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「お母様から?」

訝しげなマクゴナガルに、ルーシーは一つ頷いて手にしていた手紙を差し出した。
受け取ったそれを広げたマクゴナガルが、そこに書いてあることを読んで困ったように眉根を寄せる。

「原則として、イースター休暇中の帰省は禁じられています」
「ですよねぇ。お母さんも知ってるはずなのに……どうしたんだろう?」
「レイには内緒で、と書いてあるのも気になります。どうして貴方だけが?」
「うーん……」

マクゴナガルと共に首を捻り、ルーシーは九月一日に駅のホームで別れた母の姿を思い浮かべた。
そして、母の顔を思い出すと嫌でも思い出す事がある。
それはレイにも内緒で、ルーシーと母以外には誰も知らない。

「………一応、心当たりがあることはあるんですけど……」

妹にすら秘匿するそれをマクゴナガルに話すわけにもいかない。

「えーと……やっぱりダメですかね?」

窺うように見上げれば、相変わらず難しい顔をしたままのマクゴナガルは溜息を一つ落として手紙をルーシーへ返す。

「――良いでしょう、何か事情があるのなら仕方ありません」
「え、良いんですか!?」
「今回だけですよ。貴方のお母様にもそうお伝えなさい」
「はーい」

予想外にもあっさり許可が出てしまった。
厳格なマクゴナガルにしては珍しいが、そう言えば彼女と母は同級生だったはずだ。詳しいことは分からないが、おそらく彼女も学生時代には苦労したのだろう。以前マクゴナガルに聞いたところによれば、どうやらルーシーは若かりし頃の母に生き写しらしいのだから。
それが外見的なものではなく内面的なものであることは、その時のマクゴナガルの顔を見れば一目瞭然だ。

「じゃあ、行ってきます」
「学校の外で魔法を使ってはいけませんよ」
「先生、私もう十七ですよ」
「だから言っているんですよ」

返ってくる言葉は何とも手厳しい。苦笑と共に頭を掻いたルーシーは、その日、家に帰るべくホグワーツを後にした。




「ルーシーが?」
「そうなのよ」

図書館でリリーと出会したスネイプは、幼なじみから聞かされた恋人の話に目を丸くした。

「お母様から連絡がきて、今朝ホグワーツ特急で帰ったのよ。でも明後日には帰って来るみたい」
「マクゴナガル先生がよく許したな」
「本当よね。何でも、ルーシーのお母様と同級生なんですって」

友人だから。その理由にスネイプは僅かばかり顔を顰めたが、スネイプの寮監だって自分のお気に入りにはとことん甘いではないか。どっちもどっちだ。

「――ん? けど、レイは帰ってない」
「あぁ、そうみたいね。呼び戻されたのはルーシーだけみたい」
「どうして?」
「知らないわよ」

リリーが肩を竦めたその時、ジェームズが一緒に勉強しようとリリーを呼ぶ。
それに、えぇ。頷いてリリーはスネイプを振り返った。

「怒ってると思った」
「僕が?」
「ポッターとのことよ」
「あぁ……」

言われてスネイプは離れた所でリリーを待つジェームズへと視線を向ける。
何も、嫌いだと思う気持ちが消えたわけではない。ただ、ジェームズはスネイプにちょっかい出さないと決めたらしいから――あくまでもリリーの前では、だが――、こうして距離を取って近寄ってこようとはしない。

もし、リリーがジェームズを想うようになったら。
考えてスネイプは顔を顰め、けれどすぐに首を振って打ち消した。

「リリーの好きにすればいい」

自分とて、リリーに内緒でルーシーと付き合い始めたではないか。
一年も内緒にしていたというのに、リリーはそれでもスネイプを許してこうして友達でいてくれている。
そのリリーに、ジェームズと関わるのは止めろなど、どうして言えようか。

「反対しないの?」
「したい気持ちは山々だけどな」

反対したい。そう思うだけ。
反対しない。そう決めた。

「私、セブが友達で嬉しい」
「僕もさ」

言葉にするのは少々恥ずかしいけれど。
これからのことを考えると、少しでも言葉にしておいた方が良いのでは、なんて思ったりして。

「リリー」
「なぁに?」

こちらを見つめる翡翠色の目をじっと見つめ返して、スネイプは微笑んだ。

「ありがとう」
「え?」
「あの日、君に声をかけて良かった」

もう何年前になるだろうか。
公園で妹に魔法を使って花を開いたり閉じたりさせるリリーを見つけて。
思い切って声をかけて良かった。
友達になれて良かった。

「セブ……?」

何かあったの?
不安の色を滲ませたリリーに、何もないと笑って。
スネイプは幼なじみに背を向けて歩き出した。

ルーシーが帰って来たら話をしよう。
話をして、それで、告白をしよう。
改めて告白をして、受け入れてくれたら共に逃げよう。

二人で逃げて、そして、静かな土地でひっそりと暮らすのだ。
魔法界に残っていてはすぐに見つかってしまうから、マグルとして生きなければならない。
以前のスネイプなら耐え難いことだったが、今ならそれも良いと思えるようになった。

仕事を探して、二人で幸せに暮らしていきたい。
いつになるか分からないが、魔法界が平和になった頃にリリーたちを家に招いて。
もしかしたら、その頃には子どもも生まれているかもしれない。子どもが自分のような思いをしないように、沢山の愛情を与えて育てるのだ。ルーシーと共に。

思い描く未来予想図はただただ幸せで、自然と足取りまで軽くなってしまう。
緩みそうになる頬を必死に隠して、スネイプは談話室へと戻って行った。
自分の進む道が、幸せな未来に通じているのだと信じて疑うことなく。