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十二月も半ばを過ぎたある日の朝、目を覚ますとホグワーツは深い雪に覆われ、湖はカチカチに凍りついていた。
しんしんと雪が降る中、双子のウィーズリーが熱心に温室の入り口の雪かきをしている。どういう心境の変化かと問えば、魔法をかけた雪玉をクィレルに付き纏わせ、ターバンの後ろでぽんぽん跳ね返るようにした事の罰則だと返ってきた。どんなに寒くとも双子の悪戯ぶりは健在だ。

もうすぐクリスマスだ。
クリスマス休暇は一年間の中で家に帰れる唯一の休暇で、久しぶりに家族に会える、家に帰れると生徒達は休暇を待ち望んでいた。

ハリー、ロン、ルーシーの三人はホグワーツに残る事が決まっていた。
ハリーはダーズリー家よりホグワーツで過ごす方がよっぽど楽しいと信じていたし、ロンの家は両親がルーマニアにいるチャーリーの元へ行くという理由で兄弟全員がホグワーツに残る事になっている。ハーマイオニーは両親が待つ家へ帰る事になっているが、そもそもルーシーは家族も一緒にホグワーツにいるのだから何の気兼ねもなく残る事が出来る。誰もいない家が気にはなるけれど、レイが定期的に家に帰っているようだから何の心配もないだろう。

クィディッチの試合でおかしな動きを見せたハリーの箒は、今はもう何の問題も起きていない。ルーシーは試合中だったし、ハリーは箒から振り落とされないようにと必死だったから気付かなかったけれど、ハーマイオニーとロンが言うには、何とスネイプがハリーの箒に呪文をかけて振り落とそうとしていたというのだ。そんなバカな。試合後、集まったハグリッドの小屋でルーシーとハグリッドの声が揃ったけれど、ロンとハーマイオニーはすっかりスネイプが犯人だと信じていたし、ハリーも二人の発言を支持した。日頃ハリーに対して酷い扱いをみせるものだから、当然と言えば当然でもある。

けれど、ルーシーにはどうしても信じられなかった。
それというのも、授業の後に片付けを手伝った日以来、気まぐれにスネイプの元を訪れていたからだ。嫌な顔をするくせに追い出そうとしないスネイプは、ルーシーが何か言えば必ず返事をくれたし、減点だ、罰則だと言いながらも実際にそれを実行する事は少なかった。

「先生っていい人なのか悪い人なのか分かりませんね」

そんな事を言って呆れさせたのもつい数日前の事で、その時のスネイプからの返事は「くだらん事を言っている暇があったらさっさとその課題を終わらせたまえ」だ。もう少しフレンドリーに接しても罰は当たらないと、ダンブルドア辺りが言えば多少なりとも効果が表れるだろうか。答えはすぐに出た。無理だ。

『立入り禁止の部屋』について尋ねた際、ハグリッドがうっかり口を滑らせて教えてくれたニコラス・フラメルという名前。三頭犬――フラッフィーという名前らしい。ハグリッドのペットだそうだ――が守っているものが何かと尋ねた時に偶然聞いてしまったその名前は、ルーシーには聞き覚えのない名前だった。マグルの世界で生きてきたハーマイオニーも、魔法界で生きてきたロンも分からないと言った。

”僕、どこかで聞いた事があるような気がするんだ”

ハリーのその言葉に希望を見出して図書館に通い詰めているが、今のところ収穫はゼロだ。いっそスネイプに尋ねてしまおうかとも思ったけれど、どうせ教えてはくれないのだろう。ハグリッドでさえ教えてくれないのだ、スネイプが教えてくれるはずもない。

クリスマス休暇が始まると、ホグワーツはとても静かになった。
談話室は昼間でも人が少なく貸切状態だ。ハリー、ロン、ルーシーの三人は普段なら中々座る事の出来ない暖炉前のソファを陣取った。ハリーとロンが魔法使いの動くチェスをしているのを眺めながら、欠伸を一つ、二つ、三つ。

