「用意出来たか?」
「あぁ、問題ねぇ」
飛び交うカモメの鳴き声を聞きながら、マルコとサッチは甲板に立っていた。
サッチ特製の弁当と水を詰めた麻袋を肩に引っ掛けたマルコは、父である白ひげを見上げて口を開く。
「じゃあオヤジ、行ってくるよい」
「あぁ、気を付けろ」
「おう」
単身船を下りて上陸するマルコを、サッチたちは甲板から身を乗り出して見送った。
「気を付けろよー!」
「絶対連れて帰って来いよ!!」
「一人で帰って来たら船に乗せねぇからな!!」
あちこちから飛んでくる声に笑いながら、マルコは答える代わりに拳を突き上げる。
彼らとの約束を違える気など毛頭ない。
「ったく……何年もほっつき歩きやがって」
あの日、リサが突然消えてしまってから既に三年が経過している。
その間ひたすらに迎えに行く方法を探しながら帰りを待っていたが、一向に帰ってくる気配はない。
もしこちらの世界に帰って来たのなら、何かしらの手段でそれを報せるはずだ。それすら無いということは、あちらの世界でのんびりしているということで間違いないだろう。里帰りにしても長すぎる。
「十分待ってやったんだ、もう時間切れだよい」
凶悪面と言われても否定出来ないであろう笑みを浮かべ、マルコはその場所へ向かった。
異世界へ通じる扉なんてものがありはしないが、そこには古くからの伝説が存在する。
島の中央にぽつんと佇む、大きな石のアーチ。人工的に造られたであろうそれは、けれどそのアーチを潜ると人が突然消えるという曰くつきの代物だ。
実際に人が消えたことがあるのだと島の住人たちは言っていたが、それを見た者は現在では誰もいないらしい。
明らかに胡散臭いそれに、けれどマルコたちはそれが正解だと確信を持っていた。
バサバサという羽音が聞こえ、何かが肩に乗った。どこか神聖さを漂わせる真っ赤な鳥は、まっすぐにそのアーチを見つめている。
「お前がそうだって言うんなら間違いねぇ」
けど、万が一違ったら焼き鳥にするからな。
内容に関してか、偉そうな物言いに関してか。明らかに腹を立てたらしいフォークスがその鋭い嘴をマルコのこめかみに突き刺す。
「い゛……っ!」
咄嗟にそこに触れると、ぬるりとした感触。指先には真っ赤な液体。マルコは上機嫌に中空を旋回するフォークスを睨み付けた。
「このクソ鳥……っ!!」
いつか丸焼きにしてやる。
リサを連れ戻す代わりにコイツをあっちに置いてきてやろうか。
袖で血を拭いながらそんなことを考えていると、いつの間にかアーチの元に来てしまった。
再び肩に収まったフォークスを一睨みして、マルコはアーチを見つめる。
「………ここを潜りゃ、あっちの世界に行けるわけだ」
あの野郎、待ってやがれ。
深呼吸を一つして、マルコは麻袋の紐をぐっと握り締めるとアーチに向かって一歩を踏み出した。