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「ほう、ほう。これは珍しい」

耳のすぐ傍で声が聞こえる。深みのある低い声が楽しげに笑った。

「長いこと組み分けをしているが、同じ人間を二度も組み分けするのはそうある事ではない――ふむ、一度目はグリフィンドールだったが……今の君ならスリザリンも悪くない」

狡い人間だからね、私は。
頭に響いた声に自嘲の笑みを漏らした。

「だが、君には信念がある」

帽子の穏やかな声が心地よく鼓膜を震わせる。
信念――自分が抱えるこの妄執は、そんなに素晴らしい言葉で表現してものなのだろうか。

「その信念を捨てない限り、導き出される答えは一つしかない」



「グリフィンドール!!」



グリフィンドール寮のテーブルから歓声が上がった。同時に教員席にも動揺が走る。

「貴方は私を買い被りすぎだよ」

彼らの気持ちを無視して自分の都合だけで選び取っただけだ。独善で、狡猾。勇気ある者が住まう寮になど到底相応しいはずがない。

帽子をスツールに戻し、ルーシーはグリフィンドールのテーブルへと足を進めた。笑顔で迎えてくれるロンを発見したが、その傍らにいるのはジニーとネビルだけ。本来ならばハリーとハーマイオニーがいるべき場所は空席となっている。どうしたのだろうかと首を傾げながら空いている席に着くと、フリットウィックがスツールと帽子を広間の隅へと移動させた。

近くに座る生徒たちと握手を交わして教員席へ視線を戻すと、空席だったダンブルドアの隣の席にマクゴナガルが座ったのが見えた。マクゴナガルに何事かを告げたダンブルドアが立ち上がり、大きく腕を広げると広間はすぐに静かになった。

「おめでとう!」

ホグワーツ特急に現れた吸魂鬼の所為で誰もが気を張っていたのだろう。見る者を安心させてくれる老人の慈愛に満ちた笑みに、ルーシーも無意識に安堵の息を漏らしていた。

「先に深刻なお知らせをしておこうかの。皆も知っている通り、我が校はただいまアズカバンの吸魂鬼たちを受け入れておる。魔法省の御用でここに来ておるのじゃ」

語るダンブルドアの表情は硬い。

「吸魂鬼は学校への入口という入口を固めておる。あの者たちがいる限り、誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。ディメンターは悪戯や変装に引っかかりはしない――目くらまし術や透明マントでも無駄じゃ」

さらりと付け足したダンブルドアの目がルーシーを捉えた。

「あの者たちには言い訳やお願いは通用せん。あの者たちが皆に危害を加えるような口実を与えるでないぞ。監督生よ、男子、女子それぞれの新任の首席よ、頼みましたぞ。誰一人としてディメンターといざこざを起こすことのないよう気をつけるのじゃ」

列車内で吸魂鬼という生き物を見てしまったからだろうか、大広間はシンと静まり返り、茶化す者は一人もいなかった。

「楽しい話に移ろうかの」

張り詰めた空気を掻き消すかのようにダンブルドアが朗らかに笑った。『闇の魔術に対する防衛術』の新任教師として紹介されたリーマスに贈られた拍手は何とも心もとないもので、けれどロンたちのいる方からは大きな大きな拍手が贈られていた。他のテーブルからも聞こえるから、きっとあのコンパートメントにいた生徒たちだけが大きな拍手を贈っているのだろう。

そして、もう一人。ダンブルドアは森番としてホグワーツに住んでいたハグリッドが『魔法生物飼育学』の後任となることを告げた。長く仕えていたこの城で彼が教師として教鞭を振るうのは初めてのことなのだろう、紹介されたハグリッドはガチガチに緊張した様子で立ち上がり、その表拍子に椅子をひっくり返していた。グリフィンドールから贈られた大きな大きな拍手が、ハグリッドへの信頼を如実に表している。

もしこの場に彼らがいたなら、きっと心から喜びハグリッドに祝いの品を贈ったことだろう。そしてそれが奇を衒ったものになることは間違いない。彼らなら一体どんなものを贈っただろうか――そんなことを考えてしまう愚かな自分に自嘲し、ルーシーは目の前に現れたご馳走と向かいに座る新入生たちの眩しい笑顔に目を細めた。