学年末のパーティが始まった。ハリーより先に退院を許されたルーシーは、最後にもう一度診察することになったハリーの恨めしげな視線から逃げて一足先に大広間へと向かった。ロンとハーマイオニーと合流して席につくとフレッド達がもう大丈夫なのかと声をかけてくる。
「大丈夫だよ、ありがとう。それにしてもスリザリン一色だね」
大広間は優勝杯を手にするスリザリンのカラーでいっぱいだった。スリザリンの蛇を描いた巨大な横断幕が後ろの壁を覆っている。喜んでいるのはスリザリンのテーブルだけで、それ意外の生徒達の顔は落胆で溢れていた。
ハリーはパーティが始まる直前にやって来た。取っておいた席に座ると、見計らったかのようにダンブルドアが立ち上がる。
「また一年が過ぎた! 一同ごちそうにかぶりつく前に老いぼれのたわごとをお聞き願おう。何という一年だったろう。君達の頭も以前に比べて少し何かが詰まっていればいいのじゃが……新学期を迎える前に君達の頭が綺麗さっぱり空っぽになる夏休みがやってくる」
自分は空っぽにはならないとばかりにダンブルドアを見つめるハーマイオニーに、ルーシー達は顔を見合わせて笑った。
「それではここで寮対抗杯の表彰を行おう」
ダンブルドアが各寮の点数を読み上げていく。グリフィンドールとスリザリンは百点以上も点差があった。グリフィンドールのテーブルから落胆の声が漏れる横で、スリザリン生達が嵐のような歓声と足を踏み鳴らす音を上げている。
「よし、よし、スリザリン。よくやった。しかしつい最近の出来事も勘定に入れねばなるまいて」
ダンブルドアの言葉に広間中がシーンとなった。スリザリン生の笑いが少し消えた。
「えへん。――駆け込みの点数をいくつか与えよう。まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君」
ロンの顔が髪の毛と同じくらい赤くなった。
「この何年間か、ホグワーツで見ることが出来なかったような最高のチェスゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」
テーブルから一気に歓声が上がった。魔法をかけられた天井で星がグラグラ揺れたようだ。
「僕の兄弟さ! 一番下の弟だよ。マクゴナガルの巨大チェスを破ったんだ!」
ロンの兄、パーシーが他の監督生に自慢する声が聞こえてきた。
「次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢に……火に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」
ハーマイオニーは腕に顔を埋めた。きっと嬉し泣きをしているに違いない。ルーシーはハーマイオニーの肩を抱いて歓声を上げた。
グリフィンドール生達があちこちで我を忘れて狂喜している。百点も増えた。
「それから、ルーシー・カトレット嬢」
ダンブルドアの青い目がルーシーを捉えた。
「大切な人達を想う君の多大な勇気と覚悟を称え、グリフィンドールに五十点を与える」
フレッドとジョージがルーシーの両側から突っ込んできた。二人に負けじとルーシーも歓声を上げた。
「もちろん、グリフィンドールばかりではないぞ。カーラ・マルフォイ君」
広間中の視線がカーラに集まった。カーラが目を瞬いて首を傾げている。
「冷静な判断力を備え友人に警告を促した。君がスネイプ先生に伝えなければカトレット嬢はスプラウト先生の罠によって命を落としていたじゃろう。その功績を称え、スリザリンに二十点」
今度はスリザリンのテーブルから歓声が上がった。
あの時スネイプが来たのは偶然ではなかった。カーラがスネイプに話してくれていたから、スネイプはあの場に来てくれた。カーラは気付いていたのだ。ルーシー達がカーラの警告を無視して『石』を取りに行くことを。
「そっか……カーラが助けてくれたんだ」
顔を綻ばせながらスリザリンのテーブルでもみくちゃにされるカーラを見つめる。目が合うとカーラはどこか照れ臭そうにそっぽを向いた。
「五番目はハリー・ポッター君。その完璧な精神力と並外れた勇気を称え、グリフィンドールに六十点を与える」
耳をつんざく大騒音だった。誰もが声が掠れるほど叫んでいる。だが計算した者は気付いていた。グリフィンドールの点数がスリザリンの点数に追いついただけ。引き分けだ。今年はグリフィンドールとスリザリンが同時優勝ということになるのだろうか。
「勇気にも色々ある」
騒ぎが収まってきた頃ダンブルドアが静かに言った。
