甲板を後にして船室に入ると、少し前を歩く背中を見付けた。
「あ、ロナンくーん!」
「げ、」
「何それ失礼!」
ロナン君は、私がこの船にやって来た時に最初に会ったクルーで、イゾウさんの所の隊員さんです。
「そこのイケメンのお兄さん、この船に乗せて」って話しかけたら「確かに俺はイケメンだが、そこまでの権限は無い」って言われたんだよ。ナルシストだよこの人。後から「でもロナン君って普通の顔だよね」って言ったら「テメェに言われたくねぇよ……!」って怒られたなぁ……。そんなやり取りがあった所為か、こうやってバッタリ遭遇すると嫌そうな顔をされる。
でもね、ロナン君は無視しないんだよ。面倒臭そうな顔しながらちゃんと相手してくれるし、たまに心配もしてくれる。私の自慢のお兄ちゃんです!
「リサ見なかった?」
「リサさんなら食堂じゃねぇの?」
「お、お前ら何やってんだ?」
私の背後からやって来たのは一番隊の副隊長さん。書類を持っているから、多分隊長さん達から報告書を集めてるんだ。
「リサさんを探してるんだと」
「あぁ、リサちゃんなら隊長の部屋にいたぜ」
「何ィ!? マルコさんの部屋だと!? リサが危ない!!」
「危ねェのはお前だ」
「ぐぇっ」
走り出そうとした私の襟首をロナン君が引っ張る。首締まったよ!!息止まったよ!!
「何すんの!」
「今お前が行ったら、危ねェのお前だろうが」
「………おぉう!確かに!」
般若みたいなマルコさんの顔が浮かぶ。それは確かに危険だ。でもリサが危険なのは嫌だ!何より、マルコさんがリサとほのぼのまったりラブラブしてるのが許せない……!
「パインのくせに生意気だ!!」
「それ聞かれたら殺されんぞ」
「放っとけよ、ロナン。おーいタミ、早く行かなくて良いのか?」
「行く!! 待ってろリサーーーッ!!」
「今助けに行くよ!!」って叫んで走り出す。
「………お前、鬼畜だな」
「楽しいことは必要だろ。お前の隊長がよく言ってるじゃねぇか」
私が去った後、二人がそんな話をしてた事を私は知らない。
「リサッ!!」
ノックをせずにマルコさんの部屋を勢いよく開けると、ベッドに寝そべるマルコさんと、ベッドの端に腰を下ろしてマルコさんの房、じゃなくて髪を梳いているリサがいた。
「生意気! マルコさんのくせに生意気!! 私も頭ナデナデされたい!!」
「言いてェ事はそれだけか……」
私に邪魔されたマルコさんが青筋を浮かべながらゆらりと身体を起こした。ヤバイ!私ヤバイ!!
けど、そんなマルコさんをリサさんが止めてくれた。
「ダメですよ、起きちゃ。ちゃんと寝てください」
「…………よい」
うおぉう、リサ強い……!
大人しく寝転がったマルコさんの手を握りながら微笑むリサ。何それズルイ!じゃなくて、何でそんなパイナップルを喜ばせるような事してんの!!?
「タミちゃん、マルコさん寝るから小さい声でね」
「……はーい」
にっこり笑って唇に人差し指を当てるリサはホントに可愛い。くそぅ、この遺伝子イイなぁ……。マルコさんは苦々しい顔で私を睨んでたけど、諦めたのかリサと繋いでない方の腕を自分の顔に乗せて寝出した。ホントに寝る気なんかないくせに。
「どうかしたの?」
「あ、そうだ。あのね、島にいるお婆ちゃん達に手紙を書こうと思って。それで、船の皆の事を紹介したくてさ。部屋で書いてたんだけど上手く書けないから、こうやって皆に会って思った事をそのまま書いてるの」
「そうなんだ」
「タミちゃんはいい子だね」なんて言って私に笑いかけてくれるリサは、とっても優しくて綺麗。ERRORのママなのに全く見えない。姉妹にしか見えなかったんだよ。いつも笑ってて、温かくて、本当に優しいお母さんって感じ。
「マルコさん、具合悪いの?」
「昨日も徹夜だったんだって。エース君もサッチさんも書類出すの遅れるから」
「あー……あの二人だしねぇ」
そう言えば、私を睨み付けたマルコさんの目の下には隈があったかも?マルコさんは慣れてるって言うけど、やっぱり辛いものは辛いもんね。
「それで、何で手繋いでるの?」
「その方が眠れるかなと思って。ERRORもね、こうやって手を繋いでるとすぐに寝ちゃってたんだよ」
「うわ、それ可愛いなぁ」
手を繋いで寝るとか何この親子可愛い!!でも、それがERRORだから可愛い訳で。マルコさんが手を繋いでも可愛くも何ともないからね!ダメだよリサ!マルコさんが理性失ったら危ないよ!!
