一週間ぶりに訪れた第二の我が家。
今週は大学のレポート提出やら、人手が足りないと臨時でバイトに駆り出されたりで殆ど自由な時間が取れなかった。
漸くレポートの提出を終えた今日この日、本来ならばシフトが入っているのだが、シフト交代という形で休みをもらった。久々に得た自由な時間。その時間を有意義に使う為に、エースはいくつかの案を上げた。
一、近所に出来た食べ放題の焼肉店へ行く。
二、第二の父、及び大勢の兄弟たちに会いに行く。
三、血の繋がらない弟に会いに行く。
さて、どれにしようか。エースは悩んだ。
焼肉は捨てがたい。給料日まで残すところあと一週間。財布の中を検めれば、諭吉さんが一人に野口さんが数人。
いける。焼肉に行ける。しかも食べ放題。
しかし。エースは思いとどまった。
久しぶりにオヤジに会いに行きたい。兄たちにも会いたい。会いたい。
実の父よりも父だと信じている男だ。会いたくないはずがない。焼肉は捨てがたいが、レポートに追われて二週間も会ってないのだ。
そして三つ目。弟。血の繋がらない弟。モンキー・D・ルフィ。
彼に関して言えば、家が近所だからちょこちょこと会ってはいる。
彼と二人で焼肉に行くのも悪くない。食べ放題なのだから財布の心配をする必要もない。時間内に食べるだけで満足してくれれば、の話だが。
悩みに悩んだエースは一つの答えを出した。
そして、歩き出す。意気揚々と鼻唄を歌いながら、目的の場所へ。
オヤジに会って、兄弟に会って、暇そうな奴がいたら焼肉を奢ってもらう!
そんでもって、次の休みにルフィと焼肉に行く!!
俺って頭いい。スゲェいい。
フフン、フフフンと鼻唄を歌い、スキップまでしながら、エースは第二の父――エドワード・ニューゲートの家へと向かった。
久しぶりに現れた弟に、ラクヨウは満面に笑みを浮かべた。
ドレッドヘアにバンダナ。鼻の下から左右に伸びる髭。そして鋭い目つき。
十人が十人、悪人面と評する彼の笑顔は、しかしながらこの時ばかりは柔らかい。可愛い弟を前にして悪人面でいろという方が無理な話だ。
「お、ラクヨウじゃねぇか! 今日は休みなのか?ラーメン屋」
「今日は定休日。お前は? 随分と久しぶりじゃねぇか」
「漸くレポート提出終わったんだよ」
思い出すだけで死にそうだ。げっそりとした様子で答えるエースに、ラクヨウは声を上げて笑い煙草に火を点けた。
「オヤジは?」
「部屋。今日は調子いいみたいだぜ」
「そっか! んじゃ、俺オヤジに挨拶してくる!」
「おー。俺ァこれからダチと飲んでくっからよ、また今度な」
「おう! じゃあな!」
兄と別れ、父の部屋へと向かう。
途中で出会す兄弟たちと挨拶を交わしながら辿り着いた部屋で、エースは数週間ぶりにその姿を見つけた。
「オヤジ! お、リサもいんのか! 久しぶりだな!」
「あ、エース」
「グラララ! 随分と久しぶりじゃねぇか」
振り返り手を挙げるリサと、その奥で豪快に笑う第二の父、エドワード・ニューゲート。
数十年前、白ひげカンパニーなる会社を設立し、ありとあらゆるコネやその手腕でもって世界屈指の企業へとのし上がった彼は、ここ数年で体調を崩し、養生を理由に現在は息子にその地位を譲って楽隠居している。
表舞台から降りた彼が大人しく『養生』しているかと問われれば、答えは否であるのだが。
その手にある酒瓶を呷り、一気に飲み干した白ひげは数週間ぶりに会う息子に顔を綻ばせた。
彼も中々に悪人面であるのだが、息子を見るその目はひどく優しい。
「レポートは終わったのか」
「おう! 今日提出してきた! もー、ホンット疲れちまった……俺あーいうの向いてねぇ」
うげぇ、と呻くエースに声を上げて笑った白ひげは、目の前に立つ娘の頭を優しく撫でた。
エースから白ひげへと視線を戻したリサは、父の顔を見上げて微笑み一つ頷いてその手を取り、手の甲へと唇を寄せる。
「部屋戻るね、話聞いてくれてありがとう」
「手ェ貸して欲しくなったらいつでも言え、お前は独りじゃねぇ」
「うん」
顔を綻ばせて頷き、リサは部屋を出て行った。
パタンと戸が閉まり、エースはおそるおそる白ひげに尋ねる。俺、邪魔しちゃったか?と。
けれど白ひげはそんな事はないと首を振り、エースを呼び寄せた。
ホッと胸を撫で下ろして父へと駆け寄るエースの裏に尻尾が見えた気がしたのは気の所為だろう。
「リサ、何の話だったんだ?」
「なに、心配するほどのことじゃねぇ。アイツは強ェ奴だ」
何たって、この俺の娘だからな。
グラグラと独特の笑い声を響かせる白ひげに、首を傾げていたエースも笑みを浮かべて頷いた。
「そうだな!」
「気になるなら、あとで声かけてやんな。アイツも喜ぶ」
「分かった!」
自分にとっても彼女は大切な妹だ。
何か悩んでいるのなら全力で力を貸すし、力を必要としていなかったとしても応援し支えてやりたい。
久しぶりに会う父と他愛ない話で盛り上がり、ここ最近の疲れを払拭したエースは、意気揚々と妹の部屋へと向かうのだった。