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スネイプへと視線を向ければ、杖を手にしたレイがスネイプを助け出しているのが見えた。
人目を憚ることなく助けられるのは、レイがスネイプと同じ寮生だからだ。

もし、自分も同じ寮だったなら。
グリフィンドールに組分けられたことを残念に思っているわけではない。
リリーと仲良くなれたし、シリウスたちの事だって、スネイプを含めたスリザリン生たちに悪質な悪戯を仕掛ける以外は好きだと思っているのだ。

けれど、もし。
もし同じ寮に属することが出来ていたら。
あんな風にスネイプに手を差し伸べていたのは自分だったかもしれない。
今ルーシーの目の前でスネイプに手を差し伸べているのが双子の妹だからこそ、余計にそう思ってしまう。

「ルーシー、行きましょう!」
「え? あ、う、うん……」

呼び掛けられてハッとしたルーシーは、顰め面のリリーに腕を引かれて湖の方へと足を進めようとした。
ガシッ。空いている方の腕が誰かに掴まれ、ルーシーの足がガクンと止まる。

「ちょっと、どうしたの――」

振り返ったリリーは、ルーシーの反対の腕を掴む人物を見て目を丸くし、すぐに顰め面へと戻った。

「何のつもり? ブラック」
「シリウス……?」

強い力で引き止められたルーシーは、俯き黙り込んだままのシリウスにおそるおそる声をかけた。
シリウスは何も言わない。けれど、手を離してくれないから立ち去ることも出来ない。

「おいおい、パッドフット。君、まさか――」

ジェームズの言葉は途中で途切れた。
一歩踏み出したシリウスがルーシーとの距離を詰め、驚き目を瞠るルーシーの後頭部に手を回したかと思うと、徐に自身の唇を押し付けたからだ。

「な、」

驚愕するリリーが漏らした声は、周りをぐるりと囲む生徒たちの中にいたシリウスのファンクラブの生徒たちが上げた悲鳴によって掻き消された。

「っ、」

ルーシーは渾身の力でシリウスを突き飛ばした。
違いすぎる体格の所為か、僅かによろけただけのシリウスは未だ目の前にいて真っ直ぐにルーシーを見下ろしている。小刻みに震える唇を隠すように手のひらで覆いながらルーシーは困惑と驚愕を露にシリウスを見つめた。じわり、じわりと涙が滲んでいく。

「、ど、して……?」

答えずに湿り気の残る唇を指で拭うと、シリウスは徐に杖を手にした。

「これで理由が出来ただろ」
「え?」
「アイツに構う理由だよ」

言い終わると同時に突き飛ばされ、ルーシーは後ろにいたリリーと共に地面に倒れ込む。

「い、たぁ……」
「ご、ごめん!」

下敷きにしてしまったリリーが起き上がるのを手伝っていると、あちこちから悲鳴が上がる。
振り返れば、杖を手にしたシリウスが怒りに顔を歪めたスネイプと決闘を始めていた。

「貴様……っ!」
「お前なんかに渡さねぇよ」

二人のギラギラと剣呑な光を帯びた目が互いを睨み付けている。
突如始まった決闘は、授業の一環で教わったお遊びのようなそれとは明らかに違う。
危険を察知したのはルーシーだけではなかった。悲鳴を上げた生徒たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「止めなさい! もうすぐ次の試験が始まるのよ!!」
「危ないエヴァンズ!」

二人を止めようと身を乗り出したリリーの腕をジェームズが掴んで引き止めた。

「放してポッター!」
「危険だよ! 見れば分かるだろう!?」
「だから止めるんでしょう!!」
「ジェ、ジェームズ……! どうしよう!」

狼狽するピーターが悲鳴を上げながらジェームズの背後へと隠れた。我関せずといった様子で本を読むフリをしていたリーマスも、さすがに放置出来なくなったのか本を鞄へと押し込み、代わりに杖を手にしている。

「ダメ……! 止めて! シリウス!!」

ルーシーが叫ぶが、シリウスはそれを無視した。
シリウスの杖から放たれた閃光がスネイプへと一直線に向かう。
杖で閃光を弾き飛ばしたスネイプは、仕返しとばかりに素早く杖を振った。

「セブ! もうダメよ!!」
「僕が止める理由なんかない!」

リリーの制止の声にスネイプが怒鳴り返す。
殺意にも似た敵意に、リリーはびくりと身体を震わせて口を噤んだ。

「何をしてるんです!!!」

大音声に振り向けば、騒ぎを聞き付けたらしいマクゴナガルがフリットウィックを伴ってこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

「お止めなさい! お止めなさい!!」

制止を無視して呪いをかけ合う二人に、マクゴナガルとフリットウィックが顔を見合わせて頷き、杖を取り出す。

バーン!!大きな音が響き渡り、ルーシーたちは咄嗟に耳を塞いだ。
スネイプとシリウスが怯んだ隙にマクゴナガルの杖先から飛び出た縄が二人を縛り上げる。

「、っくそ! 何だよこれ!」
「チッ、」
「もうすぐ試験が始まります、貴方たちはお戻りなさい」

縛り上げた二人の傍らに立ったマクゴナガルが言ったが、ルーシーたちはその場を動けなかった。
スネイプとシリウスを放っておくことなど出来るはずがない。

「この二人は別室で試験を受けます。さぁ、早くお行きなさい!」
「ルーシー、行きましょう」
「でも……!」
「先生の言う通りよ……試験に行かなきゃ」
「………うん」

スネイプとシリウスの方を見ることなど出来ず、ルーシーはリリーに手を引かれて城へと歩き始めた。

「あ、靴と鞄……」
「ほら、これだろう?」

いつの間にか呼び寄せてくれていたらしい。
差し出された靴と鞄を受け取り、ルーシーはリーマスに礼を言った。

「ありがとう」
「いや……行こう、始まるよ」
「………うん」

靴下と靴を履き、リリーたちと共に城へと戻りながらもルーシーの心は晴れない。晴れるはずもなかった。
玄関ホールに辿り着いた所で、誰かが後ろから駆けてくることに気付く。レイだ。

「、レイ……」
「ルーシーの所為よ!!」

玄関ホールにレイのヒステリックな声が響いた。
涙を浮かべて睨み付けてくるレイに困惑を露にすれば、振り上げた手が容赦なく頬を打つ。

「レイ! 何てこと……!」
「ルーシーが近付かなければ、私もセブルスも普通に生活出来たのに!!」
「、」
「ルーシーがセブルスに近付かなければ……っ、そうすれば……!!」
「、貴方……もしかして、」

セブルスのことを……?
問いかけたリリーの言葉に、レイは答えなかった。

「嫌い、大ッ嫌い……!!」

吐き捨てたレイは、涙を拭いながら行ってしまった。

残されたルーシーは呆然とその場に立ち尽くす。
頬を伝う涙を拭うことも出来ないままに立ち尽くすルーシーに、リリーたちはかけてやる言葉を持っていなかった。