そんなはずはない。
男子生徒は焦っていた。
そんなはずはない。
そんなはずはない。
そんな事が、あっていいはずがない。
必死に自分に言い聞かせて、それでも焦燥感はちっとも拭えなくて。
だって、彼女が悪いのだ。
友人に告白して、フラれた腹いせに殴るから。
友人は頬を真っ赤に腫らしていたし、彼女だって殴ったことを認めたじゃないか。
だから、彼女が悪いのだ。
告白してないなんて嘘をつくから。
告白されたのは自分の方だ、なんて誰が聞いても信じられないそんな嘘をつくから。
だから、自分は悪くない。
どんなに怒鳴りつけても、彼女が主張を変えないから。
どんなに殴っても、蹴っても、彼女が罪を認めないから。
理不尽に殴られた友人の為に、自分たちが彼女を責めた。
たったそれだけだ。
だから、悪くない。
毎日のように追いかけ回して殴ったことも、
毎日のように追いかけ回して蹴ったことも。
彼女の机に傷をつけたのは自分ではない。クラスの女子たちだ。
バケツに溜めた水を彼女に浴びせたのは自分ではない。クラスの女子たちだ。
あぁ、でも。
でも、昨日のアレは。
いつまで経っても認めない彼女に腹が立って。
全て赦して手を差し伸べた友人の手を、彼女が叩き落としたと聞いて目の前が真っ赤になって。
部活だったにも拘らず昇降口まで駆けて、
そこに、囲まれる彼女を見つけて、
決して認めない彼女に苛立って、
”わたし、は……っ、あんな人、好きになったりしない……っ!”
罪を認めるどころか、友人を侮辱するような発言をするから。
”調子に乗ってんじゃねぇ!!”
手に持っていたバットを、
振り上げ、て――
耳の奥にこびり付いた、骨が砕ける、音。
球を打った時とは全然違う、いやな、感触。
必死に歯を食い縛って痛みに耐える彼女を見て、我に返って。
突然現れた大学生らしき男が彼女を抱きしめたのを見て、また憤って。
恋人が、いるくせに。
二股かけようとして、フラれた腹いせに殴って。
何て最低な女なんだ。そう思って。
ご、めん
ごめ、
っ、ごめ……っ!!
聞こえない。
今にも泣きそうな男の顔なんて。
えーす……なか、ないで
見てない。
痛みを堪えて、弱々しく微笑む彼女の顔なんて。
だって、自分は間違っていないのだから。
知る必要がない、彼らの関係なんて。
だって、自分は間違っていないのだから。
知る必要がない、目の前で彼女と抱き合う男との関係なんて。
だって、自分は間違っていないのだから。
見ていない、悔しそうに顔を歪める、友人の顔なんて。
だって、
だって、だって、だって――!!
消えないんだ。
手にこびり付いた、あの感触が。
耳の奥にこびり付いた、あの音が。
そんなはず、ない。
「覚悟は出来てんだろうな、クソガキ共」
聞こえない。男の声なんて。
「テメェらの人生、」
見えない。目だけは笑っていない男の顔なんて。
「今日で終いだ」
だって、それを認めてしまったら――