03


「そういや、ずっと気になってた事があんだけどよ」

昼食を終えて甲板で他愛もない話をしていたら、突然サッチさんが人差し指をピンと立てた。
私もリサもERRORもエース君も、今日は暇だからと一緒にお話をしていたイゾウさんとハルタ君も揃って首を傾げた。昨日の夜、徹夜で書類を読み込んでいたというマルコさんだけが冷めた目でサッチさんを見ていた。マルコさん、寝なくて大丈夫なのかなぁ。

「何だよ?」
「いや、あのさぁ――」
「くだらねぇ事だったらリーゼントへし折るぞい」
「ちょ、止めよう!? サラッと怖い事言うの止めよう!? お前知らねぇんだろ! 世の中にはこんな言葉があんだよ!! 『いじめ、ダメ。絶対』って言葉が!!」
「『ただし、サッチに限り許可』って続くんだろい?」
「続くかああぁぁっっ!!!」

徹夜で溜まってたストレスをサッチさんで解消してるマルコさん。サッチさんからしたら迷惑極まりないだろうけど、傍から見てる私達は物凄く楽しいから良しとしよう。リサもERRORも笑ってるし、エース君はバカ笑いしてる。あ、いつもか。この船に乗ってから日は浅いけど、エース君がバカ笑いしてない日なんて無い。ハルタ君も楽しそうに笑ってるし、イゾウさん、貴方は何でそんなに艶かしく笑ってるんですか。私よりよっぽど女性らしいんですが!!

「決めた! 俺決めたぞ!! 『リーゼントいじめ、ダメ。絶対』!! これでどうだ!!!」
「『ただし、イケメンに限る』なんてどう?」
「ハルタアアァァァッ!!!!」
「イイと思うぜ」
「良い訳あるか!!! テメェ、イゾウ!! イケメンだからって調子乗んなよ!!!」

サッチさんが叫び終わるか終わらないかの所で鳴り響く銃声。サッチさんの顔スレスレを銃弾が通り過ぎてくの見えた。そしてイゾウさんの手には一丁の銃。わぉ。

「誰に口利いてんだ? あ?」

ニッコリと私より女らしく優雅に微笑んだイゾウさんの口から紡がれる地を這うような低い声。あ、サッチさん泣きそう。でもごめん、面白い。

「あれ……? あれ……おれ、同じ隊長だよね……口の利き方って……あれ……何でだろう、目の前霞んでる気がする」
「気ィ落とすなよサッチ!」
「ハルタ……」
「存在も霞んでるって!」

親指を立ててウィンクまでしてみせるハルタ君。もうだめ、お腹痛い……っ、笑いすぎてお腹痛い……!リーゼントがめり込んでるよサッチさん!!でも面白いから助けない。ごめん!!

「俺なんて……俺なんて……っ!」
「ははっ、サッチきめぇ!」
「あーあ、泣いてら」
「男のくせにだらしねぇ奴だよい」
「おいおい、甲板汚すなよ? 若ェ奴らが掃除したのが無駄になんだろ」

落ち込むサッチさんに追い打ちをかけるエース君、ハルタ君、マルコさん、イゾウさんの表情はとんでもなく爽やかに輝いてます。

「サッチさん、はい、お茶どうぞ」

甲板にリーゼントをめり込ませながらウジウジと沈み続けるサッチさんに、リサが新しい紅茶のカップを差し出した。その横でERRORは息が苦しいって胸を抑えてる。ゆっくりと顔を上げたサッチさんは私達が思わず吹き出しちゃう顔をしてたけど、リサは苦笑するだけだった。

「大丈夫ですよ、皆サッチさんの事大好きですから」
「リサちゃん……」
「私も、サッチさん大好きですよ」

何処かでピシッて音が聞こえる。うん、見なくても分かる。初日に気付いちゃったもんね。真っ赤な顔を指して笑ったら拳骨されたもんね。見ない見ない。憧れの白ひげ海賊団の一番隊隊長の情けない姿なんて見たくない。もう何回か見ちゃったけど。

「リサちゃん……君って奴ァ……!」
「わっ、」

感極まってリサに抱き着くサッチさん。けど、次の瞬間には船縁の向こう側で海に向かって落ちていた。サッチさんが海に落ちる音が聞こえる。うわぁ、マルコさん早業……。

「大丈夫かい、リサ」
「はい、ありがとうございます。けど、あまりイジメちゃダメですよ?」
「分かってるって!」
「からかってるだけだ!」
「イジメなんて情けねぇ真似しねぇさ」
「『イジメ、駄目。絶対』だろい?」

にこやかにハルタ君、エース君、イゾウさん、マルコさんが言う。最早何も言うまい。いや、私は初めから最後まで笑ってるだけだけど。若干、腹筋痛いけど。

「サッチさん、助けなくて大丈夫?」
「大丈夫だって! アイツ能力者じゃねぇし!」

私の問いにエース君が笑ってそう答える。うん、それは知ってるけど。立ち上がった私にエース君達が首を傾げた。

「タミ?」
「いつもサッチさんが海に落ちたエース君くん達を助けてくれるんでしょ? なら、たまにはサッチさんも助けてあげなきゃね」

そう言って、エース君達が止める前に海に飛び込む。船を飛び降りる直前、リサが優しく笑ってるのが見えた。
当然と言えば当然だけど、サッチさんは一人でも問題なくて。とっくに泳いで梯子に辿り着いてたのに、水音が聞こえたからか慌てて引き返して、私を見て驚いてた。

「何してんだ!? 誰かに落とされたのか!?」
「ううん、サッチさんを助けてあげようと思って」
「は? 俺、泳げるぜ? 知ってると思うけど」
「うん。でもさ、海に落ちたエース君達を助けるのがサッチさんなら、海に落ちたサッチさんを助けるのは私がなってあげようかな、って」

言っててちょっと照れ臭くなって「私も能力者じゃないしね」なんて笑って誤魔化した。海水に濡れてリーゼントが崩れたサッチさんはちょっとセクシーだとか思ったけど、ポカンと口を開けて目を丸くしてるのは何だか可愛かった。

「ありがとな、タミ」

そう言って笑ってくれたサッチさんの顔は、多分私と同じくらい赤かったと思う。

甲板に戻って何もなかったかのようにお茶会を続けたけど、時々目が合うたびにイゾウさんがニヤニヤ笑うのが気になってしょうがなかった。

「ん? タミ、顔赤ェぞ? どした?」
「うっさい! リーゼントのバカ野郎!」
「何それ理不尽!!」
「春だねぇ……」