「お帰りー!」
港へ行くと、甲板にいるERRORがこっちに気付いて手を振った。
「遅かったなァ!」
「リサ! 俺、腹減った!!」
タラップを上って甲板に上がると、ニヤケ面のサッチと腹を空かせたエースの声が飛んできた。それを無視してリサを連れて甲板の真ん中にあるオヤジ専用椅子に座るオヤジの元へ向かう。
「お前ェがリサか」
「わっ、大っきい……! あ、ごめんなさい、つい……」
目を丸くしたリサはERRORと同じ反応を見せた。それから少しだけ恥ずかしそうに謝ってオヤジに頭を下げた。
「初めまして、リサといいます」
「俺ァ白ひげだ。呼び出してすまなかったなァ」
「いえ、えーと……ここでご飯を作って欲しいって言われたんですけど……」
「息子共が、お前ェの料理が最高に美味ェって言うんでな。頼めるか?」
「それは構いませんが……ご期待に副えるかどうか……」
「グララララ! 自信持ちやがれ。何せ、マルコのお墨付きだ」
キョトンと目を丸くしたリサが俺の方を向いて笑った。
「ありがとう、マルコさん」
「いや……あー……それじゃ、悪ィが頼むよい」
「はい! 頑張りますね」
「じゃあ、食堂に案内するよい」
クルー達の生温かい笑みに小さく舌打ちをしながら、リサと共に歩き出す。船室に向かう途中、ニヤニヤするサッチを蹴り飛ばす事は忘れなかった。
「おーい、出来たぞー!」
本当は料理をしてるリサを見ていたかったが、一緒に厨房に入ってるサッチを含めたコック達の気色悪ィ笑みに苛々して早々に甲板に戻って来ていた俺は、昼飯が出来たと呼びに来たサッチに蹴りをお見舞いした。
「理不尽! 呼びに来ただけなのに!!」
「テメェのその笑いが苛々するんだよい」
「何で苛々すんだろうなぁ、何か思い当たる節でもあんのか?」
ニヤニヤ笑い続けるサッチのリーゼントをへし折って食堂へ向かう。他の奴らも期待に満ちた顔で俺を追い越して走って行った。
「グラララ! 随分入れ込んでるじゃねぇか」
「………別に、そんなんじゃねぇよい」
「おうおう、どの口が言ってんだぁ?」
「黙れよい」
リーゼントを折られたくらいじゃヘコたれねぇサッチが俺に並ぶ。
「なぁマルコ、そういや何で船戻って来んのがあんな遅かったんだ?」
「あぁ……昨日の海賊達に襲われたんだい」
「は? 大丈夫だったのか?」
「誰にモノ言ってんだよい」
「いや、お前ェじゃねぇよバカ――ごめんなさい一言余計でした。リサちゃんがだよ」
「何の問題も無かったよい」
あったとすれば、それは海賊達の方だろう。こんなハズじゃなかった、そういう顔で逃げて行く奴らにほんの少しだけ同情を覚えそうになって鼻で笑ってやったのはほんの一、二時間前の事。
食堂に着くと、そこは戦場と化していた。クルー達が我先にとリサの作った飯へ手を伸ばす。エースはしっかり大量に確保してやがるし、その横ではERRORがエースが盛った皿をフォークで突いて食べていた。
「グラララ! おいバカ息子ども! 俺の分はちゃんとあるんだろうなァ?」
「俺が取ってきてやるよ!」
そう言ってサッチがクルー達の中へ飛び込んで行く。オヤジがテーブルに着き、俺もそれに倣おうとして気付いた。リサの姿が見えねぇ。
「ちょっと厨房見てくるよい」
後ろからオヤジの笑い声が聞こえたが聞こえないフリをして厨房へ行くと、リサがまだ中華鍋を振っていた。出来上がったばかりのピラフを皿に盛るとコックの一人が食堂へ運んでいく。リサは次の料理に取り掛かっていた。
「大丈夫かい?」
「あ、マルコさん……作るのは良いんですけど、量が多くて……」
「悪ィなぁ、人数多いんだよい」
食堂からは頻りに「うめぇ!!」という声が聞こえてくる。それが嬉しいのか、リサは顔を綻ばせながら手を動かしていた。
「何か手伝う事はあるかい?」
