マルコとリサが喧嘩をしたらしい。
厳密には少し違うのだが、サッチの耳に届いたのは『喧嘩』だった。
「で、どうなんだ?」
夕食後、大量の食器を洗う兄弟に問いかけられサッチは片眉を跳ね上げさせた。
洗い終わった食器を拭きながら、つい先ほど食堂での二人を思い浮かべる。
「んー……まぁ、良いんじゃねぇの?」
放っとけ。ひらひらと手を振りながら答えれば、気に入らなかったのか兄弟たちが眉を顰めた。
「何だよ、随分冷てぇのな」
「隊長気になんねぇの?」
「まぁ、なるっちゃなるけどよ……」
気にならないわけではない。
そもそも、この二人の喧嘩といえばガキ臭いことで有名だ。時間、場所問わずギャーギャー怒鳴り合い、時には手や足や魔法が飛び交うもので、それでも食事の時は悪態をつき合いながら並んで食事を取っていた。だからこそ今日のようの口も利かず目も合わさず一緒に食事を取ることをしない二人は奇妙とも言える。いや、奇妙だ。どうしようもなく奇妙だ。
けれど、とサッチは思う。
口を効かない、目を合わさない、近寄らない。この喧嘩は世間一般的に見れば至って普通だ。互いに互いを意識しつつ、それでも自分から話しかけようとはしない。傍から見れば意地を張り合っているようにしか見えない二人の男と女。どこからどう見ても普通だ。
「気になるというより、気に食わねぇ」
「ぶっ」
隣にいたからか、ぽつりと漏らした呟きを耳聡く聞きつけた兄弟が噴き出す。地獄耳め。知らんふりをしろ。
そんなことを考えながら、サッチは大きな溜息を吐き出した。
気に入らない。そう、気に入らないのだ。
マルコとリサが喧嘩をしていることが、ではない。その喧嘩の様子が、だ。
今までのようにガキ臭く怒鳴りあって殴り合っていれば良かった。それならば「まーたやってんのか」と笑っていられた。
気に入らない。全くもって気に入らない。
「シスコンも程々にしねぇと嫌われちまうぜ、隊長」
「うっせー」
くつくつと笑う兄弟の太股に膝蹴りを食らわせサッチは唇をひん曲げた。
隣で痛みに悶絶する兄弟は無視だ。
気に入らないものは気に入らない。
口を利かない、目も合わさない、近寄らない――それなのに互いを意識している。
恋人かっつーの。吐き捨ててサッチは拭き終えた食器を重ねた。
「知ってるか? 隊長」
「あん?」
「人って、変わるんだぜ」
グッ。親指を立てて笑う兄弟が憎らしい。
憎らしいので、拭いたばかりの食器を思い切り投げつけてやった。
食器代はマルコに請求することにしよう。