「おい、エース! 客だぞ!」
突然何かに頭を殴られて俺は目を覚ました。痛む頭を擦りながら俺を殴った奴を睨み上げると、そこにはニヤニヤと気持ち悪ィ顔をしたクルーの姿。スペード海賊団からの仲間のジョンだ。
「………顔がいつも以上に酷ェ事になってんぞ」
「いつも以上って何だよ!」
「ンだよ、まだ眠ィっつーの……」
ゴロンと寝返りを打ってそいつに背を向ければ、「寝るなって!」と慌てた声が振ってくる。だから、眠いんだっつーの。
「だーかーら! 客だっつってんだろ!?」
「あ? 客ぅ?」
誰だよ?って聞けば、「スッゲー可愛い子! お前もやるねぇ」なんて、ムカつく笑顔と一緒に返ってきた言葉。可愛い子?
「………ERRORか?」
「エースと約束したって言ってたぜ? あの子が昨日お前らが呑みに言った飯屋の子か?」
ホントに可愛いのな、って言葉は半分くらいしか聞こえなかった。慌てて飛び起きて部屋を飛び出した俺の背中にジョンの冷やかすような声がかけられたけど聞いてる暇はねぇ。猛ダッシュで甲板に出ると、ニヤニヤとムカつく笑みを浮かべてるサッチ達と、デレデレと気色悪ィ顔してる他のクルーの姿。ムカつく笑みを浮かべてんのは、昨日一緒に店に騒ぎに行った奴らだ。そんで、そいつらに囲まれて暢気に笑ってるERRORがいた。
「あ、やーっと起きた! おはよ!」
「……はよ」
「九時に噴水の前って言ったくせに、全然来ないんだもん! まさかと思って来てみればホントに寝てたし!」
「あー……悪ィ、今起きた」
つーか、起こされたんだけどな。ジョンが来なかったらもっと寝てたな。
「まぁ、昨日帰る時ベロベロだったもんねー。許してあげよう! それにね、ホント言うとこの船に乗ってみたかったんだ! 鯨の船可愛い!」
「グララララ! ありがとよ」
「オヤジ!」
「わっ、大っきい……!!」
船室から出てきたオヤジを見てERRORが目を丸くする。オヤジの後ろにはマルコがいて、何故か辺りをキョロキョロ見回してた。何してんだ?
「エースに女が出来たってんで来てみたんだが……お前ェがそうか」
「は!? 女!? ち、違うよ!」
慌てたように首をブンブン振って否定するERROR。………そんな嫌かよ。唇をひん曲げてERRORから視線を逸らすと、ニヤニヤ笑うサッチ達がいた。畜生、アイツら覚えてろよ!
「ただの友達! それにアタシ、海賊とは付き合わないって決めてるし!」
「………」
苛々する。俺らは他の奴らとは違うって言ったくせに何だよ。海賊だからって毛嫌いする事ァねーだろ。
「あー……やっぱ、海賊嫌い?」
サッチがチラチラと俺の方を見ながらERRORに聞いてる。他の奴らは少しだけ苦い顔でERRORを見てた。
「うん、嫌い」
あっさり頷くERROR。昨日店に行ってない奴らがあからさまに顔を顰めたのが分かった。
「でも、この船の人達は好き」
は?
「好き? 俺らが?」
「うん、だってエースが言ってたもん。いつも店に来るムカつく海賊達とは違うって。あんな風に武器ひけらかして一般人脅すような事はしないって。自由に生きたいだけだって」
確かに言った。けど、ここで言われるとちっとばかし恥ずかしい。あーチクショ、そんな生温かい目で俺を見るな!悪かったな!クサい台詞だって自分でも分かってるっつーの!こっち見んな!!オヤジも笑うな!
