06


「ダンテさん、これもお願い」
「はいよ! 今日は随分と大量だね」

毎朝の買い出し。いつもより多く買い足している事に笑いながら箱に詰めてくれる八百屋のおじさんに私は苦笑した。

「昨日、お店中の食材全部使い切っちゃったの」
「へぇ? そりゃ凄い! 白ひげの海賊達が来たんだろう? 大丈夫だったかい?」
「大丈夫だよ。ちゃんとお金も払ってくれたし、とても気の良い人達ばかりだったから、私もERRORも楽しかったの」
「そりゃあ良かった! たまに来る海賊達は嫌な奴らばっかだろう? ERRORちゃんが追い払ってるのをちょくちょく見かけるから心配してたんだよ。強いのは分かってるけど、やっぱり女の子だもんなぁ」
「心配してくれてありがと」

買った野菜を店主のダンテさんが箱に詰めてくれて台車にまで乗せてくれる。いつも手伝うって言ってるのに、させてくれない。ダンテさんはとても優しくて、ちょっと頑固。私だってそんなに弱くないのに、女なんだから、って手伝う事もさせてくれない。ちょっとだけ申し訳無いなって思うけど、嬉しいと思う。この島の人達は、本当に優しくて温かい。

「店まで運んでおくよ。次の買い物もあるんだろう?」
「いつもありがとう、店で待っててくれる? ロイさんがお店で待ってるから」
「おう! ロイと二人でいつもの酒飲んでるよ!」

台車を引いてお店へ向かって行くダンテさんを見送って、お魚屋さんとお肉屋さんへ向かう。皆、昨日の夜に白ひげ海賊団の人達が店に来た事を知ってて、大丈夫だったか?って心配してくれる。それぞれ買った食材を台車に乗せてお店まで運んでもらい、私も一緒にお店へと戻った。

「お帰り! 先に始めてるよ!」

店に戻ると、ほんのり頬を赤くしたダンテさんと酒屋のロイさんが私達を迎えてくれた。お魚屋さんのジャックさんとお肉屋さんのコルトさんも適当な椅子に座って、私が用意しておいたグラスにお酒を注いで「乾杯」とグラスをぶつけ合う。いつもサービスしてくれるし、お店まで運んでもらうからお酒とつまみを少しだけサービスするっていうのが決まりごとみたいになっている。私も自分のグラスを取って、一緒にお酒を飲んだりお酌をしたり、つまみが無くなれば適当に作ったり。

ERROR嬢は? まだ寝てんのか?」
「ううん、今日は早起き」

コルトさんの質問にちょっとだけ含み笑いをすると、コルトさんだけじゃなくダンテさんもジャックさんも首を傾げた。

「へぇ? ERROR坊が早起きなんて珍しいなぁ」
「『定休日くらいいっぱい寝たい!』っていつも昼過ぎまで寝てるのになぁ」

そう言って笑うのはジャックさんとダンテさん。

「デートなんだとよ」

お酒を買いに言った時に教えていたロイさんがニヤリと笑う。そうやって笑うとお店に来る海賊達みたいだから止めろって皆が言うのに、ロイさんは止めない。「俺の勝手だろ!」なんて言っては、奥さんに「この人、昔は海賊に憧れてたのよ」なんて茶化されている。

「デート!?」
ERROR坊が!?」
「誰と!?」

ロイさんの発言にコルトさん達が目を丸くして一斉に声を上げる。

「聞いて驚け! 白ひげ海賊団二番隊隊長の『火拳のエース』だ!!」
「ふふ、ロイさん詳しいね。エース君って言っただけなのに」
「誰だって知ってるだろ! 有名な海賊だ!」

私は知らなかったけど、他の三人は違っていたらしくて益々目を丸くしていた。

「海賊!?」
「『火拳のエース』なんて物凄く有名な海賊じゃないか!」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、とても良い子だから」
「良い子、って……海賊だろ?」

心配そうに眉を寄せるジャックさん。「ERRORのお父さんみたい」なんて言えば、「いつでもなってやるぞ!」って返ってくる。そんな事言って、奥さんに叱られても知らないんだから。

