「おい、ルーシー。お前アイツに何か言ったか?」
「は?」
シリウスの唐突な質問にルーシーは眉を跳ね上げた。
『アイツ』というのは間違いなくスネイプの事だろうが、シリウスの言う『何か』がよく分からない。訝しげにシリウスを見つめれば、その反応を答えと受け取ったシリウスが幾分か安堵したような顔になる。
「いや……違うなら良いんだ」
「何なの?」
「アイツ、ここ最近ずっとリーマスを嗅ぎ回ってんだよ」
「リーマスを? どうして」
「お前が俺らとずっと一緒にいるからだろ」
あぁ、なるほど。頷いたルーシーは眉を下げて下唇を突き出した。
確かにここ最近ずっとスネイプと会っていなかったが、まさかその理由を探ろうとしていたなんて。
「どうしよう……一回会って来た方がいいかな」
「馬鹿言え。誤魔化そうとしてます、って言ってるようなもんじゃねぇか」
「それはそうだけど……でも、リーマスのことはバレたら困るし……」
スネイプが黙っていてくれるのならバレたって構わない。隠しごとは少ないに越したことはないのだから。
けれど、スネイプとジェームズたちの仲は最悪だ。リーマス個人に対してはそこまで悪感情を抱いているようには見えないが、リーマスが普段一緒にいるのが誰かを考えたら、やはり内緒にしておくべきだと思ってしまう。
アニメーガスになると決めてから必死に練習してはいるが、やはりまだまだ習得出来そうにはない。
さすがに三年近く費やしたことだけあって、ジェームズやシリウスはあともう少しで完璧に習得出来そうだ。二人に比べればまだ時間がかかりそうだが、ピーターだって大分それらしくなってきている。
「卒業までに出来るかな?」
「お前が出来るまできっちり付き合ってやるよ」
つい零した弱音に、返ってくる言葉は何とも頼もしい。
気障ったらしいその笑い方が似合ってしまうのだから、美形は得だななんてことを考えてしまう。
「何かムカつくこと考えてるだろ」
「べ、別に!?」
「どうだか」
伸びてきた手がぐりぐりとリサの頭を押し潰して離れていく。
痛む頭を押さえながら睨み付ければ、シリウスは今まで見たこともないような優しい笑みを浮かべてルーシーを見下ろしていた。
「ありがとな」
「へ?」
「リーマスのこと。アイツ、お前に嫌われるんじゃないかって心配してたからよ」
「あぁ……何だ、そんなこと」
「お前が人狼くらいでリーマス突き放すような奴じゃねぇってことは分かってたけどよ。まぁ……でも、ありがとな」
「素直なシリウスって気持ち悪いくらい気持ち悪いね」
「お礼にキスでもしてやろうか?」
こめかみに青筋を浮かべながら近づいてくるシリウスから必死に離れ、誠心誠意こめて謝罪の言葉を叫ぶ。
舌打ちを零すシリウスの恨めしげな視線が、ルーシーの冗談に向けたものなのか、キスを拒んだことに対してなのかは分からない。
分からないが、出来れば前者であって欲しいと思う。
「私、シリウスが好きだよ」
「………何だよ急に」
目を見開いたシリウスが、必死に平静を保ちながら腕を組む。
「でも友達以上には見れない。ごめん」
「………それでも、俺はアイツとのことを認める気はねぇし、お前を諦めるつもりもねぇ」
鼻を鳴らしたシリウスが背を向けて去っていくのを見送り、ルーシーは唇を噛んで俯いた。
「………ありがと」
応えることは出来ないけれど。
好きになってくれて、ありがとう。
「早く来い、バカ女」
つぶやきが聞こえたはずはないのに、タイミング良く振り返ったシリウスがルーシーを手招きする。
「――うん!」
でもバカじゃないよ!
バカだろ?
バカじゃない!
そんな他愛もないやり取りをして。
「お前、絶対小さい動物になると思うぜ」
「何それ! 分かんないじゃん逆にすんごい大きくなるかもしれないじゃん!」
「あーはいはい、大きくなるといいなぁ、サンベリーナちゃん」
「そのあだ名は嫌だって言ったでしょ!!」
叫ぶルーシーにシリウスは声を上げて笑って。
「マグカップでも用意してやろうか?」
揶揄した直後、脛に強烈な蹴りを頂戴することになる。