「でも、じゃあ……海賊とは付き合わねぇってのは?」
ムカつく笑いを残しながらサッチがERRORに尋ねる。
「あぁ、だって海に出たきりで帰って来ないじゃん」
「あー……そりゃ………」
海賊は海に出るもので、陸の女達はその帰りを待ち続ける事になる訳で。いつ死ぬかも分からない。もしかしたら、二度と帰って来ないかもしれない。そういう不安は常に付き纏う。
「だから、嫌なの」
俺も、サッチも他の奴らも何も言えない。海に出る俺達は良い。自分の意思で海に出て、好き勝手生きてるんだから。けど、その家族や恋人達は不安に押し潰されそうになりながら待っている。それは確かに、嫌だ。俺だって嫌だ。
「ならお前ェ、一緒に海賊になりゃ良いだろうが」
何が楽しいのか、オヤジは笑っていた。
「バカ息子どもに聞いたが、お前ェ戦えるんだってなァ? どうだ、俺の娘になるか?」
「!!」
まさか、オヤジがERRORを誘うとは思わなかった。確かにそこらの海賊より強ェとは言ったし、多分オヤジの事だから俺がERRORをどう思ってるかも気付いたんだろう。けど、まさかそう言ってくれるとは思っていなかった。当のERRORと言えば、あの白ひげに直々に誘われた事に驚いてるのか、ポカンと口を開けてオヤジを見上げている。間抜け面なのに可愛いとか思う俺は、自分で思ってる以上にERRORに惚れ込んでるのかもしれない。
「………え、アタシ?」
「そうだ」
「この船に?」
「乗るか?」
パチパチと瞬きを数回。どうやら、必死に頭をフル回転させて理解しようとしてるらしい。数秒間沈黙を続けたERRORは、漸く理解したのか必死に首を振った。
「いやいやいやいや! 無い! 無いよ! 別に戦うの好きじゃないし! お店護りたいから鍛えてるだけでッ! リサだっているし! お店だってあるし!」
「そのリサって奴にも会ってみてェなァ。料理が美味ェってマルコに聞いたぜ」
は?マルコ?オヤジの隣に立つマルコを見るとすぐに視線を逸らされた。何なんだ?つーか、マルコも気に入ったのか。そりゃ、そーだよな!
「おう! リサの飯はめっちゃ美味ェぞ!」
「当然でしょ! リサの料理は最高だもん!!」
俺が笑うとERRORが胸を張って言い切った。リサの事を誇りに思ってるんだって事が分かる。家族を大事に思ってるのがスゲーよく分かる。多分、それも俺がERRORを好きになった理由の一つだと思うんだ。家族を愛してるERRORだから、俺はERRORが好きだと思う。サバサバした性格も、他の島の飲み屋の女みてェにクネクネしねぇ所も、全部。
昨日店に行った奴らもリサの料理が美味かったってスゲー褒めてて、嬉しそうに笑うERRORに俺も嬉しくなった。
「グララララ! そんなにか。一度食ってみてぇモンだ」
「お店来てくれたらいつでも――って、ごめんなさい。無理だ。大きすぎてお店のドアくぐれないかも……今日は定休日だし……」
「連れて来りゃ良いんじゃねぇか?」
提案したのはサッチで、そりゃ良いって皆が声を揃えた。店に行ってない奴らがスゲー食いたそうにしてる。勿論、俺も賛成だ。ERRORも別に構わないと思うって笑ってる。
「家にいんのか?」
「んー、ううん。店にいると思うよ。アタシが家を出る時には買い出しに行ってたから、もう店に帰ってるんじゃないかな」
「買い出し? ERRORは良かったのか?」
誘ったのは俺だけど、リサ一人で買い出しはちっとばかしキツイんじゃねぇか?そう聞くと、ERRORは平気だって笑った。
「リサは店のおっちゃん達に人気で、いっつもサービスしてくれんだよ。買ったもの店まで運んでもらって、その後お店で一緒にお酒飲みながら話してるの。だからアタシいなくてヘーキなの」
「そりゃあ……あー……」
サッチが何処かそわそわしながら言葉を濁す。何なんだ?ERRORも小さな声で「あ」って言ってから口を押さえている。ホントに何なんだ?二人がチラチラとどっか見てるから視線を追ってみれば、そこにいるのはオヤジとマルコ。マルコは無表情。オヤジは何で笑ってんだ?
「で、でも! いつもそんなに飲んでないし、おっちゃん達結婚してるし、フツーに話してるだけだし! もうそろそろ終わるんじゃないかな! 迎えに行ってみれば良いと思う! ね、サッチさん!」
「お、おぉ! んじゃ、そうするか! オヤジ! 俺、ちょっくらリサちゃんトコ行って連れて来るわ!」
「グララララ! 勝手にしやがれ」
「サッチ、お前今日船番だろい」
無表情のままのマルコが言うと、サッチはわざとらしく「おぉ、そうだった!」なんて言いやがる。何なんだ?
「じゃあ、しょうがねぇな。代わりにマルコ行って来てくれよ。オヤジがリサちゃんの飯食いたがってんだ、行くだろ?」
「………しょうがねぇな」
渋々……ホントに渋々か?ま、良いや。とにかく、マルコがあっという間に船を降りて行っちまった。面倒臭そうな顔してた割には見えなくなるの早ェ気がすんだけど?あれ?
「………何なんだ?」
呟いた俺を、サッチやERRORを含めたクルー皆が驚いた顔で振り返った。怖ェよ!!
「信じらんない!」
「お前マジで言ってんのか!?」
「俺だって分かったぞ!?」
「俺も!」
「だから! 何だってんだよ!?」
「グラララララ!!」
オヤジの楽しそうな笑いに、俺はただただ首を傾げるばかりだった。畜生!俺だけ仲間外れかよ!