08


みずみずしい真っ赤な苺を口に放り込み、ルーシーは満足気に目を細めた。

「そんなモンばっか食ってっから、いつまでたってもチビなんだよ」

聞き逃せない言葉と共にずしりと頭に何かが乗る。背後に立っているであろう人物に向けて肘鉄砲を食わせようとすれば、容赦ない圧力は「おわっ」という言葉と共に消え去った。

「あっぶねぇなぁ、何すんだよ」

ホントのことだろ?笑うシリウスを振り返ってじとりと睨み付けてやれば、くつくつと笑ったシリウスの大きな手がルーシーの頭に載った。

「もっと栄養のあるモン食えば良いだろ」
「栄養のあるモン食べてきたけど育たなかったの」

だから自分の好きなものを食べるの。鼻を鳴らすルーシーを余所に、リリーはシリウスの隣に並ぶジェームズを睨み付けた。

「何の用?」
「そりゃ、いつだってエヴァンズの傍にいたいんだよ。でも、残念ながら今はルーシーに用があるんだ」
「私?」

何?首を傾げるルーシーの隣に腰を下ろしながら、ジェームズはポケットから羊皮紙を取り出した。くしゃくしゃに丸められたそれをテーブルに広げ、皺を伸ばしてからルーシーへと渡す。

「『クィディッチ選手大募集』?」
「そ。来週に選抜があるんだ」
「どうせ暇だろ? 来いよ」
「そりゃ暇だけど……これ、シーカー募集って書いてあるよ? 二人とももう選手なのに申し込むの?」

既にチェイサーとして活躍している二人が抜ければ、そちらの選抜もしなければならないのでは?首を傾げるルーシーに二人は顔を見合わせた。
分かってないなぁ。ジェームズが大きな溜息を零し、まぁコイツだからな。シリウスが肩を竦める。
あからさまにバカにするその態度にルーシーは顔を顰め、大きく鼻を鳴らして二人から視線を外した。目の前の苺を口に放り込み、やりすぎたと慌てる二人を悉く無視してみせる。

「冗談だって! ね?」
「機嫌直せって」
「あっれー、おかしいなぁ。二人が何を言ってるのか、私ぜーんぜん分かんなーい」

あー苺美味しい。次々に苺を頬張っていくルーシーにジェームズとシリウスは再び顔を見合わせ。

「ごめんなさい」
「俺らが悪かった」

滅多にすることのない謝罪をするのだった。




「うー、寒い!」
「本当に行くの?」

選抜当日。生憎の曇り空に加えて冷たい風が頬を刺す。上着の前をしっかりと留めて縮こまるルーシーに、同じように寒さに震えたリリーが不満げな声を上げた。

「だって、約束しちゃったし……」
「苺につられるからよ」
「だって、甘くて美味しいのいっぱいくれるって言うから……」

シーカーの選抜に出るのは、ジェームズでもシリウスでもなくルーシーだと聞かされた。選手になって、もしスネイプとの時間が減ってしまったら――そう考えたルーシーの答えは当然ながら否で、けれど正直に理由を告げるわけにもいかないから「面倒」とただ一言そう答えた。当然ながら、その理由に納得してくれるジェームズとシリウスではない。

よく僕らと一緒に飛んでるじゃないか! 飛ぶの得意だろう? 君なら最高のシーカーになれるよ!
やってみたら? 僕もルーシーがシーカーとして活躍するの見たいなぁ
僕も! ルーシーなら大丈夫だって!

煽てるジェームズをリーマスとピーターが援護しだし、挙句の果てにはシリウスの「すっげぇ甘くて美味い苺と交換でどうだ」という誘惑。「苺?」聞き返したルーシーに「お前が望むだけやるよ」あっさり釣られたルーシーにニヤリと口端を上げたシリウス。
ウンウンと悩み続けたその結果が、今の状況である。
選抜に出ることになった経緯をスネイプにも報告したが、当然のことながら呆れられた。二日前のことだ。

「セブも来るんでしょう?」

競技場へ向いながら、リリーが言った。
リリーにスネイプとの関係を告げたのは、選抜に出ることを悩んでいた時――ほんの数日前のことだ。
口をあんぐり開けて、ぽかんとこちら見るリリーの顔は中々お目にかかれないものだったとルーシーは思う。
いつから?との問いにバカ正直に一年ほど前だと答え、盛大に怒られた。あの恐怖は暫く忘れられないだろう。暫くはリリーに怒られるような行動は控えようと思ったのもその時だ。

週に一度、ふらりと何処かへ消えるルーシーを疑問に思っていたリリーは、漸く謎が解けたと言ってくれたが、やはり面白くなかったのだろう。昨日スネイプに会う時にくっついてきて、ルーシーたちに――特にスネイプに――散々文句を言ってくれた。

私のルーシーに手を出すなんて!
友達だと思っていたのに!
ずっと黙っているなんて!

文句を連ねるリリーに二人がかりで謝り、漸く許してもらえた頃には寮に帰る時間になっていた。次からはまた二人で会わせてくれるらしいが、少しでも帰りが遅くなれば怒られるのだろう。
関係を教えたことは正しかったのか、ルーシーとスネイプは暫く悩み続けることになりそうだ。

「やぁ、ルーシー! よく来てくれた!」

競技場で待ち構えていたのは、クィディッチの選手陣。ルーシー以外の志願者も集まっている。

「ルーシー、頑張って!」

スタンドから降ってきた声に顔を上げれば、リリーが大きく手を振ってくれていた。その隣にはスネイプの姿もある。気が向いたら見に行くと言っていた彼だが、ちゃんと来てくれたようだ。リリーのように手を振ってくれることはないが、それでも目が合えば僅かに目を細めて頷いてくれる。

「――頑張るね!」

二人に手を振り、選抜の方法を説明を受けて試験が始まった。

たくさんの志願者の中、見事にシーカーの座を勝ち取ったルーシーは、意味深長な目でこちらを見つめるシリウスに気づくことはなかった。