学期最初のクィディッチの試合はグリフィンドールの圧勝だった。
シーカーがスニッチを取れば百五十点加算されて試合が終了となるが、ルーシーがスニッチを捕まえる頃には既に百五十点以上の差が開いていたのだから、圧勝も圧勝だ。
「よくやった!」
「ジェームズとシリウスが同じチームで良かったよホントに」
「ウッドもな。アイツ、さっきの試合で殆ど止めてたぜ」
「今のチームは最高だって言える自信があるよ」
勝利の喜びを分かち合いながら城へと戻る途中、城の玄関前でスリザリン生の集団に出会した。
おそらく下級生であろうその中には見知った顔がある。シリウスにとっては、見知ったというには見慣れ過ぎている顔だ。
「元気? レギュラス」
笑顔で話しかけたルーシーに、けれどレギュラス・ブラックは答えることも眉宇を動かすこともしない。
無表情のままこちらを見る彼は兄であるシリウスよりはいくらか普通の顔立ちで、それでも醸し出される雰囲気が名家に生まれた人間のそれであり、シリウスが持たないものでもある。
「行こうぜ」
「話さないの?」
「話すことなんてねぇよ」
ツンと顔を背けたシリウスが素知らぬ顔でレギュラスの脇を通り過ぎる。
そんなシリウスにルーシーとジェームズは顔を見合わせて肩を竦め合い後に続く。
「勝手だ、貴方は」
階段を上って玄関をくぐり抜けようとしたところで聞こえてきた声に、シリウスは足を止めた。つられて足を止めたルーシーたちも振り返れば、レギュラスがこちらを見上げているのが見えた。
相変わらず動かない表情だけれど、シリウスを映すその目に宿る剣呑な光だけは見逃すことなど出来やしない。まるで仇敵を見るかのようなその目に思わず息を呑んだルーシーは、ジェームズに手を引かれるままに玄関ホールへと進んだ。
「レギュラスって、シリウスのことあんなに嫌ってたっけ……?」
「言ってなかったよね。シリウス、家を出たんだよ」
「え!?」
声を潜めるジェームズに合わせてルーシーも声を落としながら目を見開く。
「え、いつ? その後はどこに住んでるの?」
「僕の家さ。夏休み中に来たんだ」
「そうなんだ……知らなかった」
「そりゃ、ほら……夏休み前に色々あっただろ? だから連絡しづらくて」
曖昧に微笑むジェームズに、ルーシーは無意識に眉を寄せる。
夏休み前――つまり、OWL最終日の事件だ。
「私、まだシリウスに謝ってもらってないんだけど」
「謝る必要なんかねぇだろ」
突然背後から割って入った声に驚いて振り返れば、顰め面のシリウスがそこにいた。
「レギュラスは?」
「もう別れた。アイツ、日に日にアイツ等に似てくるんだぜ、嫌になる」
鼻を鳴らしたシリウスが、不機嫌な顔のままルーシーを見下ろす。思わず身構えたルーシーに、シリウスはズイと顔を寄せて口を開いた。
「で、お前はいつアイツと別れんだよ」
「別れません」
一音一音アクセントをつけてはっきりと伝えれば、シリウスの整った顔が更に険を帯びる。こんなにも険しい顔をしているというのに相変わらず美青年だということが腹立たしい。
「あんな奴と付き合ったって、いいことなんか一つもねぇだろ」
「そんな事ないもん」
「あるだろ。妹が恋敵で? 俺らに反対されて? 何が良いんだ?」
「しょうがないでしょ、好きなんだから」
妹が恋敵になっても。親友に反対されても。
好きな人と一緒にいたいと思ってしまうのだから。
「俺がいるじゃねぇか」
「この際だからはっきり言うけど――ちょっと!」
改めてきちんと返事をしようと話を切り出したルーシーに、けれどシリウスは背を向けて大理石の階段を上がっていく。聞く気はない――そう告げるシリウスの背中を恨めしげに睨み付けたルーシーは、舌打ちを一つ零して頭を掻き混ぜた。
「女の子が舌打ちはどうかと思うよ」
「ジェームズからも言ってやってよ! 分かるでしょ? セヴィとシリウスじゃ違いすぎるでしょ!?」
「そうだねぇ……悪趣味な君の範囲にパッドフットが引っかかることは、まずないと思うよ」
「プロングズ!」
悪趣味とはなんだ、悪趣味とは。
眉を吊り上げたルーシーに悪びれることなく肩を竦めたジェームズは、ふと視線を他所へ向けて嘲るように口元を歪めた。
「あんなのが良いなんて、僕には到底理解出来ないからね」
ジェームズの視線を追えば、地下牢から上がってきたスネイプが憎々しげにジェームズを睨み付けているのが見えた。その視線が隣のルーシーに移ると同時に、幾分か柔らかいものへと変わる。
「ほら、やっぱり趣味が悪い」
今の君に鏡を見せてやりたいよ。
無意識に笑みを返していたルーシーは、隣からの呆れ声にハッと我に返り顔を赤らめる。
「ジェームズこそ、望みのない恋なんてしてないでとっとと次を見つけたらどう?」
「望みあるし!!」
僕はリリー一筋なんだよ!
まだリリーって呼ばせてもらえないくせに
うるさいな! ルーシーからも何とか言ってやってよ!
「アイツがリリーって呼ぶのは許すくせに、僕が呼ぶと怒るんだ!」
「そりゃ、幼馴染みとしつこいクラスメイトじゃ差も出るよね」
「ルーシー!!」
怒るよ!!叫ぶジェームズに、仕返しだよ!笑い返して。
こっそりスネイプに手を振ったルーシーは、返事の代わりに肩を竦めてくれたスネイプに背を向けると、隣で喚き続けるジェームズを無視して談話室へと戻って行った。