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「俺は絶対認めねぇ」
「それ、何回目だっけ?」

もう聞き飽きたよ。溜息混じりに返せば、険しい表情のシリウスの手が伸びてきてルーシーの頬を掴む。
左右に引っ張られた痛みに涙を滲ませながら悲鳴を上げれば、煩いよ!とジェームズから小言が飛んできた。

「フィルチに見つかっちゃうじゃないか!」
「悪ィ、だってこいつが腹立つから」
「私の所為!?」
「シッ、ルーシー黙って」

後ろから伸びてきたリーマスの手がルーシーの口を塞ぐ。薄暗く狭い通路に身を押し込めたルーシーたちは、現在この城の管理人であるフィルチとの鬼ごっこの最中だ。

「何処に行った!! 出てこい!!」
「誰が出てくかっての」

バーカ。こちらに気付くことなく廊下を走り去るフィルチの背に嘲りの言葉を投げかけて、シリウスが嗤う。

「ったくもー……大体、シリウスとジェームズが調子に乗っていつまでも遊んでるから……」
「ごめんごめん、つい夢中になっちゃってさ」
「良いじゃねぇか、たまにはスリルがあった方が楽しいだろ?」

ヘラヘラと謝罪の言葉を紡ぐジェームズも、ちっとも悪びれた様子のないシリウスも、どちらも悪いとは思っていないらしい。こんな事で二人が反省するとは微塵も思ってはいないが、嘘でももう少しくらいそれらしい態度を取っても良いのではないかと思う。

「巻き込まれたこっちは堪ったもんじゃないよ。ねぇ、リーマス? ピーター?」
「僕は別に………もう慣れたしね」
「僕も! だって、すごいんだよ二人は! さっきの魔法だって、まだ習ってないヤツなんだろう?」

苦笑と共に肩を竦めるリーマスはともかく、ピーター。目をキラキラと輝かせて先程のジェームズとシリウスの悪戯を語るピーターは、最早二人の信者と言っても過言ではないかもしれない。
本心なのか煽ててるだけなのか、やたら誉めそやすピーターに得意げな顔をしたジェームズとシリウスは、次はどんな悪戯を仕掛けようか、などと張り切っている。

「まぁ……良いんだけどさ、別に」

悪戯に参加するのは楽しいし。二人の悪ノリのツケがこっちに回ってこないのならば、好きにしてくれて構わない。

「お前だって楽しんでただろ」

ルーシーの思考を読んだかのように頭をぐりぐりと押してくるシリウス。
背が高いからって調子に乗んな。その手を振り払ったルーシーは、何気なく腕時計を見て息を呑んだ。

「やばっ! 遅れちゃう!」
「何かあるの?」
「うんっ! じゃあ私行くね!」

次の悪戯決めたら教えて!そう言い残して、ルーシーはさっさと走って行ってしまった。
残された四人の内、二人は「またね」と手を振って見送り、残る二人は顰め面でその背を見つめている。

「スネイプ、かな」
「チッ、何だってあんな野郎なんかと……」

声の主は言わずもがな。ジェームズとシリウスだ。
親友に手を出したスネイプへの不満。自分たちの敵だと知っててスネイプと付き合うルーシーへの不満。
前者はジェームズのもので、後者はシリウスのものだ。

気に入らない。
スネイプがルーシーの恋人だという事実も、
スネイプがリリーの幼馴染みだという事実も。
彼女にセブなんて愛称で呼ばれている事実も、
彼女をファーストネームで呼ぶことを許されているという事実も。
何もかもが気に入らない。

気に入らない。
スネイプが敵だと知っているくせに。
スリザリン生だと知っているくせに。
嫌な奴だと知っているくせに。
仲間のくせに。
全くもって気に入らない。

「どう考えたって、あんな奴より俺の方が……」

無意識に呟くシリウスに、リーマスとピーターは顔を見合わせて肩を竦め苦笑する。
女子生徒たちに絶大な人気を誇るシリウス・ブラックは中々に鈍感だ。自分の気持ちに気付くことすら出来ないほどの。

気に入らない理由。それがどのような意味を持つのか分かっているのだろうか。
もしルーシーの相手がグリフィンドール生であったなら、納得し祝福出来たとでも言うのか。

「………まぁ、言ってはやらないけどね」
「いいの?」

呟いたリーマスにピーターがシリウスをチラチラ見ながら囁き返す。
リーマスもつられてシリウスへと視線を向けた。
親友の恋を応援してやりたい気持ちが無いわけではない。ないのだけれど。

「ルーシーも大切だから」

彼女がスネイプが良いと言っているのなら、そっとしてあげたいと思うのだ。
願わくば、鈍感なシリウスが鈍感なままでいてくれますように。
妹のような存在だと、勘違いし続けてくれますように。

「………嫌な予感って当たるよね」
「ピーター、それは言っちゃダメ」

必死に自分に言い聞かせてるんだから。ね?
ご、ごめん……!

凄みのある笑みを浮かべたリーマスに、ピーターはガタガタと身体を震わせながら慌てて謝罪の言葉を口にするのだった。