指定されていた場所に『姿現し』したルーシーは、既にそこにいた人物に気付いて眉を寄せた。
ルーシーに気付いた人物が仮面を外しながら艶然と微笑む。
「てっきり来ないかと」
「よく言う」
そんなこと有り得ないと知っているくせに。
吐き捨てるルーシーにくつくつ笑い、ルシウスが左手を差し出した。ローブをたくし上げると、腕の内側に刻み込まれた趣味の悪い髑髏にそっと触れる。
「何か、言い残すことは?」
「あったとしても、アンタに言うことじゃない」
「つれないな」
何が愉しいのか。笑うルシウスを睨み付けていれば、視線に気付いたルシウスが笑みを深める。
「苛々する」
「それは残念だ。私は楽しくて仕方がないというのに」
神経を逆撫でするような言い様に舌打ちをすれば、今度こそ声を上げて笑ったルシウスが何かに気付いたように顔を上げる。
「時間だ」
差し出された左手を睨み付けていれば、急かすように手招きをされた。
この手を取れば、もう後戻りは出来ない。
いや、違う。ルーシーは自嘲した。もう既に手遅れだ。
ルシウスの手に触れると同時に、視界が歪む。
「ようこそ、果てなき闇へ」
愉しげに紡がれたその言葉は、ルーシーの耳の奥にいやにこびり付いた。
ルシウスと共に『姿現し』した場所は、この間と同じ屋敷の前だった。
我が物顔で進むルシウスの後に続きながら、何となくこの屋敷がルシウスの家なのだろうと推測する。
「我が君」
お待たせしました。恭しく頭を垂れたルシウスがスっと左へと移動する。
目の前の大きな背中が消えた後に見えたのは、忘れもしない、闇の帝王の姿だ。
「ご苦労、ルシウス」
悠然と笑むヴォルデモートが腕を広げてルーシーを迎えた。
「よく来てくれた」
よく言う。心の内で吐き捨ててルーシーはヴォルデモートを睨み付けた。
微かに震える手で拳を作り、必死に気丈に振舞うルーシーにヴォルデモートはただただ嗤う。
「さぁ、来るのだ」
招かれるままに足を進めれば、正面に立つヴォルデモートが満足気に目を細めてルーシーの手を取った。
けれど、いつまで経っても次の動きがない。意図を図りかねて見上げれば、眉を上げてこちらを見下ろすヴォルデモートの目とかち合う。
あぁ、そういうことか。
歯を食いしばりつつもその場に跪き、向けられた手の甲にそっと唇を寄せる。
屈辱的なそれに怒りがこみ上げるが、それでも抵抗することは出来ない。抵抗しないことを決めたのだから。
「歓迎しよう、ルーシー・カトレット」
傍らに屈み込んだヴォルデモートが囁くように告げる。
「そして――、」
途切れた言葉に顔を上げれば、企みを乗せた笑みを浮かべるヴォルデモートとかち合う。
「お前には懐かしいのではないか?」
「………?」
訝しむルーシーを嘲笑うかのように目を細めて身体を起こしたヴォルデモートがルシウスの名を呼ぶ。
短く返事をしたルシウスの後に続いて何人かの死喰い人が後ろに並んだ。
「このたび、新たに我がしもべとなった者たちだ。何とも賢明な判断だ、紹介しよう」
その場にいる全員に、というより、ルーシー一人に聞かせようとしているようだ。
一体何を企んでいるのか。油断なくヴォルデモートを見つめていると、死喰い人の一人が仮面を外した。
「、アンタ……」
仮面を外した男がニタリと嗤う。マルシベール――スネイプの同室だった男だ。
他寮の生徒たちに闇の魔術を使う、最低な奴。リリーが最も嫌っていたスリザリン生だ。
続いて、もう一人が仮面を外す。エイブリー――彼もまた、スネイプと親しくしていた男だ。
もしかしたら、と思っていた。まさか、本当に死喰い人になるなんて。
「次が、最後の一人だ」
険しい顔で二人を睨みつけるルーシーの耳に、ヴォルデモートが囁く。
嫌な予感がする。まさか、そんなはずはない。
どくん、どくんと耳のすぐ傍で聞こえる鼓動に焦燥感を煽られながら、ルーシーはグッと拳を握り締めて仮面を付けた最後の一人へと視線を向けた。
そして、最後の一人が仮面を外す。
「、」
うそだ。
「紹介しよう」
そんなはずはない。
「このたび、新たに俺様の部下となった」
そんなの、ダメだ。
「セブルス・スネイプだ」
感情の篭らない目がルーシーを捉える。
あぁ、どうして。
震える唇が何と零したのかも覚えていない。
いやだ。何で。
それだけは、絶対にないと信じていたのに。
意識して会わないようにとしていたから、卒業まで殆ど会うことはなかった。
卒業式の時だってその姿を確認してはいない。式の後も、彼の姿は一度も見なかった。
幸せになってくれれば良いと思っていた。
生きていてくれれば良いと思っていた。
全てを投げ打ってまで助けたいと願った相手は、死喰い人としてルーシーの前に立っていた。