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「――もう一度、言って頂けますか」

動揺を隠しきれないスネイプに、男は顔にかかる長いプラチナブロンドの髪を払い、その整った顔に優雅な笑みを浮かべた。

「我々の仲間にならないか?」

紡がれる声は愉しげで、けれどその目は否むことを許さないと言わんばかりに真っ直ぐにスネイプを射抜いている。

「ルシウス……けど、でも」
「セブルス・スネイプ」

静かで威圧感のある声に思わず口を噤めば、ルシウス・マルフォイは満足気に口端を上げて一歩スネイプに歩み寄った。
伸びてきた手に身体を強ばらせるが、気にした風もなくルシウスはスネイプの黒髪を払いその頬へと触れる。

「お前の力が必要だ」
「、」

けど、でも、だって。
何とかこちらの話を聞いてもらおうと口を開くのに、声は出てこない。
まるで声の出し方を忘れてしまったかのように、ただ口をパクパクと鯉のように開閉させるスネイプを愉快げに見つめ、ルシウスはそっと顔を寄せて耳元で囁いた。

「あの方が、お前をご所望だ」

勿論、断ることなどあるまい?
確かめるように続けるルシウスに、けれどスネイプは答えることが出来ない。

頷くべきだ。生命が惜しいならば。
スリザリン生になった時点でこの可能性は十分にあったのだから。
もっと言えば、入学当初にルシウス・マルフォイに目を付けられた時点でこの未来は決まっていたとも言える。

けれど、恋人の笑顔が浮かんで。
何度も思い描いた彼女との明るい未来が焼きついて離れなくて。

「、っ、ぁ……か、考え、させて、ください……」

ぴくり。片眉を上げたルシウスの顔に笑みはもうない。

「セブルス、聞くところによると……グリフィンドールの生徒と懇意にしているらしいな?」
「っ、」
「君の友人のエイブリーが教えてくれてね。レイの双子の姉とは、私も驚いたよ」
「ルシウス……」

懇願するように顔を上げたスネイプは、こちらを見下ろすルシウスを見て息を呑んだ。

「例えば、レイだったのなら……いや、よそう」

仰々しく首を振り、ルシウスが再度スネイプを見据える。

「私の言いたいことが分かるな? セブルス」
「…………」

スネイプは青褪めた顔を俯かせたまま黙り込んだ。
短く息を吐く音が聞こえて、視界の端に見えていたプラチナブロンドがふわりと靡く。
その向こうにある身体が自分に背を向けたことに気が付いて顔を上げれば、既に歩き出したルシウスが数歩進んだ先で立ち止まり、顔だけで振り返った。

「急ぐことはない。クリスマス休暇――いや、卒業ギリギリまで待ってやっても構わない」

それまでに、精算しておくことだ。
前を向いたルシウスはそれきりスネイプを振り返ることなく歩き出す。

「学生時代の思い出作りをしたいと願うのは悪いことではない。少々冒険してみたいと思うのも――褒められたことではないが――仕方のないことだ」
「っ、ぼ、くは……っ」

違う。学生時代の思い出作りなんかじゃない。
そう言い返したいのに、それ以上声を出すことが出来ない。

どうして。思って気付く。
震えているのだ。先程から、ずっと。

「甘い思い出は必要だろう――彼女にとってもな」
「え?」

聞き取れなかった後半部分、彼はなんと言ったのだろうか。
けれど、それを尋ねる間もなくルシウスはその場から『姿くらまし』をしてしまった。

「………僕は、」

呟いたスネイプは、拳を強く握り締めて立ち尽くすことしか出来なかった。