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”赤髪の所に行って、リサの学校まで引っ張って来い”

リサが学校中からイジメを受けていると告げた際、マルコから言われた言葉。
どうしてシャンクスを? だとか、何をするんだ? だとか。浮かんだ疑問を口にすることすらせず、エースは即座に頷いてマルコの部屋を飛び出した。
疑問は沢山あった。けれど、あれこれ詮索しても仕方がないことをエースはよく知っていた。

実の父親以上に尊敬し、父と慕っている白ひげに息子と呼ばれ、マルコの弟分になってから十数年。エースはマルコの言葉を、考えを疑ったことはない。
それは、自分よりも遥かに頭が良かったからというだけではない。
マルコという人間を知っていれば、疑う必要など全く無いからだ。

例え、今まで感じたこともない恐怖をマルコに覚えた直後だったとしても、それは変わらない。
エースにとってマルコは尊敬する兄であり、大好きな兄であり、大切な兄であるのだから。
短所などいくつも知っている。それも全部ひっくるめて、マルコという人間を信頼しているのだ。

エースは知っている。
マルコは裏切らないということを。

エースは知っている。
マルコが、リサを傷付ける人間に容赦しないということを。

勿論それは家族全員に言えることだが、マルコのそれは次元が違うとエースは思っている。
人一倍どころか、二倍も三倍も――サッチに言わせれば百倍でもくだらねぇ、らしいが――リサに執着しているマルコだからこそ。

エース自身、かけがえのない妹を傷付けた人間に恩赦の情など持ち合わせてなどいない。
だからこそ、だ。

マルコに任せておけば万事上手くいく。

それは、リサを救出するという意味でもあり、リサを傷付けた奴らに相応の報復を――という意味でもある。

シャンクスの家に駆け込み、マルコから連絡を受けていたらしいシャンクスを引っ張り出してやって来た学校。
既にやって来ていたマルコはリサを傍らに置いて離さない。
それはまるで、親鳥が雛鳥を護るかのように。

常軌を逸しているとは思う。けれど、それがマルコだ。
リサに執着しないマルコなど、家族を大切にしないマルコなど、マルコではない。
エースがそう思うほどに、マルコにとっての一番は家族であり、リサでもあるのだ。

だからこそ、エースは疑わない。



「それは俺のモンだ」



『兄』の発言とは到底思えないようなその発言にすら、動揺などしない。
それはリサも同様で、マルコのその言葉を当たり前のように受け入れている。
疑うことなど何もない。驚くことなど何もない。

だって、それがマルコなのだから。



「っ、ざ、けんな……っ、ふざけんな………っ!!!」



だからこそ、拒絶する。
それを受け入れようとしない人間を。理解しようとしない人間を。

「……ほんっと、執着の塊ね」

束縛酷そうね、などと小声で囁いたナミに、傍らに立つサンジとゾロが頷く。
彼らはリサの友人であり仲間ではあるが、家族ではない。
だからこそ、気付く。気付きたくなくても気付いてしまう。

「………つーか、あれで気付かない方がおかしいだろ」

異性としてマルコに想いを寄せているリサの顔には、動揺の『ど』の字すら見当たらない。
まるでそれが当たり前であるかのようにマルコを見ている。より近くに立つ相川という男子生徒など眼中にない。
それはマルコの傍らに立つエースですら同じであるのだから、溜息すら出ない。

あの家族が異常なのは今に始まったことではないが、やはり時たま思う。
少々、過保護すぎやしないだろうか、と。
過保護、過干渉、溺愛。その三つを地でいっている一家なのだ。

以前、居眠りが多すぎて補習を食らった際、シャンクスに聞かされた愚痴がゾロの脳裏に甦った。

何つーかよ、最近、校長が煩ェんだよ
いや、煩いのは前からなんだけどな?
息子のエース、知ってんだろ? そう、ルフィの兄貴の
そいつがな、自分よりも白ひげを父だと慕ってるって喚くんだ
え? 今に始まった話じゃないだろって? そりゃそうだ、アイツは昔っから白ひげとその息子たちが大好きだからな
いや、そうじゃなくてな
この間、エースの独り言を聞いたらしいんだけどよ
どうやらエースの奴、いっそのこと白ひげの家に引っ越そうかなとか呟いてたらしいんだ
それであの人がもうスゲェ泣き喚いてよ、俺一晩中聞かされ続けたんだぜ、可哀想だろ?
だろ? よし、じゃあ後で俺にいちごオレ奢ってくれ

聞きたくもない愚痴を延々と聞かされ、何故かいちごオレを奢らされそうになったゾロは思う。

もう手遅れなのだと。

「刷り込みってのは怖ェもんだな」
「まったくだ」

場にそぐわない呆れた表情でエースとリサを見遣り、ゾロ、サンジ、ナミは溜息を漏らす。
そう言えば、机に突っ込んだルフィは大丈夫だろうか。無駄に頑丈な彼のことだから何も問題はないだろうが、何故かピクリとも動かない。

「ん……?」
「――おい、アイツ」
「寝てるわね」

巻き込んで倒れた机たちを布団だとでも思ったのだろうか。鼻提灯を膨らませて眠るルフィを見てまた溜息。
醜く顔を歪めてマルコを睨み付ける相川と、そんな相川を見下すマルコ。
間に挟まれたリサがルフィの鼻提灯を見つけてホッと安堵の息を漏らしたのを眺めながら、三人は同じことを思う。

もう、

何て言うか


「………とっとと終われ」


結果など、分かりきっているのだから。