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ERROR

俺らと生きる事を決めてくれたERRORを強く抱きしめて、何度も名前を呼んで、好きだって言った。ERRORは何も言わなかったけどちゃんと抱きしめ返してくれて、それが嬉しくて腕に力をこめた。

そんな時に聞こえた声。大きくはねぇけど、澄んだ声は一瞬で船上を静かにさせたし、ERRORの身体を硬直させた。ERRORの肩の向こうに見える、リサの姿。

「リサ」

俺がリサの名前を口にすると、ERRORがもう一回震えた。リサは何処か不機嫌そうに俺らに近付いてきて、ERRORのすぐ後ろに立って俺を見た。少しだけ怒ってるように見えるのは、多分気の所為じゃない。リサにこんな目で見られるのは初めてで、少しだけ悲しくなった。けど、ERRORを手放すつもりはねぇ。

「エース君。ERROR、放してくれる?」
「………嫌だ」
「放して」
「嫌だ」
「――放しなさい」
「嫌だ!!」

冷たいリサの目と声に、それでもハッキリと叫ぶ。そうすると、リサは今度はERRORに話しかけた。

ERROR、来て」

目に見えて分かるくらいERRORが震える。

ERROR
「駄目だ!」
「エース君は黙ってて。――ERROR、こっちを向きなさい」

俺の腕の中でERRORが少しだけ振り返ってリサを見て、息を呑んだ。

「っ、ぁ……ア、タシ……っ、」

身体と同じくらい震えた声がERRORの口から零れる。何でそんな冷てぇ声出すんだよ。何でそんな冷てぇ目で見んだよ。何でERRORにそんな目を向けんだよ……っ!!

ERROR、行くの?」
「………っ、い、きたい……っ、」

震えながら、泣きながらERRORがそれでも俺らと一緒に行きたいって言ってくれる。けど、リサの目も声も空気も変わらない。冷たいままだった。

「そう。ERROR、私を捨てて行くんだ」
「っ、」
「そんな言い方……っ、」

堪らず声を上げたら、また返ってきた「貴方は黙っていなさい」って怒りの篭った冷たい声。名前すら呼んでもらえなくなった事に、また胸が痛んだ。

ERROR、私を捨てて行くの?」
「っ、ぁ……ア、タシ………っ、リサ、も、一緒、行きたい……っ」
「私は、嫌よ。行かない。それでも、行くの?」

止めろよ。ERRORを傷付けんなよ。母親なんだろ?ERRORの幸せ願ってやれねぇのかよ?何考えてんだよ!?

「リサ……」
「私とここで生きるって言ったのは、嘘なの?」
「っ、」
「私一人でお店をやれって? ERRORは、私を裏切って行くの?」
「止めろ!!」

怒りがこみ上げて仕方無かった。ERRORを苦しめんなよ……!リサを傷付けたくねぇのに、怒りが抑えられなかった。

「黙っていろ、って言ったの。同じ事を何度も言わせないで」
ERRORを傷付けんな!! ERRORのやりたいようにさせてやりゃァ良いだろ! 親ならガキの幸せ願ってやれよ!!」
「親だからよ。私はERRORの幸せを願って、ここにいろって言ってるの。海賊船に乗る? 嵐に巻き込まれるかもしれない、他の海賊に襲われるかもしれない、海軍に襲われるかもしれない。娘が死ぬかもしれないのに、笑顔で送り出す事なんて出来ると思うの? 多少戦えたって、ERRORは女の子なのよ? 怪我をするかもしれない。身体に傷が残ったらどうするの?」
「俺が護る!!!」
「信じられない」
「っ、」

リサの冷たい声が突き刺さる。

『シンジラレナイ』

冷たい目が、声が、俺を否定する。

「『絶対』なんて無い。貴方より長く生きてる私はそれをよく知ってるわ。いつ何が起こってもおかしくない。お腹痛めた事も、育てた事もないガキが粋がってんじゃないわよ」

何も言い返せない。俺は、何も言い返す事なんて出来ない。

「海賊? 笑わせないで。自由に生きる? 随分と都合の良い言葉ね。自分の望み為なら他の人間の気持ちを踏み躙って顧みないって事でしょう? 血の繋がった家族を捨てさせて自分達と家族になれなんて、よく言えたものだわ」
「………」
ERRORは渡さない」
「――リサ!」

震えた声が俺の鼓膜を震わせた。腕の中で震えながら、ERRORがリサを睨み付けていた。

「アタシは……っ、エース達と行く……!」
「ダメよ」
「ダメでも行く!! リサがアタシを想ってくれてる事は分かってるし、一人で育ててくれた事も感謝してる……っ! アタシの事ばっかりで自分の事を二の次にしてたリサが店をやりたいって言ってくれた事も嬉しかったし、リサを幸せにしたいって思ってたし、今だって思ってる!!」
「なら、帰るよ。家族ごっこなんて、する必要ない」
「っ、」

怒りで目の前が真っ暗になった。船の上からも殺意に似た怒りがリサに向けられてる。ダメだ。ERRORを傷付けたくないのに。ERRORが悲しむ顔を見たくないのに。リサを殺さなきゃ気が済まねぇ……っ!!

「アタシの家族をバカにしないで!!!」

そう叫んだERRORが、俺の前に立ちはだかっていた。

「リサは確かにアタシの家族だけど……っ、エース達もアタシの家族なの!! アタシはエース達と一緒に行く!!! ここにはもう戻らない!!」
ERROR……」
「――二度と、私に会えなくても?」
「………それでもよ」
「そう。じゃあサヨウナラ」

そう言ってリサがERRORに背を向ける。余りにもアッサリした別れの言葉。困惑するERRORに、顔だけで振り返ったリサが冷たく笑った。

「――アンタみたいな出来損ない、私にはいらない」
「っ、」
「テメ……ッ!!!」
「良いの……っ!!」

腕を炎に変えてリサに襲いかかろうとした俺をERRORが止める。全身を震わせながら、リサの言葉に泣きながら、それでもリサを庇おうとしていた。

「良いの………行こう」
ERROR……お前……」
「アタシ、それでも……リサが好きだよ。大好き。………親不孝者でごめんなさい……今まで、ありがとうございました」

背を向けたままのリサに頭を下げて、ERRORが俺の手を取る。

「――行こう?」
「…………あぁ」

ERRORの手を強く握って、船に――俺らの家に向かって歩き出す。甲板に集まってる家族達は皆リサを睨んでいて、その手には武器がある。俺だって、ERRORが止めなかったらリサに飛び掛かってた。殺してた。ERRORが止めたから、俺らは必死に自分を抑えてる。

なぁ、リサ。お前、ずっとそんな事考えてたのか?

俺らと笑いながら、そうやって見下してたのか?

なぁ、なぁ、なぁ……っ!!

「…………っ、」

堪えきれない涙を隠す為に、帽子を深く被った。