「え? 新しい人が入ったの?」
折角島に着いたのに、今日は珍しく隊長全員がオヤジさんの部屋に呼ばれたらしくて、エースもマルコさんもサッチさんもいない。今日は船番だから外にも行けないアタシは食堂でリサがじゃがいもの皮を剥いてるのを手伝っていた。アタシだってこういうのは得意なんだよ!味付けが苦手なだけで!
そこでリサに聞いたのは、家族が増えたって事。どんな人かは分からないけど、アタシ達が一番下っ端だったから(メチャメチャ良くしてもらってるけど)、ちょっと嬉しい。
「そうみたい。サッチさんが言ってたから」
「へぇ……男の人? 女の人?」
「さぁ、そこまでは聞いてないから……」
「この船ってさ、女の人いないよねぇ。ナースの姉さん達はオヤジさんの看病があるからいるけど、女の隊員とかいないじゃん? どうして?」
「さぁ……気にした事ないから分かんないなぁ……」
「女の人だと良いなぁ、アタシと同じくらいだったら嬉しい!」
仲良くなれるかなぁ、なんて事を考えながらじゃがいもの皮を剥いていると、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。あ、エースの声だ。
「終わったみたい!」
「そうだね、ここは良いから行ってきたら?」
「んーん、良いの! それに、きっとエース達こっち来るだろうし」
腹減ったー!とか言いそう、なんて思ってたら、ホントに「腹減ったー!」って食堂に入って来たエース。アタシ当たり!
「お、ERRORも手伝ってんのか?」
「こういうのは出来るの! 味付け、は……まだ練習中だけど………」
「おう! 次も楽しみにしてるぜ!」
ニッと笑うエースにアタシもつられて笑う。あ、そう言えば。
「ねぇ、新しい人が入ったって本当?」
「お? あぁ、入ったぞ」
「どんな人!? 女の人? 男の人?」
「女だ。ERRORくらいの」
「ホント!? やったぁ!!」
思わず両手を挙げて喜ぶと、エースは「そんな嬉しいのか?」なんて首を傾げてる。
「そりゃ嬉しいよ! だって、この船アタシとリサとナースの姉さん達しかいないんだもん。そう言えば、何でこの船には女の人いないの?」
「あー、女のクルー達は傘下の船に回すんだ」
「え、どして?」
言いにくそうに頭をガリガリ掻いてるエースにアタシもリサも首を傾げた。その時、マルコさんとサッチさんが食堂に入って来た。その後ろには、アタシより大人びた女の人。何だ、全然上じゃん。エースの「同じくらい」って何歳差までが同じになるの?
「お、ERRORちゃん手伝ってくれてんのか。悪ィな」
「いーの、暇だから。ね、その人新しい人だよね?」
「おう、タミってんだ。仲良くしたってくれや」
サッチさんに背中を押されてアタシ達の前に出てきたタミさんは、やっぱりアタシより年上に見える。二十代前半くらいかな?なんて思ってたら、タミさんがニッコリ笑ってアタシに手を差し出してきた。
「タミっていうの。よろしくね」
「アタシ、ERROR! よろしくね! ――って、ごめん。アタシじゃがいも触ってたから、手……」
慌てて手を洗おうと水を出したら、タミさんの手が横から伸びてきて手を洗い出した。え、何?
「あの……?」
「私も手伝うよ。はい、握手」
じゃがいもの皮剥きで汚れたアタシの手を掴んで勝手に握手をしたタミさんは、振り返ってリサにも手を差し出した。アタシと握手した方とは反対の手を。
「よろしく!」
「よろしくね」
リサは微笑んで握手に応じると、またじゃがいもの皮剥きを再開する。あ、そっか。タミさんが手を洗ったのはアタシ達が洗う手間を省く為だったんだ。アタシもリサも、握手した後もそのまま皮剥きを再開出来るし、タミさんも手伝ってくれるんだから何も問題ない。
「包丁、まだある?」
「あ、うん! そこに置いてあるから使って! ありがと!」
「おーおー、仲良くなれそうで結構結構。な、マルコ」
「あぁ、悪ィがよろしく頼むよい」
「可愛い妹が出来て嬉しいです」
マルコさんの言葉にリサがニッコリ笑って答えれば、タミさんはキョトンと目を丸くしてから軽く首を傾げて苦笑した。
「あー、そっか。私の方が後に入ったから、年上でも妹になるんだよね」
その言葉に、アタシもサッチさんもエースさんも爆笑。マルコさんとリサは苦笑してた。
「え、何? 何か変な事言った?」
「ううん、あのね、多分リサはタミさんより年上だよ」
「………いやいや、それは無いでしょ。私二十三だよ?」
「うん、リサはもっと上だから」
「……………は?」
これでもか、ってくらい目を見開いたタミさんがリサをまじまじと見つめる。それから「いや、ないない。騙されないよ。大丈夫、アタシ騙されない! まさかこれって新人イビリ!? 騙されないよ!?」なんて叫んでる。あ、この人面白い人だ。多分そう思ったのはアタシだけじゃない。
「いや、ホントだって。リサはERRORの母ちゃんだし」
「……………はぁ!!?」
エースの言葉にタミさんが立ち上がる。ちょ、包丁危ない!あ、じゃがいも落ちたよ!
