地下室を出たマルコとリサは、押し寄せる海兵達を蹴散らして屋敷を後にした。悲鳴を上げる身体を無視して門を越え、南側へとやって来た二人はそこで漸く足を止めた。
「酷ェ格好しやがって」
「マルコも似たようなモンだろ」
「犯人はテメェだよい」
「悪かった」
深く頭を下げたリサにマルコは僅かに目を見開いた。頭を下げ続けるリサを胡乱気に見下ろし、その頭に手を置くと容赦なくぐしゃぐしゃに掻き回してやった。終いに軽く拳骨を落とすと、リサは勢いよく顔を上げて顰め面でマルコを睨んだ。
「痛ぇよ! 何すんだ!」
「謝罪の言葉一つで済むと思ってんのかよい。めでてぇ頭しやがって」
「……何だよ、責任取って船降りろってか?」
「バカ言ってんじゃねぇ。テメェが俺らに言わなきゃなんねぇ事は『ごめん』でも『迷惑かけたので船降ります』でもねぇんだよい」
「………?」
「よく考えろアホンダラ」
さっさと歩き出してしまうマルコの背を見つめながら、リサは難しい顔で首を傾げていたが、やがて一つの答えを弾き出して駆け出した。マルコの隣に並ぶと、マルコがチラリと視線だけをリサに向ける。
「ありがとう、マルコ」
少しだけ照れ臭そうな顔で微笑んだリサの頭を軽く小突いて足を速めたマルコは、穏やかに微笑んでいた。
港はあちこちが凍り付き破壊され、モビー・ディック号も至る所に傷を追っていた。船大工達は忙しなく動き回り、隊員達は傷の手当を終えた者から酒を片手に笑っていた。船から降りてリサの帰りを待っていたレイア、テレサ、ジーン、ナンシー、サティ、サッチの六人は、街の方から歩いてくるリサとマルコの姿を見つけると一目散に駆け寄ってきた。
「リサ!!!」
レイアが勢いよくリサに抱き付く。受け止めきれずに後ろに倒れ込み尻餅をついたリサにしがみ付いたまま、レイアは離れなかった。
「良かった……っ、良かっ……」
「ごめんな、勝手にいなくなって」
「も……戻って来な、かと、思っ……」
「ただいま、レイア」
レイアを抱きしめてリサが笑う。ナンシーとサティもリサにしがみ付いて一緒になって泣き出すと、リサは困ったように笑って二人の頭を撫でた。テレサとジーンも苦笑しながら近付き、リサの頭を軽く叩いてからそれぞれナンシーとサティに手を貸して立ち上がらせ、宥めるように背中を撫でてやった。
「ったく、心配させやがって」
未だにしがみ付いたままのレイアの頭を軽く撫でてからサッチがリサの額を指で弾く。
「お帰り」
「ただいま」
「おら、レイア。とっとと船戻んぞー」
レイアの両脇に手を差し込んで立ち上がらせると、レイアは身体を反転させてサッチにしがみ付いた。泣いている顔を見られたくないのか、ぐすぐすと鼻を啜るレイアに笑みを零してサッチはレイアを抱き上げた。
「おーおー、甘ったれな妹が出来たモンだ」
「うるさい、さっち」
サッチの肩口に顔を埋めたままレイアが呟く。
「ほら、リサも戻んぞ」
「おー。イテテ……」
立ち上がろうとして痛みに顔を顰めたリサの目の前に手が差し出される。きょとんと目を丸くしてその手を視線で追っていくと、呆れたような顔のマルコがいた。
「何、手ェ貸してくれんの?」
「置いて行って欲しいってんなら、」
「サンキュ」
マルコが手を引っ込める前にその手を掴んでニッと笑うと、マルコは僅かに鼻を鳴らしてその手を引き上げた。
「痛ェ! もっと優しく引っ張れよ!」
「手ェ貸してもらっておいて文句言ってんじゃねぇよい。とっとと歩け」
「うおっ、ちょ、速ェよ! 身体痛ェっつってんだろ!」
「ざまぁみろい」
ハッと鼻で嘲るマルコに顔を顰め、その背中に膝蹴りを見舞いしたリサはマルコの手を振り解いて船に向かって走り出した。
「テメェ!! 待ちやがれ!!!」
「誰が待つか!!」
怒りの形相で追ってくるマルコから逃げながら、リサはレイア達を追い越して船に駆け登った。甲板に上がると、皆が口々にお帰りと笑いかけてくれる。真っ直ぐ白ひげの元へ向かったリサは、ほんの少しだけ緊張した面持ちで白ひげの前に立った。甲板中が静かになる。
「あー……その、」
「けじめは付けて来たんだろうなァ?」
グビと酒を呷りながら白ひげがリサを見る。リサは照れ臭そうに笑って頷いた。
「あぁ、私は『リサ』だ」
「………そうか」
酒を置き、声を上げて笑うと白ひげは立ち上がりリサの頭に拳を落とした。
「痛ェ!」
「一人で無茶しやがって。ちったぁ頼りやがれ」
「……悪かった」
頬を掻きながらバツが悪そうに謝るリサに口角を上げ、白ひげはリサを腕に閉じ込めた。
「よく帰ってきた」
「私の家はここだからな。――ただいま、オヤジ」
「グララララ! 野郎ども! バカ娘が漸く帰って来やがった!!」
甲板中から雄叫びが上がる。口々に発せられる「お帰り」という言葉にリサは満面に笑みを浮かべ、大きな声で叫んだ。
「ただいま!!」
「「「宴だああぁぁぁぁっ!!!」」」
「バカ言ってんじゃねぇよい! 海軍が攻めてくる前にとっとと出航だ!! 全員持ち場に付きやがれ!!!」
空気を読まないマルコの怒声に全員が唇を尖らせ不満を訴えた事は言うまでもない。