「大丈夫ですよ、マルコさんも良かったら召し上がってきてください」
「俺ァ後で良いよい。今行ったらアイツらに押し潰されちまう」
笑いながらリサがどんどん料理を作り足していく。それをサッチやコック達が食堂に運んで、そのたびに「うめぇ!」って声が沢山聞こえてくる。オヤジの「成程、こりゃァ確かに美味ェな」って声と笑い声も聞こえてきて、俺まで嬉しくなった。
食事が始まってから一時間程経った頃、漸く満腹になったのかクルー達が口々に「美味かった!」「ご馳走さん!」と言いながら食堂を出て行った。ひたすら鍋を振り続けていたリサは、これで最後だと皿にピラフを盛り付けた。それにスプーンを添えて、俺に差し出してくる。
「はい、マルコさん」
「……俺のかい?」
「はい。ずっとここにいて食べれなかったでしょう?」
あぁ、何でこんな事をしてくれるんだ。緩む口元をどうする事も出来ず、「ありがとよい」と言って受け取りスプーンを手にする。昨日、昼も夜も俺がこのピラフを頼んでいた事を覚えててくれたらしい。昨日の夜に他の料理にも手を付けたが、一番好きだと思ったのがこれだった。勿論、他の料理も文句無しに美味かったが。
「リサは食わねぇのかい?」
「さっきお店でおつまみ食べましたから」
「あぁ……悪かったよい。酒呑んでたのに作らせちまって……」
「大丈夫ですよ。ほんのちょっとしか飲んでませんから」
後片付けを始めるリサの傍で、樽に腰を下ろしたままピラフを食う俺。そこに空になった皿の山を持って来たサッチとERRORとエース。それからオヤジ。
「グラララ! ありがとよ、リサ。美味かったぜ」
「ありがとうございます」
「アタシも皿洗い手伝うよ」
「ありがと」
「んじゃ、俺は皿拭きでもしようかね」
「お、マルコ! お前何でまだ食ってんだ!? 俺も食いてェ!」
「馬鹿野郎、やんねぇよい」
散々食っただろうが、馬鹿エース。涎垂らすんじゃねぇ。手を伸ばしてくるエースを蹴り飛ばしてピラフを掻っ込む。空になった皿に「ああぁぁぁ……」なんて情けねぇ声を出すエースと、笑うオヤジ達。
「ごちそうさん」
「はい、お粗末様です」
「俺のピラフうぅぅぅ……」
まだ言い続けてるエースを無視してオヤジと一緒に厨房を後にする。食堂ではコック達がテーブルを拭いたりご飯粒やジュースが零れた床を掃除していた。そのまま食堂を素通りしてオヤジについて船長室へ行くと、オヤジは上機嫌に酒を飲み始めた。
「オヤジ、あんま呑み過ぎんなよい」
「グララララ! 美味ェ飯だったなぁ、マルコ」
俺の忠言は無視だ。いつもの事だが、もう少し自分の身体を労わって欲しいと思う息子の気持ちもちったァ理解して欲しい。いや、理解はしてくれてるか。耳を貸さないだけで。
「娘にすんのかい?」
「それを望んでんのはお前ェらだろうが」
鋭い指摘に思わず言葉に詰まる。そんなに分かり易かったか、と少しばかり恥ずかしく思うが、だからと言って「違う」なんて言ってもオヤジには通用しねぇし、言うつもりもねぇ。
「お前ェが惚れるのは一体どんな女かと思ってたが……だが悪くねぇ、面白ェ女だ」
「………あぁ」
小さな声で、けれどハッキリと肯定するとオヤジはまた声を上げて笑った。
「そういやァ、船に来る途中で海賊に襲われたって言ってたな」
「あぁ、昨日ERRORに店から放り出された奴らがリサを狙って来たんだよい」
「詳しく聞かせろ」
オヤジの望むままに、俺はほんの数時間前の出来事をそのまま伝える。オヤジの笑みが濃くなっていくのを確かに感じながら。
「グララララ! そいつァ良い! 益々気に入ったぜ」
「だと思ったよい」
「なぁに、まだ数日あるじゃねェか。おい、マルコ。上手くやれよ」
「………努力はするよい」
『宝』をみすみす逃す程、『良い人』ではないからな。