだけだもん」
「何だそりゃ」

笑いながらイゾウさんが私の手からラッピングされた『それ』を受け取った。不器用なりに頑張ったラッピングは、まぁそれなりに見れたものになっているはずだ。皆が野次を飛ばしながら「早く開けろよ」なんて急かしてる。
イゾウさんがリボンを解いていくのを緊張しながら見守る。大丈夫。うまく出来た。大丈夫。………でも喜んでくれなかったらどうしよう……!
ひょっこり現れた不安が一気に私の「大丈夫」って気持ちを侵していく。どうしよう、どうしよう、どうしよう。ギュッと目を閉じて俯くと、箱の蓋を開けたイゾウさんの「へぇ……」ってちょっとだけ嬉しそうな声が聞こえてきた。

「これ、タミが作ったのか?」
「うん……そう、なんだけど………あの、気に入らなかった?」
「中のこの絵は……ツバメ?」
「そう! あのね、ツバメの見本が置いてあって綺麗だなって思って!」

透明なガラスの中に紫色で描いたツバメが一羽。私の勝手なイメージで紫を使ったんだけど、やっぱりイゾウさんは紫が似合うと思うんだ。他の色も似合うけど。悔しいけど。理不尽・・!

「へぇ、ツバメねぇ……」
「え……あ、あれ………もしかして、嫌いだった……?」

最初に聞いておけば良かった……!!嫌いなの!?嫌いだったの!!?どうしよう……!
きっと酷い顔をしてたんだと思う。イゾウさんは私の顔を見て笑いながら首を振った。

「タミ、お前さん、ツバメの意味分かってんのかい?」
「へ?意味?」

そんなの知らない。ツバメって鳥がいる事も初めて知ったし……。倭の国にもいたって聞いたから「これだ!」と思って作ったんだもん。そう言えば、イゾウさんは何処か楽しそうな顔で手の中のそれを転がした。

「ツバメってのは、害虫を食ってくれるありがたい鳥なんだぜ」
「へ? 害虫?」
「ツバメの巣がある家は安全とも言われてる」
「へぇ……そうなんだ」

知らなかったと言えば、イゾウさんは手の中のそれを優しく撫でてから私に優しく微笑みかけてくれた。うおぉう!その顔貴重……!!

「ありがとうな」
「――うん!!! あのね、イゾウさんにはいつも頭やってもらってるから! 訓練も見てもらってるし、そのお礼なの!」

喜んでもらえた……!!嬉しくなって私もヘラヘラと笑えば、ふと視界の端に大きな背中が見えた。サッチさん、何で背中向けて座ってんの?あれ、リーゼント垂れてるよ?『の』の字書いてるけどどうしたの?
サッチさんの肩を叩くと、何処か拗ねた顔のサッチさんが私を見てからまた顔を逸らした。何このオッサン……!

「サッチさーん?」
「ふーんだ、サッチさんはいませんよーだ」
「は?」
「ここにいるのは傷心のサチ子ちゃんでーっす」
「いや、誰だし」

いつの間に性転換したのこの人。しかもその顔で女は無理があるでしょ。そんな事を考えながらサッチさんを見ていた私は、ふとサッチさんがどうしてこんな風になってるのか気付いた。

「え、もしかしてヤキモチ?」
「そんなんじゃありまっせーん」
「サッチさんも欲しいの?」
「べーつにィ? サチ子ちゃん、そんなモン全然欲しくなんか無いんだから」
「ふーん、そっか。いらないんだ。じゃあこれもイゾウさんにあげようかな」

袋から取り出したのはラッピングされた二つ目の箱。

「残念だなァ、サッチさんの為に頑張ったのに」
「!」
「いらないのか……。イゾウさーん、これもあ――むぐっ!」
「ダメ! 俺の!!」

私の口を手で塞ぎながら手の中にある箱を奪い取ったサッチさん。振り返ってサッチさんを見ると、リーゼントがいつもよりピーンと空を目指して突き出ていた。え、何これ。以心伝心?すごいなリーゼント。
ガサガサと包装紙を取り払って箱を開けるサッチさんの顔は物凄く嬉しそうで、何故かちょっとだけドキドキした。これだけあからさまに喜ばれると恥ずかしいけどすごく嬉しい。いや、さっきのイゾウさんの笑顔もとんでもなくドキドキだったけど……!鼻血出るかと思ったけど……!!

「………」

箱を開けて中から私が作ったガラス細工を取り出したサッチさんの顔が一瞬で固まる。あれ……。

「……あー、タミさん?」
「え、何?」
「………これは何でしょうか?」
「フランスパン」

イゾウさんのと同じように、透明なガラスの真ん中にフランスパンの絵が描いてある。これは自信作だ。上手に描けたもんね!だからこそ胸を張って答えたのに、私を見たサッチさんのリーゼントはどんどん垂れ下がっていく。何これ怖い!

「何でフランスパンとか……!」
「え、気に入らなかった!? 絶対喜んでくれると思ったのに」
「俺のこれはフランスパンじゃねェのよ!!」

自分のリーゼントを指してサッチさんが叫ぶ。それに応じてリーゼントもビーンととんがった。サッチさんのリーゼント、実は悪魔の実を食べたんじゃないの?シンシンの実とかそういうの。以心伝心するだけの実。違うの?

「えー……でも似てるし……」
「似てても違うの! タミちゃん酷い!!」

周りの皆は「良かったじゃねぇか!」「お前のそれにそっくりだ!」なんて爆笑してる。サッチさん、絶対喜んでくれると思ったんだけどなぁ……。

「ごめんね、またいつか別の作るよ」

そう言ってフランスパンのガラス細工を取ろうと手を伸ばすと、サッチさんは不満げな顔でそれを拒んだ。

「ダメ、これは俺の」
「え、だって気に入らないんでしょ?」
「でもダメ、俺の」
「………いや、いいけど……無理しなくても良いんだよ?」
「ダメ、俺の」
「でも――」
「俺の!!」
「――はい、もらってやってください」

余りにも強く言うから、奪い返す事も出来ずに頷く。散々文句を言ってたサッチさんだけど、手の中のそれを見つめる目は何処か優しくて、実は口元も嬉しそうに笑ってる……ように見えるのは気の所為?

「サッチさんは、私をこの船に乗せてくれたでしょ? あの時サッチさんが乗せてくれなかったら、私は今この船にいなかったと思うから……あのね、凄く感謝してるの。あの時会えたのがサッチさんで良かった。ありがとう、サッチさん」

ポカンと私を見ていたサッチさんの顔が徐々に赤くなっていく。え、どうした?

「タミ……!!」

感極まった様子で両手を広げて私に飛びかかろうとしたサッチさんは、間に入って来たイゾウさんの銃が額に押し当てられた事によって止まった。

「知ってるか、サッチ。ツバメってのはな、害虫を駆除してくれんだよ」

ニヤリと笑うイゾウさんが迷わず引鉄を引く。響き渡る銃声。皆の笑い声とサッチさんの悲鳴。

「ツバメの巣がある家で悪さしようなんざ、考えねェこったな」
「………ハイ」

銃口から立ち上る煙をフッと吹くイゾウさんに、サッチさんは青褪めた顔で返事をした。