ルーシー達四人が談話室に戻った時、ロンはソファで眠りこけていた。いい気なもんねと溜息を零すハーマイオニーを抜き去ったハリーがロンに駆け寄り乱暴に揺り動かして起こし始める。ネビルは真っ青な顔のまま先に寝ると言って男子塔の階段を上っていった。
三人は森でのことをロンに話して聞かせた。寝ぼけ眼だったロンはもちろん、ルーシー達自身も別行動をしている間の事など知らないことだらけだったので驚きの連続だった。
「スネイプはヴォルデモートの為にあの『石』が欲しかったんだ……ヴォルデモートは森の中で待ってるんだ。僕達、今までずっとスネイプはお金の為にあの『石』が欲しいんだと思ってた……」
「その名前を言うのはやめてくれ!」
ヴォルデモートに聞かれるのを恐れるかのようにロンが恐々囁いたがハリーは無視した。
「フィレンツェは僕達を助けてくれた。だけどそれはいけないことだったんだ……ベインが物凄く怒ってた。惑星が起こるべきことを予言してるのに、それに干渉するなって……惑星はヴォルデモートが戻ってくると予言してる……ヴォルデモートが僕を殺すなら、それをフィレンツェが止めるのは駄目だって、ベインはそう思ったんだ……僕が殺される事も星が予言してたんだ」
「頼むからその名前を言わないで!」
「それじゃ、僕はスネイプが『石』を盗むのをただ待ってれば良いんだ」
ハリーは熱に浮かされたように話し続けた。ロンの懇願はまたもや無視された。
「そしたらヴォルデモートがやってきて僕の息の根を止める……それでベインは満足するだろう」
「ハリー、ダンブルドアは『あの人』が恐れてる唯一の人だって皆言ってるじゃない。ダンブルドアがそばにいる限り、『あの人』は貴方に指一本触れることは出来ないわ。それに、ケンタウルスが正しいなんて誰が言った? 私には占いみたいなものに思えるわ。マクゴナガル先生が仰ったでしょう。占いは魔法の中でもとっても不正確な分野だって」
話し込んでいるうちに空が白み始めていた。部屋に戻った時にはくたくたで、話しすぎたせいか喉がヒリヒリした。
『大変だったみたいだな』
止り木で待っていてくれたレイが労るように声をかけてくる。
「あの森にヴォルデモートがいるの? レイは知ってたの?」
『さあな。ただ言えるのは、アルバスの奴はちゃんと分かってる。だから心配すんな。――ほら、さっさと休め』
頷いてルーシーは布団の中に潜り込んだ。目を閉じると眠気はすぐに襲ってきた。
あのマントの下にヴォルデモートがいた。ハリーの両親を殺した悪い魔法使いが――。
その夜、ルーシーは夢を見た。おかしなことにまた森の中にいる。ハリーと二人でユニコーンを見つけたあの平地だ。そこにはユニコーンの遺体はなく、代わりに一頭のユニコーンが佇んでいた。真珠色に輝くたてがみが頬をくすぐる爽やかな風に揺れている。
『私だけではありません』
ユニコーンの悲しげな声が頭に響いてくる。あの場所で死んでいたユニコーンなのだと何故だかルーシーには分かった。
『まだ他にもいます』
「他にも……って、もしかして、ヴォルデモートに……?」
『いいえ』
ユニコーンの澄んだ目が長いまつ毛に隠れがちになる。今にも泣いてしまいそうだとルーシーは思った。
『貴方にです』
「わ、たし……?」
『とても悲しいことですが……事実は変わりません』
「ま、まって、どういうこと? 私は何もしてないよ! あのマントの奴が――」
『えぇ、何もしてくれなかった……』
ユニコーンの伏せられた目から一筋の涙が流れた。とても悲しく、美しい涙だ。
『だから、貴方が殺したんです』
目が覚めた時ルーシーの頬も濡れていた。夢に見た内容をルーシーは誰にも話さなかった。誰に言ったら良いのかも分からなかったし、夢だろと笑い飛ばされるのがオチだと思ったからだ。
ハリーは森での出来事を引きずっているようで、ルーシーと同じように試験勉強に身が入っていないようだった。
「ずっと顔色が悪いみたいだけど、どんな罰則だったんだい?」
朝食の後、カーラに声をかけられた。冷やかしかと思ったが、こちらを見る表情は真剣で、どうやら本当に心配してくれているのだと分かる。
「森だよ」
壁に寄りかかりながらルーシーは答えた。
「まさか本当に森とは思わなかった……何をしてたんだい?」
「うーん……これって言って良いのかな」
「何かまずいの? 罰則の内容って秘密じゃないよね?」
「そうだけど……」
近くに誰もいないことを確認してちょいちょいと手招き。顔を寄せたカーラの耳にそっと耳打ちをした。
「ユニコーンが死んだ理由を探ってたの」
「ユニコーンが?」
カーラも声を潜めて聞き返してくる。
