グランド高校二年A組の担任だと名乗った赤髪の男は、爽やかな笑顔を浮かべたまま困惑する教師に向けて言い放った。
それは、彼からすれば到底受け入れ難い言葉を。
「この子には、明日からうちの学校に通ってもらうことにした」
「………は?」
間抜けな声を上げたのは、告げられた教師ともう一人。
「……ごめんシャンクス、ちょっと何言ってるか分かんない」
『この子』と指された彼女本人だった。
「えっと………マルコ……?」
説明を求めて見上げた先、マルコは「ん?」と優しく聞き返しながら彼女を見下ろす。
ずっと変わらない。彼女を見つめる、その目。
愛しいという気持ちを隠しもしない、その態度。その目。
何もかもが、腹立たしくて。
「何だい?」
「いや……だって、え………? てん、こう?」
するの? 彼女が尋ね。するよい。マルコが答える。
「え、だって……」
「もうロジャーには連絡してある」
「でも、」
「そっかー! リサ、俺らと同じ学校来んのか!」
そりゃめでてぇ!
笑うルフィに、けれど彼女は困惑の色を浮かべたまま。
「何よ、何か不満なの?」
良いでしょ? こんなトコに通ったっていいことないわよ。
生徒たちの視線など物ともせずに、ナミが。
「つーかよ、何でリサちゃんだけこっちだったんだ?」
初めから同じトコ通ってりゃ良かったのに。
首を傾げて、サンジが。
「だって……『あんな変態野郎が教師やってる学校なんぞに入れてたまるか』って、」
マルコが………。
決してシャンクスを見ないままにぼそぼそと答える彼女。
その場にいた全員の視線がマルコに向けられて――
「たりめぇだ。何だってこんなふざけた野郎がいる学校に、大事に育ててきたコイツを入れなきゃなんねぇんだよい」
孕んだらどうする。
悪びれるどころか、問題発言ともとれる言葉を吐き捨てるマルコ。
おま……! 俺をどんな目で見てんだ!!
見たまんまだよい
何だとぅ!?
あー煩ェ
決して彼女から離れようとしない腹立たしい男と、グランド高校の教師のやり取りなど耳に入らなかった。
”大事に育ててきた”
マルコはそう言った。
それはつまり、父親ということなのだろうか。
否、違う。二人の間に漂う空気は父娘のそれとは全く違う。
それに、露ほども似ていないのだ。血縁者であるとは言い難い。
それならば、一体――?
分からない。
分からないからこそ、腹立たしい。
今までは無表情だった彼女が、
今はこんなにも沢山の表情を見せている。
笑ったり、泣いたり。
焦ったような顔も、困ったような顔も、記憶に存在する彼女とは結びつかない。
知らない。
こんな彼女は、知らない。
どうして。
どうして。
どうして、どうしてどうしてどうして――!!
彼女は、本当ならここにいるはずなのに。
俺の隣に、立っているはずだったのに。
「とにかくだ。こんなクソみてぇな学校に比べたら、まだ変態がいる学校の方がマシだ」
「な……っ、クソだと……!?」
さすがに聞捨てならなかったのだろう。怒りを露にする教師に、マルコは鼻を鳴らして生徒たちを見回した。
「じゃあ教えてくれよい、センセイ。イジメを止めるどころか、教師までそれに加担するような学校をクソと呼ばずに何と呼ぶのか」
「……!! 、だが!」
「そいつが悪いんじゃねぇか!!」
「そうよ!! 反省しないからでしょう!!?」
「あ゛ァ?」
教室の温度が二、三度は下がっただろうか。
ひっ、と小さな悲鳴を上げて黙り込んだ生徒たちを見下すマルコの目は、視線で人を殺せそうなそれだ。
「コイツは、自分は告白してないと、そう言ったはずだが?」
「そ、そんなの嘘だ!!」
「そ、そうよ! だって……!!」
「”だって”、何だよい」
「、え……」
「”だって”――その続きを聞いてる。コイツが嘘をついたって証拠は? 持ってんだろい、とっとと出しやがれ」
「、そ、れは……」
証拠。
そんなもの、
そんなもの、
そんなもの、
――ない。
言い淀む生徒たちを見回して、マルコが不機嫌を露に鼻を鳴らす。
「証拠もねぇのに寄って集って嫌がらせして、殴って、蹴って、挙句の果てにバットで殴って骨折までさせたわけかい」
救いようがねぇな。嘲るように吐き捨てるマルコに、
よく言うぜ、救う気なんざねぇくせに。肩を竦めるシャンクス。
黙り込む生徒たちに彼女が目を向けることはない。
マルコに寄り添い、腰を抱かれることに何の抵抗も示さない彼女に、なりを潜めていた苛立ちがまたこみ上げてくる。
どうして。
そんな奴に。
俺の方が。
彼女の目がこっちに向けられることももうない。
どうして。
おかしい。
おかしい。
だって、本当なら。
”俺と付き合わない?”
彼女の答えは”イエス”だったはずなのに。
あの男がいなければ。
不意に彼女がこちらを向いた。
どくん、跳ねた心臓が『期待』という餌を手に入れて更に鼓動を早くする。
彼女の、視線が、こっちに――
「、ぇ……」
耳の傍に聞こえていた鼓動が遠くなっていく。
どうして。
彼女の目が。
どうして。
彼女の声が。
どうして。
彼女の言葉が。
どうして。
彼女の態度が。
彼女の全て、が
”いらない”
”お前なんかいらない”
”興味ない”
そう言っているように聞こえて――
”付き合いません”
あの日の彼女と重なった。