――と思ったけど、リサって強いもんね。簡単に逃げられるか。
えーと、リサの紹介は終わったから次はマルコさんか。マルコさんは一番隊の隊長さんです。
もう二十年以上この船に乗ってるんだって!誰が偉いとかそういうのは無いけど、仕事熱心でオヤジ様に代わって皆を纏める立場にあるマルコさんが事実上のNo.2なんだって皆が言ってます。不死鳥に変身する能力を持っていて、怪我をしてもあっという間に再生しちゃうの!襲撃の時くらいしか見れないけど、真っ青な炎がすごく綺麗です。
それから、語尾が可愛い。オッサンのくせに。そんでもってリサが大好きです。でも上手くアプローチ出来なくていつも失敗してる。リサが絡んだ時だけヘタレたオッサン。
私がこの船に乗ることを誰よりも反対してたマルコさんだけど、家族想いの優しい人です。私が正式にここのクルーになってからは、やたらと世話を焼いてくれます。ガキ臭い私が心配で心配で堪らないってぼやいてたんだってサッチさんが教えてくれました。言い方は腹が立つけど、本当は嬉しい。世話焼きで頭の固いマルコさんは何だかお父さんみたいです。
マルコさんとリサは付き合ってないけど、やっぱり仲良し。マルコさんの一方的な片思いに見えるんだけど、たまーにこうやってイイ雰囲気なのを見ると……腸が煮えくり返ると言うか……。マルコさんばっかりズルイ!って思っちゃう。いつもは私の方が甘えさせてもらってるんだけど。何か、取られちゃったみたいで悔しいし寂しい。
「私もリサと手繋ぎたい」
そう言うと、リサは一瞬だけ目を丸くしてからすぐに優しく微笑みながら「おいで」って言ってくれた。隣に座ってリサと手を繋ぐとリサの手は温かくて、何でか分からないけどお婆ちゃんを思い出した。
「ねぇ、リサ」
「ん?」
「リサはさ、マルコさん好き?」
「うん、好きだよ」
そっか、好きか。………え、好き?
「え、好きなの?」
「好きだよ?」
「……マジか」
「マジだよ」
リサが「マジ」って言うと違和感あるなぁ。けど、どうせ家族としてって言うに決まってるから驚かないよ!リサはマイペースだもん!
「家族としてでしょ?」
「そうだね」
ほーらやっぱり。思わず苦笑を漏らすと、視界の端にマルコさんが見えてハッとした。そう言えばマルコさん起きてるんだった……!!
「じゃ、じゃあ、男の人としては?」
嘘でも良いから『好き』って言って……!!私の為に!!
「好きだよ」
けど、実際そう言われると驚く訳で。
「は?」
「え?」
いや、「え?」じゃないよ!?寝てるはずのマルコさんの耳が赤くなってるよ!やっぱり狸寝入りかこのパイナップル!!
「え……ホントに?」
「うん」
「………好きなの?」
「好きだよ?」
「……………マジか」
何この展開、全く予想してなかったよ……!
「因みに、何処が好きなの?」
「全部好きだよ」
「………ソウデスカ」
何この人可愛い……!そんな可愛らしく笑わないで!ズルイ!マルコさんズルイ!!
「いつから?」
「ずっと前からかな」
「で、でもマルコさんにそう言わないじゃん!」
「うーん、そうだね……面と向かって言うのは恥ずかしいし……」
止めて!頬っぺた赤くして笑わないで!!起きてるよ!?後ろのパイナップル起きてるよ!!?わざとなの!!?
「それに、皆に言ってたら大変だしね」
「へ?」
「え?」
「み、んな?」
「うん?」
首を傾げるリサに、漸く理解して大きく息を吐いた。やっぱりリサはリサだったみたいです。
「みーんな好き?」
「うん、好きだよ」
「男の人として?」
「素敵な人達ばかりでしょ?」
そりゃあそうだけど………あーあ。何だろう……嬉しいけど……ちょっとガッカリ。
マルコさんがリサを大好きだっていうのは知ってるから、取られちゃうのは嫌だけど上手くいって欲しいとも思う。
ちょっとだけしょぼくれてた私の手を握ってるリサの手にほんの少しだけ力が篭った。顔を上げてリサを見ると、リサはいつもみたいに優しく微笑んでた。
「タミちゃんは優しいね」
「え?」
「タミちゃんの事も大好きだよ」
撃ち抜かれた!今何かに撃ち抜かれた……!!ズキューーンってなったよ!!
空いてる方の手で胸を押さえて悶えてると、リサが「それからね」って続けた。
「そういう『好き』は、まだ良いかなって思ってるの」
「そう、なの?」
「今はまだ、皆の事をもっと沢山知りたいの。こうやって皆で楽しく過ごせるだけで満足なの。だから……そういうのはもうちょっと先でも良いかな、なんて」
そう言って笑うリサは、私が今まで見た事ないような顔をしていた。え、何これ。メチャメチャ可愛い……!!
「ダメかな?」
「――ううん、良いと思う!」
まだ暫くはマルコさんがヘタレてるのを目撃する事になるだろうけど、知った事じゃない。
『もうちょっと先』が来るその時まで、皆で楽しく笑って過ごせたら良いな。
何たって、あたふたするマルコさん見るのも楽しいしね!