「それに、恋愛は自由だもの」
「おいおい、どーすんだ? 連れてかれたりしねぇか?」
「どうかな。でも、ERRORがそれを望むのなら止めないよ」
ERROR坊がいなくなったら寂しくなるなぁ」
「店だって大変になるだろう?」
「そうね、その時は――」
「リサも一緒に来るかい?」

突然聞こえた新しい声に驚いて振り返ると、マルコさんが立っていた。ロイさんが「一番隊隊長の不死鳥マルコ!」って叫んでるけど、その声は何処か嬉しそう。

「どうしたんですか?」
「実は、ERRORが船に来てんだよい」
「え?」
「海賊船に!?」
「何でまた……」
「お、おい、アンタ! ERROR坊に何かしたら許さないからな!」

コルトさん、ダンテさん、ジャックさんが慌てながら立ち上がる。私の前にやって来て、まるで庇うようにして立ってくれた。嬉しいけど、この人は皆が思う程危険な人じゃないのに。

「大丈夫だよ。どうせERRORが自分で行ったんだろうし……白ひげ海賊団の人達は悪い人じゃ無い」
「けど、」
「なぁ………」

渋い顔をする三人にもう一回「大丈夫だよ」って笑いかけて、マルコさんに歩み寄る。

「どうしたんですか? ERRORが何か迷惑を……?」
「いや、そういうんじゃねぇんだ。ただ、俺らの船でERRORとエースが『リサの料理は最高だ』って自慢しててねい。オヤジやクルー達が『食いてェ』って言い出しちまったんだい。それで、あー……悪ィんだが、良かったら作りに来てくれねぇかい? この店は今日は定休日だって聞いたし、うちのオヤジはこの店のドアくぐれねぇからよい」
「あ、何だ……そういう事ですか」

迷惑をかけたんじゃないのなら良かった。それにしても、ERRORったら……お客さんのエース君に褒めてもらえるのは嬉しいけど、ERRORが私の事を自慢するのはちょっと恥ずかしい。嬉しいんだけどね。

「私は構いませんが、その……期待に応えられるかどうか……」

期待した事を後悔させてしまったらどうしよう。そう思ってる事が顔に出ていたのか、マルコさんの大きな手が私の頭に優しく置かれた。驚いて見上げると、優しく微笑むマルコさんの顔。

「リサの料理は最高に美味ェよい」
「――あ、りがとう……ございます……」

顔が熱い。まさか、マルコさんにそんな事を言われるとは思わなかったし、頭を撫でられるなんて露程も予想していなかった。

「なるべく早い方が助かるんだが、どれくらいで来れそうだい?」
「あ……えと、」

どうしよう、とロイさん達を振り返ると、お酒を飲み干したロイさんが「行って来い」と言ってくれた。

「俺らはもう店に戻らァ」
「お、おいロイ!」
「リサちゃん、大丈夫か?」
「何かあったら……」

心配してくれるコルトさん、ダンテさん、ジャックさんにロイさんは「大丈夫だ」と手を振って笑う。

「リサも言ってたろ? 悪い人じゃないって。お前らリサやERRORを疑うのか?」
「それは……」

無言で顔を見合わせてから、三人が一歩踏み出してマルコさんを睨み付ける。

「い、言っておくが、リサ嬢とERROR坊に何かあったら――」
「絶対に赦さないからな!」
「島を挙げて戦ってやる!!」

怖いくせに、私やERRORの為にそんな事を言ってくれる。何処までも優しくて温かい人達に自然と笑みが浮かんだ。

「肝に銘じとくよい」

両手を顔の横まで挙げて降参のポーズを取りながらマルコさんが答える。余りそういう事をするような人には見えないけど、もしかしたら皆を少しでも安心させる為にしてくれたんじゃないかな、って思うのは……信じすぎかなぁ?

