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O.W.Lの試験が始まった。
数日間かけて行われる試験は、勉強が嫌いなルーシーにとって地獄と言っても過言ではない。
ペンの走る音、問題用紙が捲られる音。
カリカリ。カサカサ。
そこかしこで聞こえる音に全身がむず痒くなるのだ。入学した頃から治らないのだが、これはどうしたら治るのだろうか。以前リリーに尋ねた時は「試験に、集中する。それだけで良いのよ」と懇切丁寧な解答を頂戴した。
それが出来たら苦労しないということを分かって欲しい。

地獄のような数日間はあっという間に過ぎ、とうとうあと一教科を残すところとなった。

「あー、疲れた……」

最後の試験を終えたルーシーとリリーは、陽の光を求めて城の外へと出てきていた。
湖の畔にゴロンと寝そべって真っ青な空を見上げれば、解放感に頬が緩む。

「まぁ、ルーシーにしては頑張ってるわよね」
「でしょう!? 最後の一ヶ月は、セヴィも勉強あると思ったから会うの我慢したんだよ」
「仕方ないわよ、今回のテストは来年に影響するし……将来のことだって、そろそろ考えなきゃでしょう?」
「将来、ねぇ……」

あー。間延びした声を上げて目を閉じるルーシーに微笑み、リリーは湖面を見つめた。

「最後は何だっけ?」
「変身術よ。まさか勉強してないんじゃないでしょうね?」
「リリー、昨日の夜に談話室で貴方と一緒に勉強した女の子は誰だっけ?」
「冗談よ。終わった教科とそうでないものくらい覚えておきなさいよ」
「もうだめ、疲れた。変身術はもういい」
「マクゴナガル先生が怒るわよ」

くすりと笑って脅しにかかるリリーに呻き声を上げ、身体を起こしたルーシーは靴と靴下を脱ぎ捨てて湖に両足を突っ込んだ。

「あー、冷たくて気持ちいい」
「あ、私も」

リリーが同じように靴と靴下を脱いで湖に足先を突っ込む。冷たい水が足を冷やしてくれるおかげで、大分涼しくなったように感じられた。

「最後の教科をマクゴナガル先生の変身術にするなんて酷いと思わない?」
「貴方が最後まで真面目に試験を受けるように、って配慮じゃない?」
「え、うそ!? そうなの!?」
「さぁ?」

何それ! ちょっと焦ったじゃん!
真面目に勉強しないからよー

バシャバシャと水を蹴り上げながらじゃれ合った二人は、ごろんと芝生に寝転んで目を閉じた。

「このまま寝れそう」
「ダメよ、試験が残ってるわ」
「分ーかってるよ」

くすりと笑って答えたその時だった。
少し離れたところに座っていたハッフルパフの女子生徒たちの会話が二人の耳に届いたのは。

「またやってるわ」
「あぁ、あの二人……相手は誰? またスリザリンでしょう?」
「スネイプよ」

リリーと顔を見合わせたルーシーは、即座に立ち上がって駆け出した。鞄どころか、靴も靴下そこに置き去りだが構うまい。
いつの間にか出来ていた人集りを掻き分けて前へ前へと進む。

「スコージファイ!(清めよ!)」

ジェームズの楽しげな声が聞こえた。
漸く最前列まで飛び出したルーシーとリリーが見たのは、地面に這い蹲り口からピンクのシャボン玉を吹き出すスネイプの姿だった。

「セヴィ!!」
「止めなさい!!」

ルーシーとリリーが同時に叫んだ。
辺りを見回したジェームズとシリウスが振り返る。即座に髪の毛をくしゃくしゃにしたシリウスの傍らで、シリウスは嫌そうな顔でルーシーを見ていた。

「元気かい、エヴァンズ?」

リリーに話しかける時に出す大人びた声に、けれどリリーは顔を顰めるばかりだ。周りでキャアキャアと黄色い声を上げるのは、ファンクラブの会員たちなのだろう。

彼に構わないで。リリーはピシャリと言った。

「彼が貴方に何をしたって言うの?」
「そうだな……むしろ、こいつが存在するって事実そのものがね。分かるかな……」

あちこちから上がる笑い声に、ルーシーとリリーは顔を顰めた。
存在が気に入らないからって、こんなことをして良い理由になどなるはずがない。
そんなこと、あっていいはずがない。

「冗談のつもりでしょうけど、ポッター。貴方はただ傲慢で弱い者虐めの嫌な奴だわ」
「言っていいことと悪いことがあるよ、ジェームズ」

リリーとルーシーの立て続けの糾弾に、笑みを浮かべていたジェームズの顔が歪む。

「おい、ルーシー。お前どっちの味方なんだよ」
「何それ、意味分かんない」

シリウスの言葉にルーシーは顰め面のまま吐き捨てた。

「俺らのダチじゃねぇのかよ」
「友達だから言ってるんだよ、ずっと前から言ってる。気に食わないなら放っておけば良いじゃん」
「貴方たちの楽しみの為に、私たちの友達を傷付けないでちょうだい。ポッター、その杖を下ろしなさい!」
「エヴァンズ、僕とデートしてくれたら止めるよ」

益々眉間の皺を濃くしたリリーに、けれどジェームズは構うことなく続けた。

「どうだい? 僕とデートしてくれれば、親愛なるスニベリーには二度と杖を上げないよ」
「スニベリーなんて呼ばないで!」

咎めたルーシーをチラリと見遣り、ジェームズはリリーへと視線を戻す。ルーシーは舌打ちをしてシリウスを睨み上げた。

「私のことを友達だって言うんなら、どうして彼を攻撃するの」
「………」
「私が二人を止めようとするのが裏切りだって言うのなら、先に手を出したそっちが裏切りじゃないの?」
「俺らがアイツを嫌ってるって分かってたはずだろ」
「二人が嫌いだからって、私まで嫌う理由はない。それに、私は入学した頃から仲良くしたいって言ってた」
「あぁ、確かに言ってたさ。けど、俺はそれが『そういう意味』での仲良くだなんて聞いてないぜ」

ルーシーはスッと目を細めた。
傍らではリリーがジェームズのデートの誘いをこっ酷く断っている。

「そんなの私の勝手でしょ」
「俺は認めねぇ、絶対にだ」
「じゃあ何? 私はシリウスが許可した人としか仲良く出来ないの? 私の自由を奪う気?」

ひゅっと息を呑んだ音が聞こえた。
睨みつけられたシリウスは、つい先程まで同じように険しい顔でルーシーを見下ろしていたというのに。
酷く驚いたような顔をしたシリウスが、徐々に顔を歪めてルーシーから顔を背けた。その行動の真意は分からないが、これ以上ここで文句を言われずに済むらしい。