「いやいやいや!! ないない!! 無理だよ! どんだけ若い時に産んでんの!? 一桁で赤ちゃんって産めんの!? 新人舐めんな隊長コノヤロー!」
「ぶわっはっはっは!!」
「腹痛ェ!!」
テーブルをバンバン叩いて笑っているエースとサッチさん。アタシもこの手に包丁とじゃがいもが無かったら笑い転げたい所だけど、マルコさんが怖いからやらない。あ、タミさんマルコさんに怒られた。じゃがいも落としたからだな、うん。
「――で、リサ……ちゃん? さん? は何歳ナノデスカ!?」
「そういや、俺らもリサちゃんの歳知らねぇな」
「前にサッチが聞こうとしたけどマルコにリーゼント折られて止められたもんな」
「あ、言いたくないんなら良いの! ごめん、変な事聞いた!」
慌てて手を振るタミさん。うーん、面白い上にイイ人だ。これから益々楽しくなりそうだな、なんて考えてたら、リサは苦笑しながら「別に言いたくない訳じゃないんだけど……」と言葉を濁した。
「言っても、大抵信じてもらえないから」
「信じます! 全力で信じます!!」
左胸に握った拳を押し付けて姿勢を正すタミさんに笑って、リサは「三十二だよ」って教えた。途端にシンとする食堂。次の瞬間に響いたのはエースとサッチさんとタミさんの声。
「見えねぇ!!」
「そんな若い頃にERRORちゃん産んでんの!!?」
「ちょ、その顔で三十二って何!!? 能力者ですか!? スベスベの実の能力者ですか!?」
叫びながらリサに詰め寄る三人を止めたのはマルコさんの拳。わぉ、新人でも女の人でも容赦ないのね、タンコブ出来てる。アタシも気を付けようっと。
「うっせぇよい!」
「「「ご、ごめんなさい……」」」
「ったく……」
タンコブの出来た頭を押さえて涙目になってる三人を睨み付けてから、マルコさんが笑いながらリサに振り向いた。
「取り敢えず、父親潰しに行くかい?」
ちょ、何言ってんのこの人!!?その顔で何恐ろしい事言ってんの!!?潰すって何!?殺すより怖いんだけど!!笑いながらってのが怖いんだけど!!!
言われたリサ本人はキョトンと目を丸くしてから、突然声を上げて笑い出した。
「アハハハハッ!」
「うわ! リサが声出して笑ってる!」
「初めて見た! 超可愛い!!」
「ホント珍しい。そんな面白かったの? マルコさんが」
「ごめ、ちがうの……アハハッ、ごめんね……マルコさんもごめんなさい、違うんです。つい」
エース、サッチさん、アタシの言葉に涙を拭きながら首を振ったリサは、また声を上げて笑い出した。アタシもエースもサッチさんもタミさんも首を傾げるばかり。取り敢えず、うん。やっぱアタシの自慢のママだ。可愛い。そう言えば、マルコさん黙ったままだと思ってそっちを見上げたアタシはパチパチと目を瞬いた。
「……マルコさん、顔! 顔!」
小さな声で囁くとハッとして手で顔を覆うマルコさん。うん、貴重なモン見た!
「ありがとうございます、マルコさん。言葉だけ受け取っておきますね」
「………よい」
きっと赤くなってるであろうマルコさんを見ないのはアタシなりの優しさ――なんだけど、この三人は容赦なくマルコさんの真っ赤になったであろう顔を覗き込んだりして笑ってる。タミさん、勇者だな。三人がマルコさんにもう一発ずつ拳骨をもらうのは直後の事。