「何も聞かないんですね」
マルコさんに誘われて町に下りたけれど、特に行きたい所がある訳では無いのだとマルコさんは言った。私も必要な物がある訳でも無かったから、お店に戻って一緒にお酒を飲んでいる。
「さっきの事かい?」
「それもありますけど……大抵の人は、ERRORの父親の事とか聞いてくるので……」
それも、ERRORがいない時に。それが少しだけ嫌だった。ERRORが邪魔みたいに思われているのが嫌だった。多分、聞いてきた人達にそんなつもりはなかったんだと思う。ERRORが気にするから、っていうのが理由なのかもしれないけど、それはただの建前でしかないと思ってる。結局は好奇心が勝って尋ねてくるんだから。
「興味はあるが、わざわざ尋ねようとは思わねぇよい。誰だって、人に言えない過去の一つや二つあるだろい」
返ってきた優しい声に、私は小さく微笑んだ。ホッとしたのかもしれない。聞かれたらどう答えたら良いか分からなかったから。
「ありがとうございます」
「礼を言われる程のモンじゃねぇよい」
そう言って笑いながら、マルコさんはお酒を飲み干す。空になったグラスにお酒を注ぐと返ってくる「ありがとよい」という言葉。海賊なのに、温かい。
「マルコさんは、不思議な人ですね」
「そうかい?」
「あの船の人達は、皆優しくて温かいんですね」
「そんな事言われたのは初めてだよい」
ほんの少しだけ照れたように笑うマルコさん。昨日の昼間、お店にやって来た時は無表情でちょっと怖い感じだったけれど、本当はこんなにも色んな表情がある。それを見せてくれるのは、ほんの少しでも心を許してくれたからなのかもしれない。
「俺達ァ、世の中の嫌われ者だ」
「確かに、昼間の海賊みたいな人達は好きじゃないです」
けど、この人達は温かいから。こんな小さな町、簡単に滅ぼす事が出来るのにそうしない。必要な物資を、ちゃんとお金を払って手に入れている。私達の生活を脅かさない。
「だから、貴方達みたいな海賊は好きです」
「……そうかい」
首を摩りながら、少しだけ照れたように。それでも嬉しそうな顔でマルコさんが微笑む。つられて自然と笑顔になるのが分かる。本当に、温かい人。
「ねぇ、マルコさんに何か言われた?」
あの後、船に戻るとエース君が夕飯も作って欲しいって言ってたけど、「調子に乗るな」って船長さんとマルコさん、サッチさんに拳骨をもらっていた。「明日またお店に食べに行くな!」って手を振ってくれるエース君達に手を振り返して家に帰ってきた。
「何かって?」
「だから、何か」
「別に報告するような事は何も……あ、明日も食べに来るって」
「んー、そうじゃなくて……二人で町に行ったんだから、何かあったんじゃないかなぁ、って」
「何も無いよ」
ERRORの言いたい事が分かって思わず苦笑が零れる。私達はそんな事、無い。
「マルコさんと何かある訳が無いでしょう?」
「つまんなーい」
「どうして?」
「まだ若いんだから、リサも恋の一つでもすれば良いのにな、って」
「その台詞、そっくりそのままERRORに返すよ? エース君なんてどう?」
途端に目を丸くして慌てふためくERROR。あら、エース君、結構脈アリ?
「な、何言ってんのさ! アタシ、海賊とは付き合わないのッ!」
「だから誘われたんでしょう? エース君やサッチさんに」
「あー……オヤジさんにも誘われた」
「凄いじゃない」
「言っとくけど、アタシだけじゃなくてリサもだからね」
「私が誘われたのは、ERRORのついででしょう?」
「何言ってんの!?」
「何言ってんの」はこっちの台詞よねぇ……エース君がERRORと一緒にいたいだけだって気付いてないのかしら?仲間思いのサッチさんがそれを応援してるだけなのに。船長さんもエース君の気持ちに気付いているのかもしれないから、誘ったっていうのは多分エース君を想っての事だと思う。本当に、海賊なのに温かい人達。
「そう言えば、おっちゃん達は大丈夫だった?」
「何が?」
「マルコさんが迎えに来たんでしょ?」
「あぁ、大丈夫。心配してくれたけど何も問題なんて無かったよ。ダンテさんも『行ってこい』って言ってくれたしね」
「あぁ……ダンテのおっちゃんは海賊マニアだっけ」
マニアかどうかは分からないけど、それなりに詳しいのだとは思う。私は全然知らないのだけれど。やっぱり、新聞を読んだ方が良いのかなぁ。その日を生きるのに精一杯で、世界で何が起こってるかなんて気にしていられなかったからなぁ……。
「そう言えば、サッチとエースに父親の事聞かれちゃった」
「ふぅん」
「リサも父親の事殆ど何も知らないみたい、って言っちゃったんだけど……マズかった?」
「別にマズくは無いけど……」
次に会うのが少しだけ気まずいかもしれないな、なんて。何か聞かれたらどうしよう。でも、何の反応も無いと逆に怖いというか……。マルコさん、自分から聞く気は無いって言ってくれたけど、サッチさんやエース君達から聞いちゃうかなぁ……。
ログが溜まるまでのほんの数日間だけの関係なのに、どうしてこんな気分になるんだろう。きっと、あの人達が温かすぎるからだ、なんて考えてたら、ERRORがジッとこっちを見ていた。
「何?」
「別に。ただ……、リサは、さ……その……」
視線を泳がせながら言いにくそうにモジモジするERROR。可愛いなぁ、なんて親バカかな?
「好きなの?」
「え?」
「アタシの……その……」
「ERRORは大好きだよ?」
「そ、そうじゃなくてっ! ――私も大好きだけどっ!」
「ありがと」
微笑むとERRORもヘラッと表情を緩ませるけど、すぐに首を振って真剣な顔で私を見据えた。
「アタシのお父さんの事、好き?」
さて、どう答えようか。