「ほら、帰るぞ。リサ、またな」
「うん、ありがとう。皆も。大丈夫だよ、ちゃんとERRORと帰って来るから」

ロイさんに押されるようにしてコルトさん達が店を出て行く。簡単にグラスや酒瓶を片付けると、待っていてくれたマルコさんと一緒にお店を後にした。

「悪ィなぁ、邪魔しちまって」
「大丈夫です、そろそろお開きの時間だったから……呑み過ぎると家に帰って奥さんに怒られちゃうんですよ」
「この島は平和だねい」
「ふふ、そうですね。この島は他の島に誇れる名産品も無いですし、人の好さだけが自慢です!」
「ずっとこの島に住んでんのかい?」
「いえ、三年前にこの島に来たんです」
「じゃあ、この島に来てすぐにあの店を?」
「はい。手探り状態から始めたんですが、何とかやっていけてます」

ERRORを産んだのが若かったから、とても大変だった。頼れる人がいないというのはとても心細くて、あの頃はよく泣いていたなぁ……そんな事を考えていると、ふと誰かに見られているような気配がした。纏わり付くような気持ち悪い視線。隣を見上げると、マルコさんも気付いているみたいだけど、何か……不機嫌そう?

「あの……」
「――ったく、邪魔しやがって」

小さな舌打ちと共に吐き捨てたマルコさんは「先に行ってろい」って船に続く道を指す。嬉しいけど、でもそれはダメ。

「ダメです」
「あ?」
「だって、きっと昨日の人達ですよね? だから、マルコさんはダメです」
「あのなぁ、」
「私達のお店の問題ですから、関係の無いマルコさんに迷惑はかけられません」
「………」

ムッとした顔で私を見下ろすマルコさんはちょっと怖いけど、ダメなものはダメだから。

「………分かった」

渋々と頷いたマルコさんにホッと息をついた。相変わらず眉間に皺は寄ってるけど、もう怒ってないみたい。自分が思っていた以上にマルコさんが怖かったのかもしれない。手が震えてないと良いんだけど。

「じゃあ、先に――」
「ここにいるよい」
「え?」
「その代わり、手は出さない。それで良いだろい?」
「はぁ……まぁ、それなら……」
「リサを迎えに行ったのに俺一人で船に戻ったらオヤジやERRORにどやされちまうよい」

そういうもの?首を傾げたその時、何処から現れたのか男の人達が沢山現れて私とマルコさんを囲んだ。その中には昨日ERRORに追い払われた海賊達がいる。

「よぉ、姉ちゃん」
「昨日はえれぇ目に遭わせてくれたなぁ」
「覚悟しろよ」

海賊達が口々に言いながら、その顔には思わず嫌悪感を抱いてしまう嫌な笑いを浮かべている。

「一つだけ良いですか?」
「あぁ?」
「今更命乞いかぁ?」
「泣いて謝っても赦してやんねぇぞ」
「俺ら全員を楽しませてくれるってんなら考えてやるけどなぁ」

隣にいるマルコさんからピリピリした空気を感じる。うん、怒ってる。

「この人は無関係ですから、手を出さないでくださいね」
「ハッ、人の心配してる場合か?」
「その台詞はそっくりそのままお返しします」
「あぁ!?」
「ざけんなよ、このアマ!!」
「やっちまえ!!」

海賊達が一斉に飛び掛かってくる。マルコさんには何もしないでって言ってるのに……。振り下ろされた刀を避けて左脚で海賊の顎を蹴り上げる。一人目。その海賊を蹴って背後から襲ってきた海賊達の攻撃を避ける。地に足が着くと同時に地を蹴って海賊の懐に飛び込み、掌で鳩尾を強く押す。二人目。吹き飛ばされる海賊からちゃっかり奪っていたサーベルで背後の敵を斬り倒した。

ERRORにやられた時点で諦めて帰っていれば良かったのに」

まさか斬られると思っていなかったのか、海賊達の間に動揺が走ったのを見て溜息を一つ。チラとマルコさんの方を見れば、マルコさんも少しだけ驚いてるみたいだった。驚かせてごめんなさいと心の中だけで謝り、残りの敵の懐へ飛び込んで斬り倒していく。

「な、何だよこの女……!」
「そろそろ帰ってくれませんか? そこの人達を連れてこの島を出て行ってください」
「ふざけんな!! テメェ! よくも……ッ!」
「あの子じゃなくて私の所に来たのは褒めてあげます。あの子に手を出していたら、赦しませんから。――帰ってくれますよね?」

にっこり笑ってみせれば、海賊達は顔を見合わせてから銃を取り出して私に照準を向けた。

「死ねええぇぇッッ!!」

銃声が、響き渡る。