あちこちから飛んでくる罵声が教室中に響き渡る。
同時にロッカーや机などを蹴る音も混じって、不快な音ばかりが鼓膜を震わせた。
「ったく、煩い奴らね」
「ナミすわぁん! 怖かったら俺の胸に飛び込んできてもいいよ!」
「っせぇな、グルグル眉毛。これ以上煩くすんじゃねぇよ」
「あァ!!? んだとクソマリモ!」
「あぁもう! 煩いわね! 何でアンタたちが喧嘩してんのよ!!」
両手に持った黒板消しでゾロとサンジの頭を殴り付ける。ぼふん、という音と共に黒板消しにこびり付いていた粉が舞い上がった。
「げほっ、がはっ……!」
「ぶほっ、テメ、何しやがる!」
髪についたチョークの粉を払い落としながらゾロが叫ぶ。同じ被害に遭ったサンジは目一杯粉を吸い込んだ所為で未だ咳き込んでいる最中。
辺りに舞った粉を吸い込んだルフィ、リサだけでなく、やらかしたナミでさえも盛大に咳き込んだ。
「おいナミ! 何すんだ!」
「だってコイツら煩いから! ――あぁ、もう! 煩いのよアンタたちも!!」
相変わらず喚き立てる彼らは、常軌を逸しているとしか言いようがない。
彼らからすれば、突然乗り込んできた他校生たちに格下発言をされたのだから無理もないのだが。
その上、ふざけてるとしか思えないやり取りをこうして見せつけられれば、怒りは増していくばかりだ。
「何だよコイツら、さっきから何言ってっか聞き取れねぇぞ。バカなのか?」
「ンだとこの野郎!!!」
何なんだよテメェら!!
いい加減にしろ!!
ふざけやがって!!!
とっとと出てけ!!
呆れたような顔で爆弾を落としたルフィに、怒声は増していくばかり。
あちこちで、がなり過ぎて咳き込んでいる生徒までいる。それでも必死に怒鳴り続けるのだから正気の沙汰ではない。
「とにかくよ、リサをイジメんじゃねぇよ。コイツは俺らの大事な仲間なんだ!」
「ふざけんな!! そいつが悪ィんだろうが!!!」
「そうよ!! いきなり出てきて何なのよアンタたち!!」
「だーめだこりゃ。コイツら聞く耳持たねぇ」
問答無用でおろすか? サンジが問いかけ。そうしたいのは山々だけど。ナミが答える。
「お、やっていいのか!?」
「ダメ」
力こぶを作って満面に笑みを浮かべたルフィを止めれば、ルフィは不満げに唇を尖らせてリサを見た。
「何でだよー、だってずーっとこのままだぞ?」
「でも……暴力ふるったらルフィたちが不利になっちゃうから」
「何だよ、そんなこと気にしてんのか?」
「だって……」
「けどよ、リサちゃん。俺らはアイツをシメに来たんだぜ?」
窓際でこちらをずっと睨み付けている男子生徒を指してサンジが言う。
分かってはいるが、頷くわけにもいかないリサは眉を下げて困った顔をするしかない。
「お前ら! とっとと自分たちの学校へ戻れ! さもないとそっちの学校に連絡して――」
「っせぇなクソ教師が! 今大事な話してんだよ! 黙ってろ!!」
「ひっ、」
一瞬で教師の前に移動したサンジが凄みを利かせて教師を黙らせる。
顔も声も引き攣らせて口を噤んだ教師は、視線を泳がせた先に見つけたこのクラスの担任に目配せして職員室へと走らせた。
それを目の当たりにして焦ったのはリサだけで、ルフィもサンジもゾロもナミも意に介した様子はない。
「み、みんな、あの……」
「ダメだ!」
早く帰った方がいいよ。
そう言おうとしたリサを止めたのはルフィだった。
腕を組み、クラスメイトたちをしっかと見据えるルフィのその顔には迷いの片鱗すらも見当たらない。
ルフィたちの学校に連絡がいくかもしれないのに。
最悪、警察を呼ばれてしまうかもしれないのに。
「俺らはお前を助けに来たんだ!」
「けど……っ、」
「お前は!! 黙って護られてろ!!!」
決然たる表情で声を張り上げたルフィに、またもや生徒たちが黙り込む。
どうして。
悪いのは自分たちの方じゃないか。
「もう独りで頑張らなくて良いんだ、リサちゃん」
どうして。
悪いのはその女じゃないか。
「帰れって言っても帰らないわよ、私たちは」
どうして。
どうして。
「腹括ったんだろうが。お前は黙って見てろ」
どうして。
どうして。
「…………うん」
そんなに堂々としてられる?
「よし! にっししっ」
満足気に笑ったルフィが元凶である男子生徒を振り返る。
「お前、何でこんなことすんだ?」
「、」
「リサが好きなんだろ? 好きな奴に何でこんなヒデェことすんだ?」
何言ってやがる!
そうよ! 勘違いしないで!!
その子が相川君を好きなんでしょ!!
ダンッ!!
ゾロが殴り付けた黒板が大きな悲鳴を上げ、生徒たちは一瞬で青褪めて黙り込んだ。
「フラれた腹いせにしては、悪質よね」
静かになったところで、今度はナミが。
「男の風上にもおけねぇな。レディは護り慈しむモンだ、貶めて傷付けるモンじゃねぇ!!」
サンジが。
「護らせてもらえなかったんだ、か?」
グッと拳を握りしめ、何か言いたげな顔でルフィたちを睨み返す男子生徒に、ゾロが。
顔を歪めた男子生徒の心中を見事に言い当てたことを知り、再び口端を上げる。
「つま――」
「つまり、」
ゾロの声を遮って背後から聞こえた声。
それはとても聞き覚えのあるもので。
絶対に間違えるはずがないもので。
ギギギ、と錆びついた機械人形のように振り返ったリサは、顔を強ばらせて固まった。
「テメェはお呼びじゃねぇてことだ、クソガキ」
こわい
生徒たちを押し退けて教室に入って来た男の、その顔に浮かぶ笑みに。
教室にいた誰もが瞬時に恐怖に駆られた。
「まる、こ」
リサの呟きを聞いた男子生徒――相川健二以外は。