「眠いの?」

笑うハリーに適当な返事を返して瞼を閉じる。暖炉から聞こえるパチパチと爆ぜる音がいやに眠気を誘ってくるのだ。違う、そっちじゃない。私はそこに行きたくない!同室のシェーマス・フィネガンから借りたチェスがハリーに反抗しているのを聞きながら、ルーシーの意識は微睡んでいった。

夢を見た。
グリフィンドールの談話室だ。寝る前と同じように暖炉前を陣取って座るルーシーの視線の先で、何故か今よりも成長したハリーがキラキラ輝く小さな何かで遊んでいる。そっと両手を開くと金色の何かがひゅん、ひゅんと風を切って飛び回り、目を凝らさなければすぐにでも見えなくなってしまいそうだ。ハリーはそれを見事に捕まえては、どうだと言わんばかりの顔でこちらを振り返った。
あれ?そう思ったのは一瞬で、けれどすぐに違和感は消える。ハリーの隣にいたのはロンではなく黒髪のハンサムな青年だった。ロンはどこに行ったんだろう、あの人は誰だろう――浮かんだ疑問は、けれど何故かすぐに消えてしまう。まるで、これが正しいとでもいうかのように。

「暇だ」
「じゃあ今日も行くかい?」

黒髪の青年のぼやきに、金色の何かをポケットにしまったハリーがニヤリと笑う。黒髪の青年もニヤリと笑った。

「ちゃんと計画は立ててあるんだろうな」
「勿論、そこは抜かりないよ」

ハリーの言葉を受けて黒髪の青年が立ち上がった。ポケットから取り出した悪戯グッズがバラバラとテーブルに落ちる。今日はどれにしようか。これが良いんじゃないかな。そんなやり取りをしていた二人が、不意にこちらを見た。

「ルーシー」
「ほら、君もやるだろう?」

早くおいでよ!そう言って手を伸ばしたハリーに、ルーシーは頬を緩めて口を開いた。




「ルーシー!」

すぐ近くに聞こえた大声にルーシーは飛び起きた。やっと起きた。そう言って笑うハリーとロンを呆然と見て、あれ?と呟きを漏らす。

「どうしたの?」
「え、いや……あれ、えっと……」
「ルーシー?」

首を傾げる二人に何かを言おうとして、けれど何も出てこなくてルーシーは口を噤む。何か夢を見ていた気がするのに、思い出せない。何の夢を見ていたのだろうか。

「もうすぐ夕食だよ」
「行こうよ、お腹ぺこぺこなんだ」
「あ……うん」

広間には教員用の長テーブルが一つと、生徒用の長テーブルが一つしかなかった。
学校に残る人数が少なすぎて、一つで足りてしまうのだ。教員テーブルも普段の半分くらいしかいない。みんな家に帰っているのだろうと思うと、ルーシーも山奥の家が恋しく思えてくる。
まるでルーシーの考えを読んだかのように、レイがスーッと飛んできてルーシーの肩に止まった。

「重いって」

言いながらもルーシーの口元は締まりない。

『さむい』
「部屋にいれば良かったのに」

冷えきった身体を撫でてやれば、まるでもっと体温を寄越せとでも言うように頬をすり寄せてくる。いつもと逆だ。呟いて撫で続けていると、ポンッという音と共にレイの身体に柔らかな赤い布が巻きついた。ぱちぱちと目を瞬いているとレイの視線が教員テーブルへと向いた事に気付く。そちらを見れば、サッと杖を隠したダンブルドアがにこにこと楽しげに笑っているのが見えた。

「アルバスだ」
『邪魔だ、取ってくれ』
「レイが寒がってるから付けてくれたんだね」

早く取れと耳を甘噛みするレイに「だめ」と一言。ルーシーは小さく切り分けたチキンをレイの口元へ運ぶと、レイはもう何も言わずにチキンを啄んだ。

「共食い……」

ぽつりと呟いたロンにハリーが吹き出したのは余談である。