毎月恒例の飲み会。
いい年してまだ実家に居座っている兄貴の友人たちが家にやって来て、朝まで飲み明かすというふざけた会だ。たまには他の家でやれば良いのに、彼らは毎月ここに集まる。解せない。

「ちったァ私に気を遣え、オッサン共」
「そう言いながら、いつもこうやって酒注いでくれるんだもんなぁ」

出来た妹で嬉しいぜ
黙れバカ兄貴

頭をぽんぽんされたって嬉しくも何ともない。酔っ払いめ、そうやって優しい言葉をかければ私の機嫌が治ると思ってやがる。
食器棚の奥に隠しておいたイカソーメンを皿に開けて出してやれば、酔っぱらいたちは嬉しそうにイカソーメンに手を伸ばした。その隙に誰かが買ってきたらしいいかくんとさきいかを鷲掴んでゲットする。イカソーメンを犠牲にしたんだ、たっぷりもらわないと。

「でもやっぱイカソーメンも食べたい」
「ほれ」

すぐ目の前ににゅっと差し出されたイカソーメン。迷わず口を開けて齧り付けば、隣から笑い声が上がる。

「最初に自分のをキープしとかねぇと」
「次からはそうする」

くつくつと笑いながら瓶ビールを煽るマルコさんの隣にちょこんと座り、戦利品のいかくんとさきいかを広げたスカートの上に置いた。烏龍茶片手にもしゃもしゃと食べ始める私に「ハムスターみてぇ」なんて笑うマルコさんちょっと黙ろうか。
恋人にフラれたと喚いているサッチさんを眺めながら、またかと溜息を一つ。

「サッチさん、いい人なのに」
「いい人で終わっちまうんだろい」

即座に返ってきたそれに苦笑を浮かべる。サッチさん、料理も出来るし気遣いも出来る人なのに。付き合ったら凄く楽しそうなのに――そう呟くと伸びてきた手が頬を引っ張った。痛い。

「他の野郎ばっか見てんな」

ちったぁこっち向けよい。そう言いながら顎を掴まれて強引に振り向かされる。首が痛い。顎も痛い。目が合ったマルコさんが満足気に笑うのに呆れた視線を返してまた溜息。酒が入ったサッチさんは美人な彼女がいる兄貴にいつも絡んで面倒臭いんだけど、このオッサンも中々面倒臭い。絡んでくるのはいつもの事だけど、先々月にキスをされて以来それが激しくなった気がする。

そもそも、今どんな関係なのかも私にはよく分からない。
お付き合いというものをする事になったんだと思ってた。マルコさんの事をそういう意味で好きなのかどうかは分からないけど、一応私もあの時に覚悟を決めたつもりではあった。でも、あの飲み会以降マルコさんからの連絡は一度もなかった。先月の飲み会で会った時は相変わらずベタベタくっついてきたけど、キスはされなかった。いつも通り抱きしめられて頬ずりされて可愛い可愛い言われただけだ。今までと同じ。今もいつの間にかマルコさんが後ろにいるけど、たまに頭に頬ずりされるだけだ。別に何も変わってない。

酔っ払いの言動を真に受けた私がバカだったという事なんだろう。好きかどうか分からないくせに、マルコさんが酔っ払ってただけだということにショックを受けているからビックリだ。

「変な顔」

何考えてんだいって笑うマルコさんにアンタの事だと言えずに押し黙る。変なヤツだねいと笑うマルコさんの腹に肘をお見舞いしても良いだろうか。
ぐびぐびとビールを飲んでいるマルコさんをチラリと見てこっそり溜息。さきいかをもしゃもしゃと食べていると、肩にマルコさんの顔が乗っかって、「あ」と開く口。さきいかを口に入れてあげれば、お礼代わりにほっぺにキスされた。お酒といかのにおいがプンプン漂ってくる。この酔っ払いめ。いやいやと首を振ったらぐりぐりと頬ずりされた。ヒゲが当たってくすぐったい。

「こらそこ! いちゃいちゃすんな!!」

突然飛んできた声に驚いてビクリと身体が揺れた。私の頭に顎を乗せたマルコさんが「うっせぇ黙れ」と冷たく言い返す。まるで見せつけるように後ろからぎゅって抱きしめられて身動きが取れない。サッチさんの悔しげな顔が見えますごめんなさい。でもそれよりも、膝の上のいかくんが落ちそうなのが気になって仕方ないんだ。

「いかくん落ちちゃう」
「そこかよ!」

まず逃げろ! 慌てろ! 危機感ゼロか!
叫ぶ兄貴に、でももうキスされちゃったしって呟いたらあちこちから奇声が上がる。酔っ払い怖い。

「バカお前! マルコなんかに捕まってんじゃねぇよ!」
「そうだそうだ! ぺろっと食われてぽいっと捨てられちまうぞ!」
「………マルコさん評判悪いね」
「おかしな事があるもんだ」

兄貴たちの抗議の声などどこ吹く風。飄々と言ってのけたマルコさんの頭が私の頭にぐりぐりと押し付けられた。痛い。

「汚ねェ手で触んな! とっとと別れろ!」
「別れろも何も、付き合ってないよ」

たぶん。心の内で続けた言葉は届かない。え?という声が上から降ってきた。顔を上げれば心底驚いたという様子のマルコさんの顔。

「あれ?」
「え?」

互いに首を傾げて見つめ合う。

「え、付き合ってねーの?」
「たぶん」

サッチさんの問いかけに答えると後ろから呻き声が聞こえてきた。やだ、酔っ払い怖い。

「どうなってんだ」
「私が聞きたいんだけども。え、付き合ってるつもりだったの?」

あれで?という言葉は呑み込んだ。兄貴たちが一斉に笑い出す。マルコだせぇ!だって。ごめんマルコさん。心の篭もらない謝罪が聞こえたのか、渋面のマルコさんの手が私の両頬を左右めいっぱいに引っ張りだした。

「いはい!!」
「逆に俺が聞きてぇもんだ。散々くっついてあんな会話してキスまでしておいて、付き合ってねぇとか……!」
「らって! あるこはんあいもいわなかったし!」

好きだって言われてないし! 連絡来なかったし! 勘違いだったと思うじゃん!
頬を引っ張られたまま言い訳を口にすれば、それはそれは大きな溜息が返ってきて解放された。ほっぺた痛くて涙が滲んだ。

「連絡も何も、そもそも俺ァお前の番号もアドレスも知らねぇよい」
「あ、そう言えば」

そりゃ連絡出来ないか。でも先月も聞かれなかったし。マルコさんの連絡先も教えてもらってないし。やっぱり私悪くないと言えば、バツが悪そうな顔のマルコさんが「悪かった」と謝りながらまた私を抱きしめる。
あぁ、何だ。付き合ってたんだ。そっか。ふーん。思いながら口元が緩むのを止められない。おかしいな、ちゃんと好きかどうかも分からないのに。

「そういうわけだ。付き合ってる」

これからよろしく、お兄さん。清々しい笑顔で言い放ったマルコさんに、馬鹿笑いから一転。兄貴の悲鳴が上がった。





相変わらず酔っ払い





「マルコさん、酔ってるでしょ」
「あぁ、お前に酔ってる」
「うわ、鳥肌立った」

両腕を擦りながら身震い。そんな私の反応が気に入らなかったのか、ほっぺたにヒゲを当てられて、かつてないほどの強さでじょりじょりされた。痛い!