「あーあ、行っちゃったね」
「寂しくなるわ……」
「またすぐに戻って来るって」
「どうかしらね」
まるで子どものように唇を尖らせてハーマイオニーは眉根を寄せた。
「どうして?」
「だって、あの人がそう簡単に帰してくれるようには見えなかったんだもの」
まさに海賊。悪人面のマルコという男を思い出してハーマイオニーは溜息を一つ零した。
年甲斐もなく怒鳴り合い時には手まで出し合う二人はまるで本当の兄妹のようで、だからこそ何となく気付いてしまうのだ。
「本当、リサの趣味って分からないわ」
しみじみ呟くハーマイオニーの横でロンが思わず噴き出す。
スネイプに聞かれたら間違いなく嫌味三昧となるであろうが、まぁここにいないのだから問題はあるまい。告げ口するような勇者も愚者もここにはいないのだから。
「あの人とくっつくと思う?」
「リサにその気がなくたって、あっちがその気になったら手の打ちようがないわ」
出来の悪い妹を見る兄の目に時折混じる全く異質の視線に気付くことが出来たのは、どうやらハーマイオニーだけのようだ。
ハリーもロンも、妻がいるくせに未だに色事には疎くて困る。口に出して言ってしまえば中身が幼いハーマイオニーの夫は臍を曲げてしまうのだろうけれど。
「スネイプも寂しくなるだろうね」
「今頃悔しがってるわよ」
「どうして?」
「あら、貴方だって昔、私とクラムの仲を疑って悔しがってたじゃない」
「な、何で僕が? 有り得ないよ!」
明らかに動揺しているくせに、口では違うと嘯く。
いい加減、それを認められるようになってくれても構わないのだが、これでこそロンなのだと思うと、どうにも甘やかしてしまう。
何だかんだ言って、ハーマイオニーも今のロンが好きなのだ。
「スネイプも気付いたのかな?」
「きっとこれ見よがしに見せつけたに違いないわ。あの人、見るからに独占欲強そうだもの」
「うわぁ……スネイプに喧嘩売るなんてよくやるよ」
額縁から出ることも出来ない魔法使いなど、恐るに足らずということだろうか。
長年スネイプの陰険さを見せ付けられてきたハリーたちからすれば、今の状態でも十分に怖いのだけれど。
「海賊ってすごい」
スネイプの視線にすら平然と耐えられる人間が、あちらの世界には沢山いるのだろう。
ハリーたちには想像もつかないような世界なのだろうか。興味はあるが、行ってみたいとはどうしても思えない。
「リサ、大丈夫かしら」
「大丈夫さ。言ってたろ? 『幸せになってくる』って」
自分たちには想像もつかないほど恐ろしい世界なのだとしても、そこにリサの幸せがあるのだというのなら。
「次に帰って来るのは何年後かしら」
「子どもが出来てたりして」
声を上げて笑うハリーとロンをじろりと睨み付け、ハーマイオニーは溜息を零した。
どちらともなく、子どもはリサが幸せになるのを見届けてから――つまり、彼女が向こうの世界に戻ってからという暗黙の了解が出来ていたのだが、こうして無事にあちらの世界へ戻ったのだから、そろそろ本気で考えても良いのではないだろうか。今はまだ何もない自身の腹を押さえたハーマイオニーは、親友と笑い合う自身の夫をチラリと見遣って再度溜息を零した。
「僕たちも幸せにならなきゃね」
「あら、まるで今までは幸せじゃなかったみたいな言い方ね」
「今までよりももっと、って意味だよ。分かるだろ?」
無邪気な笑みを浮かべるロンに、もしかして――?などと淡い期待を抱いてしまうのは早合点だろうか。
「さ、行こう」
「ハリー、あとでスネイプの所に行って揶揄って来いよ」
「遠慮しとく。今会いに行ったら、あの人きっと一生顔を合わせてくれないよ」
肩を竦めるハリーにロンとハリーも笑って。
「さ、帰ろう。僕たちの幸せが待ってる」
三人はその場を後にした。