01


俺と付き合わない?
付き合いません。

間髪入れずに返事をしたのがいけなかったのだろうか。いいや、そんなことはない。
自問自答して溜息を一つ零し呟く。

さて、どうしたものか――と。



「そっちいたか!?」
「いねぇ!」
「あァ!? 見失ってんじゃねぇよバカ野郎!」
「テメェに言われたくねぇよ!!」
「ねぇ、あっちじゃない!?」

怒声が飛び交う廊下の非常階段。手すりを飛び越えて腕の力だけでぶら下がりながら息を潜めた。
遠ざかる声に耳を澄ませながら、そろそろ限界だと訴える腕にグッと眉を寄せる。室外機が姿を隠してくれたのは幸いだった。
外壁に足をかけ、プルプルと震える腕に力を篭めて柵をよじ登る。額にじわりと滲む汗を拭って溜息を零した。

室外機と柵との間に押し込んだスクールバッグを引っ張り出して埃を払い、人気がないことを確認しつつ非常階段を下りていった。
全ての授業が終わった今、教室に戻る必要はないし荷物も靴もここにある。

さっさと帰ろう。

ローファーに履き替えようかと悩んだのは一瞬だ。
追われる身である自分がこの鉄骨階段を革靴で降りるなどという愚行を犯せるはずがない。
靴底がゴム製の上履きの方が音を吸収してくれるだろうと、一縷の願いを篭めて慎重に階段を降り始めた。




人気者がいる。
スポーツ万能で、成績はそこそこ。顔も良いと評判だ。
いい感じにワルで、かといってすぐに暴力に訴えるような人種でもない。
彼の周りには常に人が集まっているし、クラスの盛り上げ役としてクラス委員という立場にもなっている。
友人やクラスメイトたちからは勿論、人懐こい笑顔とひょうきんな性格から、教師たちの受けも良い。授業中は勿論、廊下ですれ違うたびに軽口を言い合うくらいには仲が良い。

そんな男子生徒が、ある日の放課後あられもない姿で廊下を歩いているのを目撃された。
日頃から無造作ヘアと嘯いて寝癖をそのままに登校してくることもあるが、それとは違うのだと分かるほどに乱れた髪。
頬にくっきり残った小さめの手形は、女子から受けたものだと容易に想像できる。

どうしたんだ? 彼の仲間が尋ねた。
殴られた。彼が答える。

殴られた時に爪が引っかかったのだろう。彼の頬には小さな傷が出来ていた。

同じクラスの女子生徒は悲鳴を上げた。顔に傷がついてる!
違うクラスの女子生徒は悲鳴を上げた。酷い! 何があったの!?

彼は答えた。

”告白されて、断ったらキレて殴られた”

いつの間にか彼の傍には多くの友人たちが集まっていて、彼らは頻りに尋ねる。
その相手は誰か。今どこにいるのか。
根掘り葉掘り聞き出そうとする友人たちに、彼は痛む頬に顔を顰めながら滔々と答える。

その時、彼の友人たちは一人の女生徒を敵と見なした。