どうして。
スネイプはベッドの中で強く目を瞑った。
夜も更けたこの時間、同室の友人たちは既に寝息を立てている。
数時間も前にベッドに入ったはずなのに、未だに睡魔がやってこない。どうにか眠ろうと目を閉じても、浮かぶのは別れを告げたルーシーばかりだ。
どうして。
何が、どうして、こうなった。
好きだった。
好きだと思ってくれていた。
嘘だったのか?
違う、そんなはずはない。
自問自答を何度も何度も繰り返して、それでも答えは出てこない。
何かがあったに違いない。何かがあったに違いないのだ。
だって、そうじゃなきゃ。
全てが偽りだったと認めることになってしまう。
そんなこと、耐えられない。
好きだった。どうしようもなく好きだった。今でも好きだ。
ルーシーもそう思ってくれていると思っていた。信じていた。知っていた。
それならば、どうして。
何かがあったのではないか。
何か理由があったのだと思いたいだけだ。
だって、彼女は想ってくれていた。
想ってくれていたと思いたいだけだ。
だって、幸せそうに笑っていたじゃないか。
その裏で自分を嘲笑っていただなんて、思いたくないだけだ。
恐怖。
疑心暗鬼に囚われてしまったスネイプには、もう何が何だかわけが分からない。
悪い夢なら覚めてくれ。
何度願って朝を迎えても、待ち受けるのは受け入れがたい現実だ。
眠るのが怖い。起きるのが怖い。
どうして。どうしてどうしてどうして。
答えを与えてくれる彼女に会うのが怖い。これ以上辛い現実を突きつけられたくない。
苦しくて、苦しくて。
悲しくて、悲しくて。
辛くて、辛くて。
寂しくて、寂しくて。
怖くて。
誰かに、助けて欲しくて。
その夜、スネイプは夢を見た。
何度も思い描いた未来予想図だ。
彼女は隣で幸せそうに笑っていて、自分も笑っていて。
好きだと囁いて、唇を寄せて。
あぁ、幸せだ。
温もりを抱きしめて、スネイプは笑う。
幸せ。嬉しい。楽しい。
ずっと、こんな日が続けばいいのに。
そして、目が覚める。
夢を裏切る現実に落胆し、傷つき、拒絶する。
笑い方を忘れた。
何をしても、楽しくない。
何をしても、何も感じない。
「セブルス……」
気遣うレイの声すら、どこか遠くに聞こえる。
感覚が鈍くなって。
感情というものを忘れた頃、『それ』がやって来た。
「答えは、出たか?」
感情の篭らない目で見つめたルシウスは、何が愉しいのか終始笑みを絶やさない。
ポケットの中に入れたままだった紙を取り出して、スネイプはそれを広げた。
”すみません”
これを書いたのはそんなに前ではなかったはずだ。
それなのに、もう何年も前のことのように思える。
こんな手紙を送ろうとしていた自分の、何と愚かなことか。
かつての自分を嘲り、スネイプはそれを真っ二つに引き裂いた。
びりびり。
びりびり。
音を立てて小さくなっていく紙切れは、かつての自分自身だ。
何も知らず、何も考えず、ただ幸せを願っていただけの愚かな自分。
「――ルシウス」
足元に散ったそれを踏み潰し、スネイプはルシウスを仰ぎ見る。
感情の消え失せたスネイプの目を見つめて、ルシウスは唇で弧を描く。
あぁ、何と。
「セブルス・スネイプ」
君を、歓迎する。
一瞬。頭を過ぎった彼女の笑顔を振り払い、
差し出された手に、スネイプは自らの手を重ねた。