ハリー、ロンとドラコの仲は悪くなる一方だった。廊下でばったり出会せばすぐに言い合いを始めるし、合同の授業になった時にはドラコは思う存分ハリーとロンを嘲笑った。魔法薬の授業ではスネイプまで一緒になってハリーを標的にするものだから、見ている側としては堪ったものではない。
「まぁ、カーラと話が出来るから良いけどね」
「僕は嬉しくないけどね、ちっとも」
いっそ清々しい程ににっこり微笑むカーラにルーシーは頬を引き攣らせた。
先日の悪戯に引きずり回した事を未だに根に持っているらしい。
「あー……ほら、アレだよ。結局バレなかったわけだし」
「あぁ、そうだね! ご丁寧にも君はスネイプ先生にバラしてくれたみたいだけど!」
おかげで僕が何て言われたか!眉を吊り上げるカーラにルーシーは曖昧に笑う事しか出来ない。
確かにカーラを連れ回したとは言ったが、まさかそれでスネイプがカーラを呼び出すなどとは思ってもみなかったのだ。スネイプだってルーシーがカーラを巻き込んだと思っていたらしいし――まさにその通りなのだ――、それならばカーラが何かしらのペナルティを負うような事は無いだろうと思っていた。のに。
「え、と……先生は何て……?」
「『カトレットのような考え足らずに振り回されないように気を付けたまえ』」
ムスッとした顔で教えてくれるカーラにルーシーはパッと顔を輝かせた。何だ、良かったじゃん。怒られなくて。口をついて出たそれにカーラがキッと眉を吊り上げる。
「どこが? ねぇ、どこが良いって言うんだ? 君のおかげで僕はスネイプ先生の中で『アホなグリフィンドール生を上手にあしらう事も出来ない能無し』だと思われてるっていうのに!」
「いや、それはちょっと被害妄想強すぎというか――何でもないですスミマセン」
じとりと睨まれたルーシーは即座に謝罪の言葉を口にした。視線を合わせられない。痛い。視線が痛い。
「良いか? 君が、僕を、ほんの少しでも――と言うより、それ以上欲しくないけど、友人だとか思っているのであれば、二度と、僕を巻き込まないでくれ!」
「………分かった」
「そう、それは助かるよ」
一転して満足気に笑うカーラにルーシーは唇を尖らせた。面白くない。あの時だってあんなに楽しかったのに。勉強ばかりの毎日なんて飽きてしまうのだ、少しのスリルもあった方が良いではないか――あぁ、そうだ。頭に閃いたそれにルーシーは顔を輝かせた。代わりにカーラの顔が嫌そうに歪んだのけれど、ルーシーは気付かない。
「じゃあ、今度はカーラが仕掛ければ良いよ!」
「何が『じゃあ』なんだ? 僕の言ってた事、聞いてたのか?」
「前の時は私が仕掛けたから楽しくなかったんだよ。カーラも自分で仕掛けてみれば楽しさが分かるように――あれ?」
どうやら説に力を入れすぎたらしい。気付いた時には既にカーラの姿はなく、ルーシーは渋々と一人で悪戯を仕掛けに行った。
不運にも途中でスネイプに出会してしまい、昨日で漸く終わったばかりの罰則を再び一週間言い渡される事になるとも知らずに。
その日の夜、罰則を終えて談話室に戻ってきたルーシーは近くに空いていたソファにどさりと腰を下ろした。薬学教室の大掃除をして――勿論、魔法は無しだ――、これからまだ宿題が残っている。
「あぁ……疲れた」
もうこのまま眠ってしまおうか。そんな事を考えたルーシーだが、悲しい事にその宿題はスネイプが担当する魔法薬学のもの。もし宿題をやらずに明日の授業に臨んだりしたら――考えただけで背筋が冷たくなる。
「ルーシー。貴方、また罰則だったんですって?」
眉を吊り上げてやって来たハーマイオニーにルーシーは呻く事すら出来ない。
「悪戯なんてダメよ! 何度も言ったじゃない! グリフィンドールの点数がどんどん減って――」
「あぁ、大丈夫。今日は減点されなかったよ」
「そういう問題じゃないわ!」
あぁ、頭が痛い。ハーマイオニーのお説教は正論だが、それでも楽しい事を求める気持ちも分かって欲しい。今日は減点されなかったのだから、これはルーシー個人の問題だ。減点された時ならまだしも、今こんなにも目くじらを立てる必要なんかないじゃないか。
「ねぇ、ハーマイオニー。私は――」
「貴方が後悔するのよ! それに、宿題だってまだやってないじゃない! 明日は魔法薬学があるのよ? もし宿題をやらずに授業に出たら、それこそいっぱい減点されちゃうわ!」
「――分かった! 分かった、分かったから……」
降参です。両手を挙げて全面降伏すれば、漸くハーマイオニーが口を噤んだ。
「ちゃんと宿題もやります。明日の授業では減点も罰則ももらわないように気を付けます」
「それが当然の事なのよ、ルーシー」
厳しい言い方ではあったが、それでもハーマイオニーの言う事は正しい。知ったかぶりやお節介だなんて陰で言われている事に気付いているのかは分からないが、きっと、こうして小言を言ってもらえる事は嬉しい事なのだろう。それはハーマイオニーがちゃんとルーシーの事を見ているという事なのだから。
「ついては相談なんだけど、ハーマイオニー。その……宿題、教えて?」
てへ。小首を傾げて笑ってみせるルーシーに対するハーマイオニーの返答はにべもない。
「ダメよ、自分でやらなきゃ身に付かないもの」
「ご尤もです」
分かっていた。分かっていたとも。あぁ、今日も寝る時間が遅くなる――元はといえば自分の所為なのだけれど。項垂れながら部屋へ戻り始めると、パタパタと小さな足音が近づいてくる。ハーマイオニーだ。
「教える事は出来ないけど、その――ほんのちょっとだけ、手伝ってあげる事なら出来るわ。………勿論、ルーシーがそう望むのなら」
最後にそう付け足したハーマイオニーが不安げに眉を寄せて視線を泳がせる。何故そんな顔をするのかは分からないが、ルーシーにとっては願ってもない申し出だ。
「本当に!? 良いの!? ありがとう!!」
「っ、お、教える事はしませんからね! ちゃんと合っているか、見てあげるだけよ!」
「うんうん!! じゃあ早く部屋に戻らなきゃ! ハーマイオニー大好き!」
ランランと鼻歌を歌いながら階段を駆け上がっていくルーシーは知らない。唇を噛みしめたハーマイオニーが泣きそうに顔を歪めた事を。
「ここ間違ってるわ! ここも! ここもよ!」
「も、もう良いよこれで……」
「ダメよ! ちゃんとやり直さなきゃ!」
ハーマイオニーのスパルタ指導のおかげでルーシーの宿題の出来はとても素晴らしいものとなるが、二人がベッドに入ったのは日付が変わり時計の針が二周程回った後の事だった。