リサは上機嫌だった。
ここ最近、仕事で忙しくて殆ど会話が出来なかったマルコが傍にいてくれた。
それだけで身体の痛みも忘れられる。一瞬だけだが。
一緒に眠ったのなんていつぶりだろうか。
告白する前はよく一緒に眠ってくれた――勝手にマルコのベッドに忍び込んだだけだが――が、想いを告げてからはそれもめっきり減ってしまった。
今日になってマルコの方からやって来てくれたのは嬉しい限りだが、女扱いされていないと現実を突き付けられているようでもあり、気分は複雑だ。
どうしたって年の差は縮められない。ならば、どうすれば見てもらえるだろうか。
和服が似合う兄に頼んで和服に身を包んでみたりもした。七五三と言われたが。
美人な姉たちに頼んで化粧を施してもらったりもした。お前には似合わないと言われたが。
ダイエットをして諸々の肉を落としてみたりもした。抱き心地が悪いと顔を顰められたが。
悉く裏目に出てしまったアプローチに項垂れるリサに、マルコは困ったように笑って言った。
お前は今のままで十分だよい、と。
それが嘘ではないということは、マルコの顔を見ればすぐに分かった。けれど、素直にそれを受け入れることが出来ないのが乙女心だ。
何せ、変わらないということは妹から脱却出来ないということなのだから。リサは溜息を零した。
「痛ッ、」
ズキンと痛む足。湿布を貼りはしたが、痛みは中々引いてくれない。
昨日よりマシになってはいるが、少し重心を置くだけで悲鳴を上げたくなるほどには痛いのだ。
あちこち鈍く痛む身体に顔を顰めつつ、学校へと向かう。
いっそ休んでしまおうかと思うが、そうすると過保護で心配性な兄たちは心配するだろう。下手したらイジメられていることがバレてしまう。
それだけは避けたいのだ。何としてでも。
学校中から標的にされて暴力を受けるより、家族に悲しい顔をさせる方が嫌だ。
だからこそ、逃げるわけにはいかないのだ。
教室に入った途端、あちこちから飛んでくる敵意。やはりクラスメイトからのものが一番強い。
それら全てを無視して席に向かい、傷の増えた机と机の上に置かれた花瓶を見下ろす。
不意にポケットが震え、リサは携帯を取り出した。
『今日は転ばないように気を付けろよ』
絵文字も顔文字もない、短い一文。
けれど、それだけで十分だ。
『うん、マルコも仕事頑張ってね』
緩む頬をどうすることも出来ないままメールを返信し、携帯をポケットに収めると机の上の花瓶を手に取った。
折角綺麗に咲いているのだ、捨てるのは勿体ない。
後ろのロッカーに置き、机同様に傷だらけの椅子に腰を下ろす。
心は酷く穏やかだった。