ERRORが色々な意味で『素晴らしい』料理の腕を見せてくれてから一週間。あれからエースは毎日のように「もっかい作ってくれ!」とERRORにせがんでいる。今のトコ連敗だが。
「嫌!! この間作ったばっかでしょ! 次は半年後!!」
「何でだよ! 良いだろ? マズくたって食うぞ?」
「イ、ヤ!!」
唇を尖らせて不満げに帽子を目深に被るエースを振り返りもせずにERRORが飛び込むのは大抵がリサの部屋か俺の部屋だった。
「言ってやりゃァ良いだろい。『次は美味く作りたいから勉強してる』って」
「い、や! いきなり美味しいの作って見返してやるんだから!」
あの日、ERRORの料理を全部食い切って、俺とサッチの分まで腹に収めたエースは案の定というか、お約束というか、食い終わった一時間後にぶっ倒れた。医務室とは縁の無ぇエースが医務室に運ばれたって事はあっという間に船中に知れ渡り、島に降りていた奴らにまで知れ渡るのに二日とかからなかった。おかげでERRORの料理の腕はすっかりバレちまって、今でもたまに船員達からからかわれる事がある。今日も朝から自分をからかった船員を蹴り飛ばしてるERRORを見た。一緒にいたリサは「ERRORは今日も元気で可愛い」なんて言っていたが。
海に落とされた船員を助けたのは俺らと一緒にいたサッチで、セットしたばかりのリーゼントが崩れちまったと嘆いていたから鼻で嗤ってやった。
「美味い飯作れるようになるまで半年もかかんのかい」
余りにも真剣に料理の本を睨み付けているものだから(読んでいるようには見えない)、ついからかってやりたくなっちまう。そうすると怒るのは目に見えてるんだが。案の定、ERRORは本から視線を上げて笑う俺を睨み付けたが、突然ニヤリと笑って俺を指した。
「アタシが料理の腕を上げる事を誰よりも願ってるのは、マルコさんだよねぇ?」
「………」
「折角マルコさんにチャンスを上げようと思ったけど、そこまで言われちゃあ仕方ないよね。よし、今から作ってくる」
言うなり立ち上がって扉へ向かうERROR。俺が全部食い切れるようにと配慮してくれていたのだというERRORの言葉にポカンとしていた俺は、その後に続いていた言葉を思い出して慌ててERRORを止めた。
「っ、待った!」
「え? マルコさんもエースと同じ量が良いの? しょうがないなぁ」
「悪かった! 俺が悪かったよい!」
「分かればよろしい」
あっさりとベッドに戻って再び本を手に取るERROR。やられた、と顔を覆って椅子に座って大きな溜息をつく俺の耳に届くのはERRORの笑い声。舌打ちが出てしまうのを何とか堪えて溜息へと変えると、デスクの上に積まれている書類を手に取って仕事を再開した。
それからは俺もERRORも無言で時折ページを捲る音や書類を揃える音だけが静かに消えていく。この数日間でERRORがこの部屋にいる事が当たり前に感じるようになったのは、ERRORがエースの為に必死で頑張ってるから。まだくっついてはいねぇみてぇだが、ERRORがエースを想ってる事は傍から見りゃバレバレだ。エースが気付いてんのかどうかは疑問だが。
「………リサもそれくらい分かりやすけりゃ……」
「へ?」
ERRORの素っ頓狂な声で我に返った。今、口に出てたか?
「リサが何?」
「あ、いや……あー……何でもねぇよい」
「何それ、気になるじゃん。教えて教えてー!」
「駄目だ。俺ァ今仕事中なんだよい、黙って読んでろい」
わざとらしく書類に視線を落としながらヒラヒラと手を振ってやると、頬を膨らませてあからさまに不満そうな顔をするERROR。エースと同じくらい感情が表に出る奴だが、その方がエースに合ってるのかもしれねぇなぁ、なんて兄貴らしい事を考えてたら、ERRORが古代兵器並みに破壊力の強ェ一言を口にしやがった。
「じゃあ、リサに言っちゃおうっと」
「あ!?」
「何が分かりやすい方が良いんだろうねー、リサはどう思うかねー、悪口言われたのかもとか思うかもねー。さ、読書は終わりにしてリサとサッチさんの作ったお菓子でお茶してこようっと。エースも勿論来るだろうし――あ、マルコさんはお仕事忙しいから来れないんだっけ? 残念だなぁ、まぁ仕方ないかぁ」
「…………」
ERRORのこの腹黒い所は誰に似たんだ?バカ正直に感情を表に出しやがるくせに、たまにこうやって腹黒さを見せるからおちおち独り言も口に出来ねぇ。気ィ張ってねぇととんでもない目に遭う。
「じゃ、アタシはお茶してくるから。お仕事頑張ってくださいね、マルコ隊長」
「ちょっと待てよい」
「待っててアタシのお菓子ー!」
「ま、待てって言ってんだろい!」
フンフンと鼻歌混じりでデスクの前を通り過ぎようとするERRORの腕を掴んだ俺の顔は、誰にも見せられねぇ。