「それで、原因は分かったの?」
「ケンタウルスはヴォルデモートがやったって言ってた」
息を呑んだカーラが信じられないという目でルーシーを凝視する。びっくりだよねと苦笑するとカーラは呆然と頷いた。
「死にかけてるからユニコーンの血で命を繋いでるんだって言ってた……マントとフードで何も見えなかったけど、ケンタウルスが助けに来てくれなかったら私もハリーも危なかった、と思う……」
「……冗談、じゃなさそうだね」
「聞かなければ良かった?」
頷いたカーラが溜息をついて壁に寄りかかる。それから訝しむようにルーシーを見た。
「君、あの人の名前を言ってた」
「あぁ……入学するまで知らなかったから、怖い人だって言われてもピンとこなくて」
「ふーん……変わってるね」
まぁ知ってたけどと呟いたカーラが難しい顔で首を捻る。
「でも変じゃないか? だってここにはあの人が唯一恐れたっていうダンブルドアがいるじゃないか。遠くに離れるならまだしも、こんな目と鼻の先に来るなんて……そりゃあユニコーンは珍しい生き物だけど、ここ以外にもいるだろう?」
カーラの疑問は尤もだ。だがルーシーは答えを知っている。この学校に『賢者の石』が隠されているからだ。だからこそヴォルデモートは危険を犯してまで森の中に潜んでいる――のだが、確かに妙だ。だってレイは何度も森に行っている。ふくろう小屋を嫌って森で寝泊まりしているはずだ。もしヴォルデモートが森に潜んでいて夜毎ずるずると這い回っていたのなら気付くはずだ。それともルーシーに黙っていただけなのだろうか?
「カトレット?」
ルーシーはハッと我に返った。
「どうしたんだ?」
「ううん、何でも」
「それで、実際君達はどこまで掴んでるんだ?」
「何を?」
首を傾げたルーシーにカーラは顔を顰めた。
「おかしな事が起きてることくらい僕にだって分かるさ。廊下が立入禁止になるなんて初めてだって先輩達が言ってたし、その理由は監督生にも教えられてない。ハロウィンにはトロールが城に入り込んだ――一人で侵入出来るほど頭の良い奴じゃないのに。クィディッチではポッターが箒から振り落されそうになってたし、その時に教員席でボヤ騒ぎもあったんだ」
指折り数えるカーラの顔はどんどん難しいものへと変わっていく。
「ハロウィンの後、スネイプ先生は脚に大怪我してたし、クィディッチの審判にもなった。そんなの聞いたことないって皆驚いてたよ。まだあるよ。森番がたまたまドラゴンの卵を手に入れて、手伝った君達の罰則が森の探索。森には『例のあの人』が潜んでいて、ユニコーンの血で命を繋いでいる――何から何までおかしなことばかりじゃないか」
どうだとばかりに話をしめくくったカーラは、思い出したように付け足した。
「まだあった。君は知ってるかな……グリンゴッツに強盗が入ったって新聞に書いてあったんだ。年度の初めだったと思うけど」
「うん、読んだよ」
「中身は既に持ち出された後だったって書いてあった――その強盗が『例のあの人』だったんじゃないかって僕は思ってる」
周りを窺いながらカーラが言った。
「中身はここの立入禁止の廊下に隠されてて、『例のあの人』はそれを狙ってるから森に潜んでる……そう考えたらスッキリするだろう? そんなこと監督生にだって言えないから理由を話してないし、ハロウィンのトロールは多分陽動だ。先生達が気を取られてる間に盗もうとした……スネイプ先生が怪我をしたのはそれに関連してると思う。『例のあの人』がポッターを殺そうとしたからポッターは箒から落ちそうになった……ボヤ騒ぎは分からないけど、それのおかげで魔法が解けたからポッターが無事だったとしたら、騒ぎを起こしたのは君の友人達の誰かじゃないか? たとえばグレンジャーとか」
探るようにカーラが覗き込んでくる。ルーシーは降参とばかりに両手を挙げた。
「ずっと考えてたの?」
「君達が怪しい動きばかりしてるからだよ。嫌でも目につく」
「もしかしてドラコも……?」
「知らないと思うよ。ドラコはポッターを退学にさせることしか頭にないから」
肩を竦めたカーラが「でも」と再び考え込む。
「そうまでして何を狙ってるんだろう? それに、まさか『あの人』が自分でグリンゴッツに忍び込んだりするとは思えない。教員席でボヤ騒ぎが起きたって事は、そこに犯人がいたってことだろう? まさか『あの人』がそこに行くとは思えないから、きっと部下がいるんだ。この学校に」
「誰だと思う?」
「分からない……でもトロールを入れたのも、ポッターの箒に魔法をかけたのもその部下の仕業だと思うよ」
舌を巻くルーシーを見据えてカーラが言った。
「――それで、君達はどこまで掴んでるんだい?」