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ルーシーはカーラと連れ立って空き教室へと向かった。誰にも聞かれてはならないからだ。
教室に入るとルーシーはカーラに語った。入学してから自分達が体験したことを。フラッフィー、ハロウィン、『賢者の石』――カーラの顔がみるみる強張っていき、話を終えても暫くの間カーラは黙り込んだままだった。やがて、疲れたように頭を振ってカーラが口を開いた。

「――凄いことになってるんだって事は分かったよ」
「どう思う?」
「スネイプ先生の言動は確かに怪しい。ポッターのことも嫌ってるし、それに……」
「それに?」
「……何でもない。でも、だからって『あの人』の為に色々やったって考えるのは安直すぎると思うな。それにハロウィンの時、君を助けてくれたんだろう?」
「うん……だから私も疑いたくなくて……でもそうするとクィレル先生が……」
「僕はそっちが正しいと思う」

カーラの声は確信しているようだった。

「スネイプ先生が犯人なら、クィディッチの時に大勢の前でポッターを殺そうとしなくたって、もっと静かに完璧に殺す方法を取ると思うんだ。方法だって知ってるはずだし……それに審判になるってのも変だよ。近くにいる時にポッターが死んだら、それこそ疑ってくれって言ってるようなものじゃないか」
「うん……うん、そうだね」

カーラの説明にルーシーは納得して頷いた。スネイプならきっともっと上手くやるだろう。きっとスネイプはハリーを守っていたのだ。箒が振り回された時には反対呪文で。審判をした時は、きっとより近い所で守ろうとしたのではないだろうか。

「じゃあ、やっぱりクィレル先生が……」
「『あの人』に脅されたら何でもしそうじゃないか。それより気になることが一つあるんだけど」
「何?」
「森番の件だよ。そんなに都合よく欲しがってたドラゴンの卵を手に入れられると思う? たまたま卵を持ってる人に会って、たまたま賭けに勝って? 何か気になる……」

言われてみれば確かにそうだ。けれど、それならハグリッドに卵を渡した事にも理由があったということになる。ハグリッドを失脚させるため……ハリーを退学させるため……違う、きっと他に何か重大な理由があったに違いない――ルーシーはひらめいた。

「フラッフィー!」
「それだ! きっと卵を渡した時に聞き出そうとしたに違いない……」
「聞いてくる!」

立ち上がったがすぐにカーラに呼び止められた。

「もうすぐテストが始まる。きっと終わるまでクィレルは何も出来ないよ。スネイプ先生だって見張ってるし、これ以上怪しまれたら終わりなんだから」
「でもスネイプ先生もテストの準備で忙しいし……」
「そう、忙しく動き回ってる。他の先生達も。学校中が慌ただしいんだ、妙な動きをしたらすぐにバレるよ」
「そっか……じゃあテストが終わったら……」

クィレルはきっと『石』を取りに行くのだろう。ルーシーは呻き声を上げて膝を抱えた。

「ダンブルドアに言ったら良いじゃないか」
「うん、でも……」

でもレイが言っていた。ダンブルドアはちゃんと分かってると。それはつまりダンブルドアは知っているということだ。クィレルのことも、ヴォルデモートの企みも、何もかも――。

「きっとアルバスは全部知ってて放っておいてるんじゃないかって……」
「どうして?」
「クィレルが取りに行く時を狙って何かするつもりなのか、絶対に取れないと確信してるのか……」
「いかれてるよ、本当に」

溜息をついたカーラが窓の外を見上げた。つられてルーシーも見上げる。雲一つない青空だ。ルーシー達の気持ちはこんなにも沈んでいるというのに。

「でもまぁ、先生達がクィレルを疑ってるなら、君達や僕が何かする必要はないよ。そうだろう? どうせ何も出来ないんだし」
「それはそうだけど……」
「それにポッターはこれ以上首を突っ込まない方が良いよ。『あの人』は何度もポッターを殺そうとしてる……自殺行為だよ。僕なら絶対に自分から近付いたりしないね」
「うん……そうだね」

カーラの言う通りだ。ハリーには何もさせない方がいい。ヴォルデモートから遠ざけなければ……。

「……クィレルはハリーの事を狙ってる。でもそれってハリーにしか注意してないって事だよね?」
「何が言いたいんだい?」
「――私が『石』を取りに行く」

カーラが息を呑んだ。

「私が手に入れて、それでアルバスに渡す。クィレルは『石』があると思い込んでるから忍び込むけど、もうそこにはないから手に入れることは出来ない……アルバスから奪うなんて出来るわけないもん」
「出来ると思う? 先生達がいくつも罠を仕掛けてるのに?」
「それは……でもどうにかしないと『石』が取られちゃう! ヴォルデモートが復活したらハリーが!」
「落ち着けって! ……いい? クィレルが闇の魔法使いなら君を殺すことなんて簡単だ。『石』を探しに行った先で鉢合わせたらどうなる? 帰りに会ったら? 死ぬのはポッターじゃない」

答えられず俯くルーシーにカーラがきっぱり言う。

「何もしない。それが一番正しいんだよ。君も、ポッターも。……大丈夫、先生達が何とかするだろうさ」

何度も念を押して教室を出ていくカーラに、ルーシーは何も言えなかった。