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夕方になるとホグズミード村へ行っていた生徒たちが帰ってきた。
城へ戻ってくる生徒たちの行列を天文台から見下ろしたルーシーは、のろのろと立ち上がりグリフィンドールの談話室へと向かう。足取りは重かった。

「リサ! どこに行ってたの?」
「城の中を散歩してたの。ほら、まだ来たばかりで分からない教室とかあるからさ」
「あ、そっか。ごめんね、僕らがちゃんと案内してあげれば良かった」

申し訳なさそうにするハリー達に気にしないで微笑みかけ、ルーシーはハリーの膝へと視線を落とした。色とりどりのお菓子の山が出来ている。

「凄い量だね」
「リサの分もあるのよ。ほら――ハリーのよりは少ないんだけど……」

ハリーの膝へチラリと視線を向けたハーマイオニーが眉を下げる。差し出された布袋には美味しそうなクッキーや飴が入っていた。ハリーの膝にあるお菓子の半分ほどしかないが、それでもルーシー一人で食べるには十分過ぎる量だ。

「こんなにもらっちゃって良いの?」
「勿論よ! 貴方の為に買ってきたんだもの」
「ありがとう! じゃあ、はい。ハーマイオニーも一緒に食べよう」

封を開けたクッキーを取り出して渡せば、ハーマイオニーは頬を綻ばせてクッキーを口へと放った。自分の口にもクッキーを放り込みルーシーは頬を緩める。サクサクした食感といい、控えめな甘さといい、どれもルーシー好みだ。

「美味しい!」
「本当! ――あ、そろそろ下りた方が良いわ。宴会が始まっちゃう」
「やばい!」
「急ごう!」

膝の上のお菓子達を慌ててポケットに詰めるハリーだが、どう見ても全て入らなさそうだ。ポケットからハンカチを取り出したルーシーは、きょとんとするハリー達の前で杖を振ってみせる。ハンカチはあっという間に巾着へと姿を変えた。

「はい、これ使っていいよ。ポケットに入りきらないでしょ」
「ありがとう!」

嬉しそうに袋を受け取りお菓子を詰め始めるハリーに笑みを返し、ルーシー達は四人がかりでお菓子を袋に詰め込んだ。

「急いで! あと五分もないわ!」

出口に向かって走り出す三人に続いたルーシーは、走りだす三人に「行ってらっしゃい」と手を振った。驚いて振り返る三人にハロウィンパーティに出ないことを告げると、三人は慌てた様子で駆け戻ってきてルーシーに説得を始める。

「行こうよ!」
「せっかくのパーティなのに!」
「勿体無いよ!」

余りにも必死な様子の三人に怯みながらも断りを入れれば、納得していない顔の三人はそれでも渋々と階段を下りていった。遠ざかる三つの足音を聞きながら談話室の中へ戻ろうとすれば、入り口を守る太った婦人の肖像画が呆れたようにルーシーを見た。

「勿体無いわ、せっかくのパーティなのに」
「レディは楽しそうだね。飲み過ぎたらダンブルドア先生に怒られちゃうよ」

ワイングラスを片手に頬を染める太った婦人に忠告をし、ルーシーは談話室の中へと戻った。すっかり誰もいなくなった談話室はシンと静まり返っていて、何だか物悲しい。思わず溜息を漏らすと、それは静かな談話室に嫌に大きく響いた。
重い足取りのまま部屋に戻り、ベッドに寝転がる。窓の向こうに限りなく真ん丸に近い月が見えた。よく目を凝らして漸く月の左側が少し欠けているのが分かる。

もうすぐ満月――リーマスが変身する日がやって来る。
卒業してから、彼はどんな風に生きてきたのだろうか。ジェームズ達が死に、シリウスが投獄され、それから彼は幾度となく孤独な満月の夜を過ごしてきたのだろう。彼の為にアニメーガスになったというのに、結局彼を救うことは出来なかった。

救えると信じていた。
どれだけ時が過ぎようとも、彼らは笑い合って生きていくと信じていた。
リリーも、レイも。そして、スネイプも。

「ごめ、なさい」

ごめんなさい。
助けられなくてごめんなさい。
助けると決めて貴方達の下を去ったのに。
貴方達を護りたくて、だからこそ貴方達を裏切ったのに。
何も出来なかった。その事実が酷く重たくルーシーに圧し掛かる。

彼らは怒っているだろうか。
勝手だと、どうして何も言ってくれなかったのだと向こうで喚いているかもしれない。
真っ赤な髪を振り乱し、涙をぼろぼろ流しながら叫んでいるに違いない親友の姿を思い浮かべてルーシーは自嘲の笑みを浮かべた。

護れなくてごめんなさい。死なせてしまってごめんなさい。
ハリーは、ハリーだけは。貴方達の大切な息子だけは、必ず護ってみせるから。
リーマスも、スネイプも、レイも。
もう誰も死なせない。誰も死んで欲しくない。

「――シリウス」

止めてみせる。必ず。
今この瞬間、侵入者が談話室の前までやって来ていることには気付かず、ルーシーはそっと目を閉じた。