19


そんなはずはない。
男子生徒は焦っていた。

そんなはずはない。
そんなはずはない。
そんな事が、あっていいはずがない。

必死に自分に言い聞かせて、それでも焦燥感はちっとも拭えなくて。


だって、彼女が悪いのだ。
友人に告白して、フラれた腹いせに殴るから。
友人は頬を真っ赤に腫らしていたし、彼女だって殴ったことを認めたじゃないか。

だから、彼女が悪いのだ。
告白してないなんて嘘をつくから。
告白されたのは自分の方だ、なんて誰が聞いても信じられないそんな嘘をつくから。

だから、自分は悪くない。
どんなに怒鳴りつけても、彼女が主張を変えないから。
どんなに殴っても、蹴っても、彼女が罪を認めないから。
理不尽に殴られた友人の為に、自分たちが彼女を責めた。
たったそれだけだ。

だから、悪くない。
毎日のように追いかけ回して殴ったことも、
毎日のように追いかけ回して蹴ったことも。

彼女の机に傷をつけたのは自分ではない。クラスの女子たちだ。
バケツに溜めた水を彼女に浴びせたのは自分ではない。クラスの女子たちだ。

あぁ、でも。

でも、昨日のアレは。

いつまで経っても認めない彼女に腹が立って。
全て赦して手を差し伸べた友人の手を、彼女が叩き落としたと聞いて目の前が真っ赤になって。

部活だったにも拘らず昇降口まで駆けて、
そこに、囲まれる彼女を見つけて、
決して認めない彼女に苛立って、


”わたし、は……っ、あんな人、好きになったりしない……っ!”


罪を認めるどころか、友人を侮辱するような発言をするから。




”調子に乗ってんじゃねぇ!!”




手に持っていたバットを、


振り上げ、て――


耳の奥にこびり付いた、骨が砕ける、音。
球を打った時とは全然違う、いやな、感触。

必死に歯を食い縛って痛みに耐える彼女を見て、我に返って。
突然現れた大学生らしき男が彼女を抱きしめたのを見て、また憤って。

恋人が、いるくせに。
二股かけようとして、フラれた腹いせに殴って。

何て最低な女なんだ。そう思って。


ご、めん

ごめ、

っ、ごめ……っ!!


聞こえない。
今にも泣きそうな男の顔なんて。


えーす……なか、ないで


見てない。
痛みを堪えて、弱々しく微笑む彼女の顔なんて。


だって、自分は間違っていないのだから。
知る必要がない、彼らの関係なんて。

だって、自分は間違っていないのだから。
知る必要がない、目の前で彼女と抱き合う男との関係なんて。

だって、自分は間違っていないのだから。
見ていない、悔しそうに顔を歪める、友人の顔なんて。


だって、


だって、だって、だって――!!



消えないんだ。



手にこびり付いた、あの感触が。


耳の奥にこびり付いた、あの音が。




そんなはず、ない。




「覚悟は出来てんだろうな、クソガキ共」




聞こえない。男の声なんて。




「テメェらの人生、」




見えない。目だけは笑っていない男の顔なんて。




「今日で終いだ」




だって、それを認めてしまったら――