10


列車がホグズミード駅に到着した。
外はすっかり真っ暗で、土砂降りの雨が容赦なく生徒たちを濡らしていく。

「あぁ、早く食べたい」
「リサ、貴方はどうするの?」

虫の鳴る腹をさすりながらぼやくロンに肩を竦めたハーマイオニーがルーシーに問いかけた。
何が?と聞き返したその時、遠くから大きな大きな声が聞こえてくる。懐かしい声だった。

「イッチ年生! こっちだ!」

最後に会ったのは十年以上前だというのに、彼は全く変わっていないように見える。強いて言うのなら、髭が更にもじゃもじゃになったということくらいだろうか。手入れをしていないごわごわの髪型は記憶の中の彼と合致する。好んであの髪型にしているのだろうか――そんなことを考えたその時、後ろから自分を呼ぶ声がした。リーマスだ。

「君はハグリッドの所に」
「はい――じゃあね」
「えぇ、またね」

ニコニコと人を疑うことを知らない顔で手を振ってくれるハーマイオニーたちに手を振り返し、ルーシーは新入生たちが集まるハグリッドの元へと向かった。

全てを知ったその時、彼らは――彼は一体どんな顔をするだろうか。

ハグリッドは集まってきた新入生を従えて歩き始めていた。土砂降りの雨の中一人だけ傘を差していたハグリッドだが、二メートルを優に超えるハグリッドの巨体を隠すには、手にした傘は少々小さい。横殴りの雨は傘など物ともせずハグリッドを濡れ鼠にしていた。

「イッチ年生! 全員来たか? 行くぞー!」

振り返ったハグリッドが吠えた。ランタンを左右に揺らし、自分の場所をアピールしていたハグリッドのもじゃもじゃの髪に隠れた目が、不意にルーシーを捉える。この雨の中、しかも新入生たちが集まる中でよくもまぁ見つけてくれたものだ。暗くて分からないが、おそらくその顔は顰め面へと変わっていることだろう。

「お前さんのことは、ちゃーんと聞いておる。イッチ年生と一緒だ」
「うん、ありがとう」

傘に打ち付ける雨音で聞こえなかったのか、無視したのか。ハグリッドは答えることなくふいと顔を背けて行ってしまった。新入生たちと共にボートに乗り込み、湖を越えてホグワーツ城の地下へ移動したルーシーたちは、そこでハグリッドと別れ、今度はフリットウィック先生の先導で玄関ホールへとやって来た。
大広間に入り込んだルーシーの目に映ったのは、あの頃とちっとも変わらない光景だ。

あぁ、戻ってきたんだ。

こみ上げるものを感じながら、ルーシーは新入生たちと共に奥へと進んだ。上級生たちが座るテーブルの間を通って職員席の前で立ち止まると、太巻きの羊皮紙を手にしたフリットウィックが前に進み出てくる。

「これから組み分けの儀式を始めます。名前を呼ばれたら前に出てきて、この組み分け帽子を頭に被ってください。帽子が君たちの寮を決めてくれます」

不安と期待でざわめく新入生たちを咳払いで黙らせ、羊皮紙を広げたフリットウィックは名前を読み上げ始めた。アルファベット順に呼ばれた生徒たちは怖々と足を進め、中央のぽっかり空いた場所へと向かう。不安げに辺りを見回しながら中央に置かれたスツールに腰を下ろし、黒くくたびれた組み分け帽子を頭に被った。

「――レイブンクロー!」

組み分け帽子が彼らの適性を見抜き、次々に寮を決めていく。そのたびに各寮ごとに別れたテーブルから歓声が上がり、新入生たちは不安げだった顔を照れ臭そうなものへと変えてテーブルへ走っていくのだ。

懐かしい光景。
あの頃は隣にリリーがいた。アリアがいた。スネイプがいた。
少し離れた所にはジェームズが、シリウスが、リーマスが、ピーターが。

教員席へと視線をずらすと、微笑ましそうに組み分けの儀式を見守るダンブルドアから数席離れた所にリーマスの姿を見つけた。昔を懐かしむ顔で拍手をするリーマスがいる。そして、その隣には無表情のまま二、三度手を叩いてすぐに止めてしまうスネイプの姿があった。

あの頃はすぐ近くにいたというのに。
リーマスも、スネイプも同じようにここで並んでいたのに。

今は誰もいない。
ただ独り、ルーシーだけが再び組み分けの儀式を待っている。

心細さに唇を噛み締めている間にも次々に生徒たちの名が呼ばれ、帽子によって決められた寮のテーブルへと走っていく。途中入学するルーシーの名が呼ばれるのは最後だろうか。フリットウィックへと視線を向けると、丁度生徒の名前を読み上げ顔を上げたフリットウィックと視線がかち合った。
在学時のルーシーたちを知っている彼は、今のルーシーを見て一体何を思っているだろうか。僅かに眉を寄せてこちらを見るその目は色々な感情が重なり合っていて読み取ることは出来なかった。

「――リサ・桜井」

とうとう最後の一人となった。広間中の視線を浴びながら、名前を呼ばれたルーシーは毅然とした態度で足を踏み出す。教員席から向けられる視線はどれも良いものではない。教師たちにはダンブルドアからの説明があったのだろう。

「彼女は三年生の皆さんと共に学ぶことになります」

補足として付け足したフリットウィックの言葉に生徒たちがざわめいた。どうして? 何で? 転入生? そんな囁き声がルーシーの耳に聞こえてきた。

スツールに腰を下ろし、組み分け帽子を頭に被る。二度目の儀式の始まりだ。