03


双子だからといって、中身まで似ることはないんだな。
ホグワーツに入学してから早一ヶ月、向かいで食事をするレイをチラリと見てスネイプはそんな事を考えていた。

スネイプが幼馴染みの少女と離れ離れになってしまってから一ヶ月。
レイが双子の姉と離れ離れになってしまってから一ヶ月。

一ヶ月という短い時間は、それでもスリザリンとグリフィンドールがどれだけ仲が悪いのかを理解するには十分すぎる時間だった。

廊下ですれ違うたびに嫌味の応酬。下手をすれば互いに杖を取り出す始末だ。
階段の先に敵寮の生徒を見つければ、まるで当然だと言わんばかりにわざとぶつかって階段から突き落とそうとまでする。万が一転げ落ちたとしても、ぶつかってしまったと申し訳なさそうに言えば教師たちもそれ以上追求することは出来ない。故意にぶつかった証拠など何処にも無いのだから。

上級生たちのそんな攻防は入学したばかりの新入生たちを大いに驚かせたが、ひと月も経てばそれが当たり前のことなのだと理解し、自らもそれに加わろうとする。

グリフィンドールとスリザリンは、何処までも敵同士だった。

グリフィンドールの赤と金のネクタイと、スリザリンの緑と銀のネクタイ。その二つが一緒にある事など、いざこざが起きた時か授業中だけで、敵寮の人間に好んで近づこうとする生徒など殆どいなかった。

「セヴィ! レイ!」

前方から手を振ってやってくる赤と金のネクタイを絞めた少女に、スネイプとレイは立ち止まりこれみよがしに顔を顰めた。

「次の授業は何? 私はね――」
「ルーシー、セブルスが嫌がってるわ」
「え、何が?」
「変な呼び方しないで欲しいって」

出会い頭に妹からの責めるような視線と言葉を受け、ルーシーは僅かに眉を下げた。少しばかり唇を尖らせたルーシーがスネイプを見るが、スネイプはルーシーと話す気はないといった様子でそっぽを向き続けている。

「でも、セブルスって呼ばれるの嫌だって言うんだもん」
「誰だって、親しくもない相手に名前で呼ばれたくなんかないわ」
「だって……でも、友達なのに……」
「僕は友達になった覚えなんかない!」

キッと睨み付けてやれば、益々眉を下げたルーシーと視線がかち合う。悲しんでいるようにも見えるその目に僅かばかり居心地の悪さを感じて顔を背ければ、レイが庇うようにスネイプとルーシーの間に割り込んだ。

「とにかく、もう私たちに声をかけて来ないで。ルーシーが近寄ってくると、私たちまで寮の人たちから変な目で見られちゃうわ」

行きましょう。レイの手がスネイプの手を掴む。
声を発する間もなく強い力で引っ張られたスネイプは、抵抗することなくレイと共に歩きだした。
先程のルーシーの顔がこびり付いて離れない。傷付けてしまった。別に関係ない。でも、リリーに知られたら?
いくら寮が敵同士だからって、幼馴染みのリリーと仲違いする気などなかったスネイプはそれだけが気がかりだった。

「まーだスネイプなんかに構ってんのか?」
「アイツ気持ち悪ィだろ、根暗だし」

背後から気に食わない少年たちの声が聞こえてくる。こんなにもハッキリ聞こえるということは、聞こえるように大きな声をだしているのだろう。

「気持ち悪くないよ、私、セブルスと仲良くなりたいんだもん」

微かに聞こえた声に思わず足が止まる。

「セブルス?」

振り返ったレイが首を傾げてスネイプを見た。

「アイツ、嫌なやつだよ。仲良くなる必要ないじゃないか」
「ジェームズはそうでも、私は仲良くなりたい。それにね、セブルスはレイとも友達なんだよ。レイは嫌な子と友達になったりしないもん」
「………まぁいいや。行こうぜ、今度はもっとスゲェこと考えたんだ!」

不満げだった声が打って変わって明るいものに変わる。次第に遠くなっていく笑い声を背中に受けながら、スネイプは無意識に眉根を寄せていた事に気づいた。

「セブルス! どうしたの?」
「あ……いや、何でもない」
「行こう? 次の授業が始まっちゃうよ」

再び歩きだしたレイを追ってスネイプも足を進める。

 ――仲良くなりたいんだもん

先程のルーシーの言葉が頭の中をグルグル回っている。

「………馬鹿な奴」

仲良くなんて、なるわけないじゃないか。
何が気持ち悪くないだ。何が嫌な奴じゃないだ。

僕はスリザリンで、君はグリフィンドールじゃないか。

もし同じ寮だったなら、ほんの少しくらい仲良くしてやっても良かったのに。
そんな事を考えてしまった自分に首を傾げながら、スネイプは次の授業へと急いだ。





ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックは最低な人間だった。
少なくとも、スネイプを含めたスリザリン生にとっては。

代々グリフィンドール寮に組分けされてきたというポッター家のジェームズはともかく、シリウスの家は代々スリザリン寮に組分けされてきた名家だ。ほぼマグルとして幼少時代を過ごしてきたスネイプにとってはブラック家のことなど殆ど分かりはしないが、同じ寮の先輩であるベラトリックス・ブラックやナルシッサ・ブラックを見る限り、ブラック家がどれだけ権力が強く、純血主義なのかということはよく分かった。

なるほど、あの男がスリザリンに入るはずがない。

シリウスの従姉妹であるベラトリックスとナルシッサはシリウスとは大違いだ。
唯一、ベラトリックスの妹でありナルシッサの姉であるアンドロメダ・ブラックだけは、どちらかと言うとシリウスに近い人物に思えた。スリザリン寮の中でも偉ぶることなく、廊下で会えば敵寮のシリウスとも親しげに会話をしているのを見たことがある。
それが許されるのは彼女がブラック家の娘だからであり、けれどだからこそ姉と妹からの風当たりは強かった。

「どうしてブラックと距離を置かないんですか」

あれはいつだっただろうか。シリウスと話しているのを目撃され、寮の談話室で姉から責められていたアンドロメダに尋ねたのは。

「シリウスのこと?」
「ベラトリックスとナルシッサは、アイツがブラック家の恥だと言ってる。貴方はそう思わないんですか? アイツは敵じゃないんですか?」

どうしてそんな事を聞いてしまったのかは分からない。
姉や妹に何を言われてもシリウスに話しかけるアンドロメダが、ジェームズやシリウスに止められても話しかけてくるあの少女と重なったからかもしれない。
同寮の上級生と敵寮の同級生を重ねるなんて失礼極まりない話だが、おそらくそれが一番近い理由だったのだろうとスネイプは思う。

「家は関係ないわよ。あの家に逆らってまで好きに生きようとするシリウスを気に入ってるの、ただそれだけよ」

気に入ってる。
だから声をかける。
だから近付く。
ただ、それだけ。

 ――セヴィ!

脳裏に甦った少女の声は楽しげだったが、その笑顔が思い出せずにスネイプは難しい顔で黙り込んだ。