04


「あ、エース! 行って来まーす!」

欠伸をしながら甲板に出ると、既に上陸の準備を終えたERROR達がいた。俺に気付いたERRORが俺に向かって手を振る。今日も工房に行くのか……。思わず顔を顰めた俺にERRORは首を傾げて、リサ達に「ちょっと待ってて」って言ってこっちに駆けてくる。

「エース? どうしたの?」
「………別に」
「えー……だって何か怒ってるじゃん。私の所為? 私、何かした?」
「そんなんじゃねぇって」

ERRORが悪い訳じゃない。これは俺の問題だって事も分かってる。臭いがうつるくらい近くにいるってのが気に食わないなんて言えるはずもない。ただ、折角上陸したんだから俺とも一緒に街を回ったりしてくれても良かったんじゃねぇかって思っちまうのも仕方無いと思う。

「エース?」
「――何でもねぇって、ごめんな? 楽しんで来いよ」

笑顔を作って言って見せれば、ERRORは少しだけ顔を曇らせたけどそれに触れる事なく同じように笑顔を作ってリサ達の所に戻って行った。リサが苦笑を浮かべながら俺に手を振ってERRORの肩を叩く。ERRORは何処か暗い顔のまま船を降りていった。あーあ、あんな顔させたい訳じゃなかったんだけどなァ。溜息を零してERROR達を見ると、リサとERRORの後ろで盛大な欠伸をしていたタミがこっちを見た。目が合った途端ニタリと笑って口を押さえるタミ。コイツ全部知ってやがる……!!
拳を震わせながらタミを睨むと、タミはヒラヒラと手を振ってERRORに飛び付いた。バカ野郎!!と叫びたいのを必死に堪えつつ、けどアイツが帰って来たら絶対ェ一発ぶん殴ってやると心に決めて食堂へと向かった。

「おーっす。珍しく遅かったな」

俺の目の前に皿を置きながらサッチが言う。甲板に行ってERROR達を見送ってたと言えば、サッチはタミと同じようにニタリと笑った。けどそれも最初の方だけで、すぐに苦笑を浮かべて俺の頭をグリグリと撫でた。痛ェ。

「お前も犬みてェな奴だな」
「は?」

何だよそれ、と聞き返してもサッチは笑うだけで何も教えちゃくれなかった。何だよサッチもタミも俺をバカにしやがって。唇を尖らせながら、憂鬱な気分でフォークを持って料理へと手を伸ばした。まぁ、それでもいつもと同じくらい食ってはいるんだけど。

「よう、随分とご機嫌ナナメだな」

俺の斜め向かいに座りながらイゾウが声をかけてきた。まだ起きてからそんな経ってないのか、いつもの島田髷とかってヤツになってない髪は適当に一つに縛って肩にかけてある。こうして見るとフツーに女だもんなァ、なんて考えながらぼんやりとイゾウを眺めてたら、イゾウはニヤリと口端を上げて「何だ、俺の美しさに惚れたか?」なんて言い出した。惚れたって何だよ。

「いや、女だなと思って」
「ハハッ、そりゃドーモ」

コーヒーを啜ってからイゾウは「で? 何でそんなツラしてんだ?」なんて言ってきた。丁度肉を口に詰め込んだ所だった俺がチラリとイゾウを見上げると、何でも知ってますって顔でニヤニヤ笑っていた。どいつもこいつも……!
噛み潰した肉を飲み込んでジトリとイゾウを睨むと、イゾウはとうとう声を上げて笑い出した。あぁホント、腹立つ。

「別に何でもねぇよ!」
「そうかい、そりゃ残念だ」

声を荒らげてもイゾウはそれをひらりとかわして微笑む。俺の皿の肉にフォークを突き刺して勝手に食い始めたイゾウに「俺ンだぞ!」と噛み付くように叫んで皿を引き寄せて、俺は飯を食うことに集中した。
あー、腹立つ!!

飯を食い終わった俺はまた甲板へ向かった。街に行こうかとも思ったけど、そしたら工房に行きたくなっちまう気もしたし、もしそれでERRORが知らねぇ男と仲良く笑い合ってんのを見たら我慢出来なくなりそうだったから止めた。
近くにいた奴らを半ば強引に巻き込んで身体を動かし始めると、始めは気になって仕方なかったERRORの事も少しは忘れられた。

「朝飯食った直後からなーにやってんだよい」
「マルコ」

ほど良く汗を掻いてきた頃に甲板に出て来たマルコが呆れたようにやって来る。ニヤリと口端を上げて殴りかかったけど、あっさりと避けられた挙句に蹴りを食らわされた。空の木箱に激突して口の中が切れたのが分かった。頭を振って木屑を振り払って顔を上げると、ムカつく笑いを浮かべたマルコが俺を見下ろしていた。チクショ……!

「だーっ! 絶ッ対、膝つかせてやる!!!」
「十年早ェよい」

飛び掛かった俺にマルコがムカつく事を言いながら蹴りかかって来る。絶ッ対敗けねェ!!
暫くマルコとやり合ってると、甲板から出て来たサッチが呆れたような顔で俺らを見た。

「元気だねェ、お前ら」
「サッチもやるか!?」
「やなこった。漸くセットが馴染んできたってのに、動き回ったら崩れちまうだろうが」

リーゼントを撫で付けるサッチをマルコが鼻で嗤う。俺も便乗して笑えば、サッチは「バカにすんなコノヤロー!」って叫びながら飛びかかってきた。そっから三人での戦いが始まる。サッチのリーゼントを狙って攻撃を仕掛ければ、マルコも便乗してサッチのリーゼントを狙い出す。

「うわっ! もォお前ら嫌い!! 酷い!!」
「ははっ、サッチきめぇ」
「ぶっ飛ばすぞクソガキが!!」
「騒がしい奴らだねい」

マルコの蹴りとサッチの拳をギリギリでかわしながら、何となくこの二人もこうやって動き回る機会を探してたんじゃねェかって思えた。表には出してなかったけど、やっぱ好きな女が他の男の臭いつけてるなんてムカつくもんな。サッチがタミの事を好きかどうかは分かんねェけど。

「一番最初に膝をつけた奴が街で酒買って来るってのはどうだ?」

俺の拳を避けながらサッチが笑う。俺もマルコも異論は無ェ。

「よっしゃあ! たまには行って来いマルコ!!」
「ハッ、ガキに敗けるほど落ちぶれちゃいねぇよい」
「じゃあお前ら二人で仲良く行って来いよ!!」

一瞬で背後に回ってきたサッチに蹴り飛ばされた俺は目の前にいたマルコに激突した。マルコと同時に吹っ飛ばされて甲板に倒れ込む前に高笑いをしてるサッチ目掛けて火拳を繰り出せば、ギリギリで避けたサッチが甲板に転がる。

「よっしゃあ! 俺の勝ちィ!!」

いつの間にか賭けをしていたらしいラクヨウが一人声を張り上げた。勝負は三人同時に膝をついたって事でドローになった。と言うか、ある意味三人敗けだ。

「さーお前ら! 仲良く酒買って来いや!!」

バカ笑いをする仲間達に見送られて、俺らは渋々船を降りた。