「敵に立ち向かっていくのにも大いなる勇気がいる。しかし、味方の友人に立ち向かっていくのにも同じくらい勇気が必要じゃ。そこで、わしはネビル・ロングボトム君に十点を与えたい」
まるで爆発が起きたかのようだった。グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフから大歓声が上がった。呆然としているネビルは皆に抱きつかれてすぐに見えなくなった。
「従って、飾り付けをちょいと変えねばならんのう」
ダンブルドアが手を叩くと、グリーンの垂れ幕が真紅に、銀色が金色に変わった。巨大なスリザリンの横断幕はグリフィンドールのライオンへと塗り替えられた。広間はグリフィンドールカラーでいっぱいだった。
その夜のパーティはとても素晴らしいものだった。ハロウィンの時のようにトロールが水を差すこともない。ルーシーは友人達といつまでも笑い合っていた。
試験の結果が発表された。驚くことにルーシーもハリーもロンも良い成績だった。ハーマイオニーはもちろん学年トップで、おかしなことに百点満点の試験なのに百点以上取っている教科もあった。
ホグワーツを去る日はあっという間にやって来た。夏休みが始まるのだ。列車の中では名残惜しむように四人でたくさん話をした。『石』はもうない。取り留めのないことを話すことがこんなに楽しいなんて。
ロンドンに着くとルーシー達は人の流れに身を任せてプラットフォームを出た。ハリーの親戚やロンの家族、ハーマイオニーの家族が見つかる中、ルーシーはきょろきょろと辺りを見回した。
「ルーシー」
振り返ったルーシーは顔を綻ばせる。おじさんが立っていた。
「おかえり」
「ただいま!」
「ルーシー、誰?」
ハリーがこっそり尋ねてくる。ロンとハーマイオニーもおじさんを見ていた。見目の若いおじさんとルーシーの関係を気にしているのだろう。
「私のおじさんだよ。前に話したでしょう?」
「僕、てっきりもっと年取ってるかと思ってた」
僕も、私もとロンとハーマイオニーが続く。ルーシーは笑った。
「夏休みに三人とも泊まりに来てよ。ふくろう便を送るよ」
ロンの誘いにルーシー達は笑顔で頷いた。
「さぁ、ルーシー。そろそろ行くぞ」
「はーい。じゃあ皆、またね!」
「手紙書くわ!」
「私もー! ばいばーい!」
手を振りルーシーは皆と別れておじさんと共に歩き出す。
「楽しかったか?」
「うん! 色々大変だったけど……でも楽しかったよ!」
微笑んだおじさんの視線が前を向き、どうしてか顰め面へと変わった。つられてそちらを見ると見慣れた背中が二つ。ルーシーは手を振りながら呼びかけた。
「カーラ! ドラコ!」
前方を歩いていたカーラ達が振り返る。駆け寄るとカーラが呆れ顔で言った。
「君はいつでも元気だね」
「まあね。カーラにちゃんとお礼言いたくてさ」
「お礼? ……あぁ」
思い至ったのかカーラがそっぽを向く。ルーシーはカーラの手をぎゅっと握った。
「ほんとにありがとう。カーラのおかげだよ」
「別に……もっと早く言ってれば君達を捕まえられたのに。残念だよ」
それが口だけのものだということはすぐに分かった。にししと笑うルーシーをカーラがどこか照れ臭そうに睨む。それからルーシーの背後に立つおじさんへと視線をずらした。
「おじさんだよ。話したでしょ」
「グレイ・カトレットだ。よろしく……ルーシーが世話になったね」
「カーラ・マルフォイです」
おじさんとカーラが握手を交わしたその時、向こうからカーラとドラコを呼ぶ声が聞こえてきた。
「父上」
顔を綻ばせるドラコから父親へと目を向ける。長い金髪、青灰の瞳……どこか冷たそうな印象だが整った顔立ちの男性は、ルーシーに気が付くと目を見開いた。
「君は……」
「ルーシー・カトレットです、初めまして」
「ルーシー・カトレット……?」
信じられないとその目が言っている。きっとこの人もスネイプ達と同じように『ルーシー』のことを知っているのだろう。ルーシーは苦笑を浮べてぺこりと頭を下げた。
「父上? どうかしたのですか?」
「いや……ルシウス・マルフォイだ」
カーラの問いかけに首を振り、気を取り直した様子で握手を求められる。応じた時に一瞬強く手を握られたが、ルーシーにはその意味は分からない。首を傾げると片眉を上げたルシウスは何も言わずに手を放した。
「帰るぞ、ルーシー」
「あ、うん! じゃあまた新学期にね」
「あぁ、また」
カーラ達に手を振り、ルシウスにぺこりと頭を下げ、ルーシーはおじさんと共に家へ帰っていった。
長い夏休みの始まりだ。